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BUCK-TICK ライヴレポート

【BUCK-TICK ライヴレポート】 『バクチク現象-2023-』 2023年12月29日 at 日本武道館

2023年12月29日
@日本武道館

2023年10月19日、ヴォーカルの櫻井敦司がライヴ中に倒れ、脳幹出血のため搬送先の病院で急逝。あまりにも突然過ぎる訃報は国内外のファンを悲嘆に暮れさせ、その悲しみはたやすく癒えるものではない。当初予定されていた年末恒例の日本武道館公演を中止し、新たに“バクチク現象-2023-”と銘打った特別公演を同会場で開催した。ファンにとっては周知のとおり、“バクチク現象”とはメジャーデビュー時や活動休止後の復活時など、節目で掲げてきたライヴコンセプトである。メンバー4人の生演奏と櫻井の歌声、時には映像とも融合させた5人によるステージ。櫻井への愛と敬意にあふれ、メンバー、そしてファンとともに創り上げてきた“BUCK-TICKを続けていく”、という覚悟が伝わってくる、忘れられないライヴとなった。

SEの「THEME OF B-T」が流れる中、今井 寿(Gu)、星野英彦(Gu)、樋口 豊(Ba)、ヤガミ・トール(Dr)が登場。“バクチク現象-2023-”とタイトルが投影され、ステージ後段に浮かび上がったのは、櫻井のシルエットだった。公演の詳細がほとんど明かされていない状況での開催となったが、通常のライヴであれば発言が皆無に近い今井が“さぁ始めようぜ、BUCK-TICKだ!”と叫んだ時点で、異例の内容になることは予感した。1曲目は「疾風のブレードランナー」で、櫻井のライヴ音声が流れ、立ち位置であるセンターには幾筋もの光線が揺らめいていた。星野は《感じるか 愛しいものの気配を》というフレーズに合わせ胸をトントンと叩く。目には見えなくても、櫻井の存在を“感じよう”と呼びかけるかのように。

“アゲていこうぜ!”という今井のシャウトで始まった「独壇場Beauty-R.I.P.-」では、後段が立ち位置である樋口も前へ歩み出て、今井、星野の3者は右へ左へとダイナミックに動き回る。櫻井の煽る声も聴こえ、曲調は盛り上がっていく一方で、その姿がステージにない事実に密かに打ちのめされていく。そんな心中を見透かしたかのように“乗り遅れるなよ!”と今井が叫び「Go-Go B-T TRAIN」が始まり、ここで初めて櫻井の姿が映し出された。その美しさに目が釘づけになり、恍惚と悲しみとが混ざり合った、かつて経験したことのない感情が胸を締めつけていく。過去の複数のライヴ映像をコラージュした映像の中で、妖艶にパフォーマンスする櫻井。モノクロで映し出されていく現在の4人の姿。スクリーン上では5人が共存し、BUCK-TICKとしてパフォーマンスしているのだった。

猫の鳴き声のような音色をギターで奏で、“今日は楽しんでいってください”と今井。「GUSTAVE」では櫻井が猫の化身のような艶めかしい動きでカメラに迫り来る姿が大写しになった。櫻井と今井がツインヴォーカルを執る「FUTURE SONG‐未来が通る‐」では、星野も力強くヴォーカルを担い、櫻井に代わって《サモトラケのニケより美しい》というフレーズで今井のほうへ右腕を伸ばすアクションを見せていて、覚悟のほどが伝わってくる。“あの娘が待ってる、雨にも負けず、風にも負けず、行こう、ブギウギ”との櫻井の声に続き、「Boogie Woogie」ではグルービーなアンサンブルを響かせた。幕開けからここまで、“未来へと進んで行くのだ”というバンドの決意を示した、力強い序盤だった。

一瞬の静寂が武道館を包み、スクリーンにはBUCK-TICKの過去のさまざまな映像が映し出された。始まったのは「愛しのロック・スター」。2023年8月に急逝した盟友ISSAY(DER ZIBET)と櫻井がこの曲をデュエットしている映像が大写しになる。《私は生きている》というフレーズが歌詞の文脈からは異なる意味を帯びて響いてきて、情緒が掻き乱されていく。“ふたりはあちら側で再会しているだろうか?”などと夢想しながら、ただ聴き入り、スクリーンを見つめるほかなかった。

「さくら」ではモノクロで映し出される現在のステージ映像を、桜の花が鮮やかに縁取って飾った。至高のメロディーとアンサンブルで紡がれる鎮魂歌に、身じろぎもせずじっと聴き入るオーディエンス。両手を合わせ、天を仰いで祈る櫻井の姿が大写しになった場面は息を呑む美しさだった。闇の世界へと誘うような、今井のミステリアスなギターインプロビゼーションに続き、「Lullaby‐III」がスタート。樋口のアップライトベースがサウンドに艶と色どりを与えていく。ステージにはロウソクを3本灯した燭台と仮面。続く「ROMANCE」ではそういった小道具を櫻井が駆使し、異世界を魔法のように立ち上げてきたライヴ映像の数々がコラージュで投影されていく。目深に被ったハットから覗く目の輝き、バレエダンサーとの共演で跪き、手を差し伸べる端整な横顔...櫻井のあらゆる細部には美が宿り、場の空気を一変してしまう圧倒的な表現者であったことを再認識させられた。

ラテンのビートを取り入れた「Django!!!‐眩惑のジャンゴ‐」から再びアッパーなテンションに引き上げて、“見ろよイカロス、あれは太陽だ”と囁く櫻井の声から「太陽とイカロス」へ。《悲シクハ無イ コレデ自由ダ》という明るいリフレインが心を震わせる。スクリーンには大空へと羽ばたくような櫻井のシルエットが映し出された。

櫻井によるメンバー紹介からスタートしたのは「Memento mori」。琉球音階を取り入れ祝祭感に満ちたナンバーで、ライヴの定番曲だが、そのタイトルはラテン語で“死を想う”を意味する。《人生は愛と死》と歌詞に刻み、BUCK-TICKの根幹となる死生観を示す曲のひとつである。かつての武道館公演の映像がスクリーンに投影され、現在との境界が曖昧になっていき、《俺たちは愛と死》と歌う櫻井の姿がアップになる。大拍手が鳴り響いたあと、ステージには白煙が立ち込めて次曲「夢魔‐The Nightmare」が始まると、魔境へと足を踏み入れたかのような錯覚に見舞われた。櫻井の立ち位置で上昇し始めた白煙が、まるで人の姿のように見えて、何度も目を凝らした。そのような演出だったのか、或いは幻視だったのか、答えは出ないままだが、そこに櫻井が“いる”と感じたのは事実である。

轟く残響音の中茫然としていると、今井が“今日はありがとうございました”と挨拶して「DIABOLO」を披露。《あなたのその暗闇に 乾杯しましょう 最後の血が涸れるまで》と歌う櫻井の声が響き、虹色に輝くカラフルな照明が会場を包み込んでいく。本編ラストとして相応しい曲だっただけでなく、人間の心の闇をあるがまま受容し、美しい音楽を生み出すことで多くの人々を救済してきた櫻井敦司、BUCK-TICKというバンドのスタンスを体現していたように思えた。

アンコールの声と手拍子が鳴り響き、まず再登場したヤガミは渾身のドラムソロを披露。最後、スティックを天に向かって高く掲げ一打を捧げると、大きな拍手の中、樋口、星野、今井がステージに合流した。ファンが合いの手を入れるように歌う「STEPPERS‐PARADE‐」を明るい一体感の中で披露した後、メンバーひとりひとりによるMCが始まった。

ひとり目の樋口は、集まってくれたファン、来場できなかったファン、スタッフへの感謝を述べた後、1985年に新宿の小さなライヴハウスに5人が立ってスタートしたBUCK-TICKの来し方について語り始めた。“BUCK-TICKはライヴバンドなので、ライヴをして成長してきたと思っています。そして、みなさんと創ってきたと思っています。あっちゃん(櫻井の愛称)は天国に行ってしまいましたが、BUCK-TICKはずっと5人です。これからどんな未来になるか分かりませんが、みんなとこれからもBUCK-TICKを創っていきたいと思っています。ずっと大事にしてきたBUCK-TICKをこれからも一緒に、ともに創っていきましょう。よろしくお願いします”と涙ながらに挨拶した。

ヤガミは“不良だった弟がこんな立派なコメントをするとは思いませんでした”と切り出して笑いを誘ったが、“続けていったほうがいいのか、辞めたほうがいいのか悩みました、個人的には”と躊躇いがあったことを吐露。“こうやってファンのみなさんがいるので、BUCK-TICKを継続させていただきたい。どんなかたちになるか分かりませんが、来年は新作が出ます。星野と今井の脳内にはまだ何千曲と入っている。天才人間なので。俺と弟は努力のミュージシャンなので練習します。これからもよろしくお願いします。“第二期のBUCK-TICK”ということで”とコメントした。

星野は“今回新しい一歩を踏み出すことができました。不安の中、この武道館に足を運んでくれて本当にありがとう...不安だったよね?”とファンに温かく寄り添い、“みんな不安でした。でも、パレードは続きます。もう一度言います。パレードは続きます、この5人で”と力強く断言した。

“人生は容赦ねぇな。面白いぐらいドラマチックで...でも、笑えねーよ。何、死んでんだよ。なぁ?”とぶっきらぼうな口調で語り出したのは今井。“いいよ、まぁ。大丈夫。続けるからさ。一緒に行こうぜ! あっちゃんは死んだけど、別にそれは悪いことじゃありません。当たり前のことです。だから、悲しいけど、号泣してもいいけど、苦しまないでください。生きていたということを、存在していたということを大事にしてください”とファンに語りかけていく。今井の声は震えているように聴こえた。

“あっちゃんはまだ天国にはいません。あのへんに、ずっと一緒にいると思います”と今井が客席を指さすと、星野もそこかしこを指さしていた。アルバム制作に言及すると、“最新が最高のBUCK-TICKなので期待してください”ともコメント。“でも、覚悟しててください。次は3人になります。それでもパレードは続けます。次は2人、次は1人になります。たぶん最後のひとりは俺かな? それでも続けるので、みんなを連れて行きたいと思ってます。今日12月29日はBUCK-TICKにとってハレの日です。乾杯!”と手でグラスを象り高く掲げた。“みんなも帰りに乾杯してください。BUCK-TICKの話、あっちゃんの話をしてください。PEACE!”と締め括ると、「ユリイカ」をライヴ映像とともに披露。櫻井の映像を左右からメンバーのステージ映像で囲い、5人がひとつになっていく。“みなさん、自分を愛しましょう”という櫻井の言葉に続いて「LOVE ME」が始まる...かと思いきや、ハプニングにより演奏が映像とずれてしまい、解消されないまま演奏を続行するという事態に陥った。いったん止めて冒頭からやり直すか否か、メンバー同士顔を見合わせながら苦笑いしている様子は微笑ましく、涙の絶えないライヴにおける晴れ間のような、束の間の笑いをもたらしていたのは間違いない。“ありがとうございました、また会いましょう!”と画面の中で櫻井は挨拶し、投げキッスとお辞儀をしてステージを去っていった。

“ここにいる子どもたちへ”という櫻井の言葉から届けられたのは「COSMOS」。《感じるかい僕の声 感じてる それは愛》というフレーズが姿を見せず声だけで4人と共存している櫻井の現状とシンクロし、胸を締めつけられる。ファンとの合唱で曲を締め括ると、続いては最新アルバム『異空‐IZORA‐』の最後に収められている「名も無きわたし」へ。対象を限定しない博愛、森羅万象を表現する作詞家としての極みに櫻井が達した重要曲である。一輪の白い花を映したスクリーンには、やがて色とりどりの花畑へと変貌し、最後にはもう一度一輪の白い花へ。《ありがとう 愛を 陽だまりの日々を》と感謝を歌う櫻井の声が、慈雨のように心に染み渡った。

ダブルアンコールの「New World」は“行こう、未来へと!”という櫻井の言葉からスタート。歌声は聴こえたが、スクリーンには現在の4人のライヴ映像だけが投影され、櫻井の立ち位置で揺らめいていた光は、もうなかった。それが私たちの生きる“新しい世界”だと受け止めるのはあまりに酷だったが、“それでもBUCK-TICKを続けていく”と決めた4人の覚悟を痛いほどに感じた。大拍手の中、音を止めるのを避けるかのように、アツく掻き鳴らされ続けた演奏。“ありがとう、また会いましょう!”と今井が挨拶し、メンバーはステージを去った。

会場が暗転すると、スクリーンにはデビューから現在に至るまでの映像が時系列でコラージュされて映し出されていき、“2024年12月29日 日本武道館”とライヴ告知が映し出されるとどよめきが起きた。BUCK-TICKが4人になっても5人として続いていくことを嬉しく思う気持ちと、櫻井の不在という埋めようのない穴を実感したことによる傷心と、正直に言えばそのふたつがないまぜになったのがライヴ終了後の率直な想いだった。これからどのようなかたちでバンドが続いていくのか、未だ分からないことばかりである。それでも、悲報から2カ月余りでこのようなステージを創り上げ、未来を示したBUCK-TICKというバンドの胆力のようなものには心底驚嘆し、尊敬の念を新たにしている。櫻井への底知れぬ大きな愛がなければ不可能だったに違いない。櫻井敦司は4人とともにいる。BUCK-TICKは5人で続いていく。今井のMCに寄せてさらに言えば、メンバーの姿がいつの日かひとり、またひとりと見えなくなっても、BUCK-TICKは続き、その音楽は永遠に残っていく。舵を切った新航路の新たな一歩となる重要な一夜の模様を、同時代を生き、ここに書き記すことができたことを光栄に思っている。

撮影:田中聖太郎/取材:大前多恵

BUCK-TICK

バクチク:1987年にメジャーデビューを果たし、以降メンバーチェンジすることなく、日本のロックシーンの第一線で活躍し続ける。不動であり孤高であるその姿は、後続するアーティスト達にも多大な影響を及ぼしてきた。89年にリリースされた3rdアルバム『TABOO』でチャート第一位を獲得、デビュー後わずか2年の間に日本武道館、東京ドームと席巻し、名実共にトップアーティストの仲間入りを果たす。その後も独特なポップセンスとダークな世界観を深く掘り下げていく一方で常にその時代の先鋭的な要素を積極的に取り入れ、まさにBUCK-TICKでしか成し得ない独自の音楽性を提示しながらも、今なお進化し続けている。

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