自分がBUCK-TICKのライヴを観たのは確か1991年の『狂った太陽 TOUR』が最初で、そこからほぼ毎年...というわけではないけれども、ありがたいことにアリーナから小さなライヴハウスまで数えきれないほどの公演を拝見させてもらってきたが、今回の配信ライヴ『ABRACADABRA LIVE ON THE NET』にはこれまでとは違った感動があった。もちろん彼らのライヴには毎回圧倒されてきた。近いところで言えば、一昨年の『BUCK-TICK 2018 TOUR No.0』では「ゲルニカの夜」に代表されるBUCK-TICK流の反戦メッセージにグッと来たし、昨年行なわれたマニアックな選曲でのライヴ『ロクス・ソルスの獣たち』ではそのアイディアとセンスに唸らされた。しかし、今回はもっと根源的な感動と言ったらいいだろうか。今、ロックバンドがやるべきことを、BUCK-TICKは彼らならではの音、彼らならではの言葉で堂々と披露した。その姿勢に素直に感服させられたのだと思う。
19時から始まった配信はまず1時間にも及ぶメンバー5人のインタビューからスタート。過去WOWOWのライヴ番組だったかで同様の構成があったように思うが、彼らはライヴのMCで新作について長々と説明するタイプのバンドではないからして、こういう趣向は大歓迎。決して饒舌に語る人ばかりではないけれど、だからこそメンバー5人が制作背景や近況について話す機会は貴重でもある。オーディエンスが比較的リラックスして臨める配信ライヴ向きの演出であり、そのあとのライヴへの期待を膨らますに十分なものであった。20時を少し回った頃、「PEACE」に合わせて流れる映像SEとともにメンバーがステージへ。当OKMusicでのニューアルバム『ABRACADABRA』のレコメンドに“本作で中期The Beatlesを思い浮かべた”という記述があったが、ヤガミ・トール(Dr)の衣装は『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』のジャケットでThe Beatlesのメンバーが纏っていたコスチューム風。過去にも似たような出で立ちの彼を見た記憶もあるので、それはたまたまだったのだろうが、そのレコメンドでライターの大窪由香氏が指摘されていた『ABRACADABRA』と中期The Beatlesとの奇妙な符合を思い出す。
電子音を取り入れつつもラウドに迫り、それでいて歌メロはちゃんとポップな「ケセラセラ エレジー」。ノイジーで重いインダストリアルなサウンドながらダンスビートが支配する「URAHARA-JUKU」。新しい要素を打ち出しつつ“らしさ”を残すのか? 新機軸の中にも“らしさ”が滲み出るのか? 耳馴染みは薄い新曲ではあるものの、そこに確かに存在するBUCK-TICKとしか言いようがない感触がモニターからも伝わってくる。事前のインタビューで今井 寿(Gu)が“コロナ前の通常のテンションで”と語った通り、5人のパフォーマンスもこれまでのライヴと何ら変わらないようにしか見えなかった。
2曲を終え、ここで“ハロー、みなさん元気? 楽しんでください。ABRACADABRA...”と櫻井敦司(Vo)がMC。前述の通り、ステージ上で長々と語る人ではないだけに、これくらい短い声がけもいつも通りなのだが、客席からまったくレスポンスがないのは観ていて相当につらい。無観客配信ライヴを観たのはこの日のBUCK-TICKが初めてではないし、どうしようもないことだと頭で理解していても、あの静寂にはまったく慣れない。落ち着かなくて、本当にモヤモヤする。観ているこちらがそうなのだから、メンバーは余計にそう感じていたのではないだろうか。
それなのにもかかわらず、堂々としたステージングは続いていく。以後、「SOPHIA DREAM」「月の砂漠」「Villain」「凍える Crystal CUBE ver.」と、アルバム『ABRACADABRA』の曲順通りに楽曲を披露。特段変わった趣向を取り入れるでもない、いつものBUCK-TICKのパフォーマンスであったことに安堵を覚える(今井が表面に“B-T”の文字があしらわれた黒いマスクを着用したり、「舞夢マイム」で櫻井が黒いベールを纏ったりと、強いて言えばコロナ禍を意識させるようなものもあるにはあったが、あのふたりはちょくちょく被りものを出すので、あれはとりわけ珍しい代物ではない)。後半は、得意のミディアムメロディアスナンバーから一転、グラムロック風のギターリフとビートが冴える、星野英彦(Gu)作曲の「ダンス天国」から「獣たちの夜 YOW-ROW ver.」「堕天使 YOW-ROW ver.」、そして「MOONLIGHT ESCAPE」と、タイプこそ異なるものの、いずれも踊れるナンバーが続いていく。こうなって来ると、俄然存在感を増すのが、ヤガミとともにバンドのグルーブを司る樋口 豊(Ba)である。ステージ上手後方のポジションでゆったりと身体全体を揺らしながらベースを弾く樋口=ユータは、BUCK-TICKのスタビライザーのようだ。ヤガミ&樋口のリズム隊がボトムを支え、奔放な今井のギターと、それとは対照的にスタンダードなカッティングとストロークで持ち場を堅持する星野。同期、外音は使用しているものの、BUCK-TICKサウンドは4人の強固なアンサンブルで構成されていることを改めて知らしめるような後半であった。
この日のハイライトは間違いなくラス前の「ユリイカ」であったと思う。アルバム『ABRACADABRA』のレコーディングはコロナ禍での緊急事態宣言で1カ月以上に渡って中断。「ユリイカ」はその間に新たに作ったものだという。しかも、作曲者の今井曰く“最初はヘヴィで暗めな曲を作っていたが、それをスカっとしたい”ということで、急きょ明るく、ポップなR&Rを作った。櫻井はこの曲を指して“僕たちにはこれくらいのことしかできませんが、呪文を唱えましょう...みたいな”と語っていたけれども、その姿勢が音やパフォーマンスにも表れていたことに胸を熱くした。ヤガミが“気合い一発じゃないとできない原点的な曲”と言ったが、確かにその通りで、素人目にも複雑さは感じられない。歌詞もサビでは《LOVE! LOVE! LOVE! LOVE! LOVE!/YEAH! YEAH! YEAH! YEAH! YEAH! PEACE!》のリフレインという、至ってシンプルなスタイルだ。ただ、そこがひたすらに素晴らしい。エッジの立ったギターサウンドと鋭角的なリズム。そして、“LOVE&PEACE”と“YEAH”。究極的に突き詰めていけばロックバンドにはこれしかない。それこそが聴く人の心を揺さぶるのである。先の見えないご時勢において、BUCK-TICKはあまりにも真っ当にそれをやった。ロックバンドがロックバンドとしてやるべきことをしっかりとやり切る潔さ。これを見て感動しないわけはない。メジャーデビュー33年目。日本のロックシーンの先頭を走り続ける貫禄、矜持と併せて、トップバンドとしての責任感のようなものを強烈に感じた配信ライヴであった。
撮影:田中聖太郎/取材:帆苅智之
BUCK-TICK
バクチク:1987年にメジャーデビューを果たし、以降メンバーチェンジすることなく、日本のロックシーンの第一線で活躍し続ける。不動であり孤高であるその姿は、後続するアーティスト達にも多大な影響を及ぼしてきた。89年にリリースされた3rdアルバム『TABOO』でチャート第一位を獲得、デビュー後わずか2年の間に日本武道館、東京ドームと席巻し、名実共にトップアーティストの仲間入りを果たす。その後も独特なポップセンスとダークな世界観を深く掘り下げていく一方で常にその時代の先鋭的な要素を積極的に取り入れ、まさにBUCK-TICKでしか成し得ない独自の音楽性を提示しながらも、今なお進化し続けている。