水の中を泳ぐ魚の情景描写とその子が浮かんで。

空白ごっこ
水の中を泳ぐ魚の情景描写とその子が浮かんで。
2023年11月8日に“空白ごっこ”が1st Full Album『マイナスゼロ』をリリースしました。今作には、「go around」「ゴウスト」「乱」「色鯉」「羽化」「サンデーミュージックエモーション」「come around」という新曲7曲に加え、すでに収録が発表されている既発曲を含めた全13曲が収録されております。 さて、今日のうたコラムでは“空白ごっこ”のセツコによる歌詞エッセイを3週連続でお届け。今回は第2弾です。綴っていただいたのは、収録曲「 色鯉 」にまつわるお話です。大切なひとにとって<僕じゃダメだとわかってしまう>。それでも、そのひとと共存して生きていきたい。そんな想いの込められた歌詞。エッセイと併せて受け取ってください。 今年の夏、友達から「仮になんだけど、死んでしまったらどうしよう」と連絡が来ました。その時の話とその子のことを歌詞に書いたのが色鯉です。 コミカルな話をするのが得意な面白い人で、破天荒の人騒がせタイプだけど死ぬとかどうとかそんな話はしないから結構動揺しました。しかもお昼の2時にってのがやけにリアル。 人がたまに当たってしまうちょっとした精神の揺らぎは見慣れているので持っていかれないのですが、これはそういうのじゃないなと思ってすぐに電車に乗りました。 長年の付き合いの中で思うその子の難しいところは、SOS的な連絡は来るものの直接的に援助をしようとすると必ず拒否してくるところです。 その日は久々に、しかも今までで一番ドキッとする連絡が来て一気に冷や汗をかきました。居ても立っても居られなくて勝手に電車に乗ったものの、許可を取っていなかったので「そっちに行こうか?」と連絡したんですがやっぱり断られました。 2、3年前にも、遊ぶ約束をした日に待ち合わせのファミレスに行ったら死にそうな顔をしていたことがあって、事情があまり良くなかったので原因を取り除こうとしたのですが「こんなんだって良い部分もあるから」と断られて特に何もできず。そういうことが何回かあって、その度に立ち入らせてくれなくての繰り返し。 私の好みや性格はその子の影響を半分くらい受けていて、特に思い入れが強い人です。友愛に加えて敬愛もあるし本当に素敵な子だから失いたくないけど、近づこうとすればするほど離れていっちゃう気がします。 「色鯉」は観賞用の綺麗な鯉のことを言うのですが、そういう池の中の優雅な鯉みたいにいつの間にかすり抜けていくし、と思ったらぽっと出のやつに寄り付いて苦しそうだし、私は私で選ばれないし頼られないから、その子にとって自分って何の意味があるんだろうと長く悩んだ時期がありました。 一人で抱えている辛いことも、愛情や恋っぽい幸福が欲しいということも、友人機能である私が提案する代替案では絶対に解決できないところがあって私じゃダメなんだろうなともどかしかったです。 今回ばっかりは私の不安を解消するというわがままとして、何回か格闘したのちに「寺を見に行かないか?」と提案をしたら物珍しさに引っかかって出てきてくれました。出てきたその子は夏の揚々とした感じを全て塗り替えるくらい暗かったですし、えへえへ声だけ笑っては目が全く笑わないので怖かったです。 寺を見た後、駄菓子買ったり安すぎるカラオケ屋でぐったりして一日過ごしました。そういうことがあった数日後にちょうどまだ仮タイトル状態の「色鯉」の歌詞を書くことになって、軽やかなキーボードとガムシャラにピッキングをしているギターが合わさったアップテンポなトラックに対して水の中を泳ぐ魚の情景描写とその子が浮かんでこの歌詞ができました。 「大事な友人だからこそ頼れない」とその子に言われたことがあって、なんだかちょっと寂しかったんですけど気持ちは分からなくないし、私が連れ出す場所じゃ息ができないような人もいると思います。年々良くはなってきているから共存を目指してゆっくり見ていこうと考えています。 会った翌々日くらいに恋の話とかされました。はあ。元気になってよかったです。 <空白ごっこ・セツコ> ◆紹介曲「 色鯉 」 作詞:セツコ 作曲:針原翼 ◆1st Full Album『マイナスゼロ』 2023年11月8日発売 <収録曲> 1.go around 2.ゴウスト 3.乱 4.ゼッタイゼツメイ 5.色鯉 6.びろう 7.羽化 8.ラストストロウ 9.サンデーミュージックエモーション 10.かみさま 11.ファジー 12.サンクチュアリ 13.come around