『フジフレンドパーク』の初開催から9年、フジファブリックの山内総一郎(Vo&Gu)が念願だったというくるりとの対バンがついに実現した。しかも、浅からぬ仲であるにもかかわらず、意外なことに東京でのくるりとの対バンは初めてなんだそう。だからこそ、山内はアンコールの直前に快哉を叫んだわけだ。“歴史的な一日に、みなさんよく来てくださいました!”と。
同公演はタイトルでも謳っているとおり、フジファブリックが友達のアーティストを迎え、開催する2マンライヴ。2019年と20年は開催しなかったため、8回目となる今回は、東京公演のくるり、福岡公演はフレデリック、大阪公演は緑黄色社会を迎え、それぞれに見応えある全3公演を開催したのだが、中でもくるりとの対バンが、山内はよっぽど嬉しかったのだろう。“正気じゃいられないですよ、今日は。リハから本番まで、僕は涙があふれていました”と語った彼の感激は、この日のアツいパフォーマンスからもしっかりと感じ取ることができた。なぜ、山内はくるりとの対バンがそこまで嬉しかったのか? 歴の長いフジファブリックのファンならご存じだとは思うが、それについては後述する。
■ くるり ■
一方のくるりは“久しぶりに対バンに呼んでもらったってことでやって参りました。淡々と曲を演奏します”と岸田 繁(Vo&Gu)が言いながら、その岸田がラップも交えるくるり流のポップなR&Bナンバー「琥珀色の街、上海蟹の朝」から代表曲とレア曲を絶妙に織り混ぜた全8曲をストイックという意味で淡々と、しかし、演奏にはしっかりと熱を込めながら披露。
“新しい曲をやります”と岸田がコードをかき鳴らしながら演奏になだれ込んだピースフルなロックナンバー「愛の太陽」は、ドンタッタと三拍子で鳴らすドラムの力強いキックとスネアのリズムを、グルーブを作る隠し味として利かせたところが心憎かった。岸田がエレクトリックシタールを弾きながらスタンディングのフロアーを揺らした「Liberty & Gravity」は、サイケとファンクと日本の音頭がひとつに溶け合ったくるり流のプログレナンバーなんて印象も。
フジファブリックが10年7月17日に山梨・富士急ハイランドコニファーフォレストで開催した『フジファブリック presents フジフジ富士Q』で、フジファブリックの「銀河」を一緒に演奏した時の裏話をはじめ、岸田と佐藤征史(Ba&Vo)が軽妙なトークを繰り広げる曲間のMCでは、彼らとの思い出の数々も飛び出した。この日、楽屋で談笑している時に最近、運転免許を取得したことを山内にびっくりされたと語った岸田の“車にはウーハーを積んだんですか?”と山内から訊かれたから、まだと答えたら“頑張って積んでください!”と言われたという言葉に笑った人は山内同様、くるりの大ファンに違いない。
そのまま“そんな曲です”(岸田)と《俺は車にウーハーを》という歌詞を持つ「ハイウェイ」を絶妙のタイミングで披露。サポートギタリストの松本大樹が奏でるスライドギターも含め、往年のウエストコーストロックを連想させるバンドサウンドが心地良い。
最後を飾ったのは、くるりのバラードの名曲「Remember me」。The Beatlesを思わせる王道のアレンジで、曲の良さをストレートに、かつダイナミックに聴かせる演奏は佐藤がファルセットで加えるハーモニーも聴きどころ。さっきまで手を振ったり、体を揺らしたり、飛び跳ねたりしていた観客がこの時ばかりは曲が持つ叙情にじっと聴き入る光景を見ながら、バラードでステージを締め括る、くるりの堂々たる姿に今年メジャーデビュー25周年を迎えるバンドの円熟を感じずにいられなかった。
■ フジファブリック ■
対するフジファブリックは金澤ダイスケ(Key)が奏でるクラビネットの音色が印象的な「東京」から演奏をスタート。“東京!”と観客を煽るように山内が声を上げると、サビでは観客が一斉に手を横に振り、見事なワイプでバンドを歓迎する。そこに「楽園」をつなげ、ファンキーな曲の連打でフロアーを揺らすと、山内は力強い歌声を響かせ、いつも以上に逞しい姿をアピールしていく。
“くるりのみなさんに出演してもらえて嬉しい!”と快哉を叫んだ山内は、“岸田さんの車にぜひともウーハーを積んでもらいたい(笑)”と岸田が張った伏線を回収することも忘れない。そして、“もはやジンクスと言ってもいいのでは。我々がテーマ曲をやると、日本が優勝するんです。次回もぜひ!(笑)”と侍ジャパンのWBC優勝に言及してから、J-SPORTS『2023 WORLD BASEBALL CLASSICS』の中継テーマソングとして書き下ろした「ミラクルレボリューションNo.9」を披露。演奏前に加藤慎一(Ba)がレクチャーした振り付けを観客も一緒に踊りながら、オリエンタルな魅力もあるダンサブルなロックナンバーでフロアーを盛り上げると、金澤と加藤がウッ! ハッ!とコーラスを加える「LET’S GET IT ON」を畳みかける。まるでくるりの「Liberty & Gravity」に呼応するように演奏したフジファブ流キテレツ・プログレ・ファンク・ナンバーにフロアーがさらに揺れる。そして、ここまであえてギターの手数を控えていたと思しき山内はこのタイミングで、ここぞとばかりにアーミング、スウィーピング、トレモロピッキング、チョーキングといったテクニックを駆使して、エモーショナルなギターソロをキメたのだった。
いつになく攻めたセットリストに少々面食らったが、“変な曲が続いてますけど、大丈夫ですか?”(山内)と観客に尋ねるくらいだから、バンドにもその自覚はあったのだろう。
“くるりが大好きです!”と改めて言った山内は、くるりが99年にリリースした1stアルバム『さよならストレンジャー』を聴き、めちゃめちゃカッコ良いと思ったこと、以来ずっとくるりの大ファンであること、そして、自分がヴォーカリストとしてフジファブリックを続けていこうと固めた決意に対して、くるりのメンバーに背中を押してもらったことなどを語った。
“恩義を感じているというか、特別な思いのあるバンドがくるりなんです。道しるべみたいな存在だと勝手ながら思っています。フジファブリックがこうしてバンドとしていられるのは、くるりのみなさんのおかげです”(山内)
そして、山内がサポートギタリストとして、くるりのツアーに参加した時、アンコールで急に何か歌えと岸田から無茶振りされ、作りかけていた「普通II(仮)」という曲を歌ったところ、いい曲だと言いながら岸田に抱きしめられ、音楽をやっていってもいいんだと思えたというエピソードを語ってから、“その「普通II(仮)」を演奏します”と「ECHO」を披露。志村に語りかけているようにも思える歌詞はもちろん、胸を焦がすようなメロディーがファンの間でも特に人気の高いバラードに、そんな秘話があったとは。激しい感情を迸らせながら、山内が弾いたギターソロで曲を締め括ると、それまで身じろぎもせずに耳をそばだてていた観客が堰を切ったように拍手喝采する。
その熱気のままなだれ込んだ後半戦は、「徒然モノクローム」「星降る夜になったら」とストレートな演奏に巧みな技を詰め込んだ2曲をつなげ、観客のアクティブな反応を引き出していく。そして、“最高の『フジフレンドパーク』になりました。大成功です!”と山内に加え、金澤も轟音のギターを鳴らした「破顔」の白熱した演奏で観客を圧倒するように本編が終わると、アンコールでは即興のブルースセッションからくるりとフジファブリックの共演が実現!
くるりの「ロックンロール」、フジファブリックの「Sunny Morning」。もちろん、「Sunny Morning」は前述の『フジファブリック presents フジフジ富士Q』でフジファブリックがくるりと演奏した曲だ。くるりの岸田と佐藤、フジファブリックの山内、金澤、加藤の5人が重ねるハーモニーを聴きながら、山内が言った“歴史的な一日”の意味を噛みしめたのは、筆者だけはなかったはずだ。
撮影:森好弘、百恵/取材:山口智男
フジファブリック
フジファブリック:2000年、志村正彦を中心に結成。09年に志村が急逝し、11年夏より山内総一郎、金澤ダイスケ、加藤慎一のメンバー3人体制にて新たに始動。普遍性と抒情性、キャッチーなメロディーとエネルギーあふれるサウンドで独自の世界観を放つシーン屈指の個性派ロックバンド。「銀河」、「茜色の夕日」、「若者のすべて」などの代表曲を送り出し、『モテキ』TVドラマ版主題歌、映画版オープニングテーマとして連続起用された。数多くのアニメ主題歌も担当。18年には映画『ここは退屈迎えに来て』主題歌、そして劇伴を担当。19年にデビュー15周年を迎えアルバム2作を発表。同年10月に大阪城ホール単独公演を大成功させた。21年2月にシングル「楽園」、3月に11枚目となるアルバム『I Love You』を発表し、11月にダブルタイアップシングル「君を見つけてしまったから/音の庭」をリリースする。
くるり
1996年9月頃、立命館大学(京都市北区)の音楽サークル『ロック・コミューン』にて結成。98年10月にシングル「東京」でメジャー・デビューし、99年4月にメジャー1stアルバム『さよならストレンジャー』をリリース。以降、コンスタントに作品リリースを続け、03年には映画『ジョゼと虎と魚たち』の全編に渡る音楽監修を務め、10月にテーマ曲「ハイウェイ」を収録したオリジナル・サウンドトラック『ジョゼと虎と魚たち』を発表。05年9月、京浜急行電鉄テーマソングとしてTVCMで使用された16thシングル「赤い電車」を発売。また、同し年には岸田繁(Vo)、佐藤征史(Ba)がCocco、堀江博久、臺太郎とともにSINGER SONGERを結成。デビューシングル「初花凛々」やアルバム『ばらいろポップ』を発売するなど話題を集めた。06年7月、初のベストアルバム『ベスト オブ くるり/TOWER OF MUSIC LOVER』を発表。さらに07年6月には、邦楽ロックバンドとしては史上初の試みとなったウィーンレコーディングを敢行し、パリでMix作業を行なった7thアルバム『ワルツを踊れ Tanz Walzer』を発表。同年より、くるり主催の野外フェス『京都音楽博覧会』をスタートさせる。翌年には第2回目が開催され、今や夏に欠かせない人気の野外イベントとなっている。09年2月リリースのシングル「三日月」が初のドラマ主題歌に起用され、6月にアルバム『魂のゆくえ』を発表。10年5月にキャリア初となる歌詞集『くるり詩集』を上梓し、9月に全曲国内レコーディングで制作されたアルバム『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』をリリース。11年には映画『まほろ駅前多田便利軒』や『奇跡』に楽曲を提供し、6月に自身2作目となるベストアルバム『ベスト オブ くるり -TOWER OF MUSIC LOVER 2-』を発表した。12年3月に石川さゆりのオファーを受け、「石巻復興節」を制作。同年7月にはアルバム『坩堝の電圧』(12年9月発売)の先行シングル「everybody feels the same」(12年8月発売)のリリースを記念し、8年ぶりとなるフリーライヴ『QURULI FREE LIVE at YOYOGI 2012~everybody feels the same~』を行なった。13年10月に「Remember me」、12月に「最後のメリークリスマス」とシングルを発表。そして、デビュー15周年となる14年は、全47都道府県のライヴハウスを巡るツアー『DISCOVERY Q』を実施。また、同年10月公開の映画『まほろ駅前狂騒曲』の主題歌に新曲「There is (always light)」が起用されることが発表し、同曲も収録したアルバム『THE PIER』を9月にリリース。