序盤のMCで“光栄かつ、なんで俺たちが呼ばれたのか分からないままきてる(笑)”とくるりの岸田繁(Vo&Gu)は言っていたけど、やっている音楽は違っても、オルタナティブな感性とともに歌心を追求しているという共通点を考えれば、これほど観応えあるカップリングはなかったはず。もっとも“きのこ帝国では「海と花束」がダントツで好き”とも言っていたことを考えれば、前掲の発言は照れ隠しだったんじゃないか。11月11日にメジャー1stアルバム『猫とアレルギー』をリリースしたきのこ帝国がくるりをはじめ、多彩な対バン相手を迎え、全国7カ所を回ったツーマンツアー。そのファイナルとなる東京公演。
後輩に胸を貸すかたちで露払いを務めたくるりはこの夜、新曲を含め、ブルージーだったり、パワーポップだったり、ビートルズ風だったりするストレートなロックナンバーをテンポ良く並べ、エレキギターが大音量で鳴る心地良さと、ほのぼのとした歌心で客席を魅了した。唯一の例外は民謡と昭和歌謡と行進曲がひとつに溶け合ったファンクナンバーの「Liberty&Gravity」。プログレ風の演奏が作る熱気とともに彼らが持つエキセントリックな魅力を大いにアピールしたのだった。
一方、きのこ帝国は1曲目の「足首」から「YOUTHFUL ANGER」「海と花束」と立て続けにギターの爆音を轟かせ、観客の度肝を抜いた。そして、そこから一転、あーちゃん(Gu)がピアノを弾いた「怪獣の腕のなか」他、新作からの3曲では、たおやかな佐藤千亜妃(Vo&Gu)の歌と佐藤、あーちゃん、谷口滋昭(Ba)、西村“コン”(Dr)の4人が必要最小限の音数の中で織りなすアンサンブルの妙をじっくりと聴かせ、新作における変化をアピール。序盤、轟音に度肝を抜かれた観客が、今度はうっとりと新曲に聴き入っている光景はなかなか壮観だったが、何と言っても圧巻はインディーズ時代の「夜が明けたら」。和んだ空気をピーンと張り詰めた緊張に変えた、痛いほど胸に染みる切なさと佐藤の絶唱にそこにいる誰もが心を奪われたはず。
『猫とアレルギー』を引っ提げてのツアーを来春に控え、この日のセットリストは新作も含めたバンドの集大成を意識していたのかもしれない。「東京」他の2曲で作り出した躍動の延長でアンコールを締め括った新作からの「ありふれた言葉」――眩い光の中で演奏した、きのこ帝国の新たな所信表明は、さらなる前進を大いに期待させるものだった。