Uta-net

ライブレポート

検索

メニューを開く

LIVE REPORT

DIR EN GREY、PIERROT

【DIR EN GREY、PIERROT】 『ANDROGYNOS』 2017年7月7日 at 横浜アリーナ

2017年07月07日
@横浜アリーナ

“ANDROGYNOS”とは“男女両性の特徴を持つ”という意味で、そこから転じて“性の差異を超えて自由に考え行動しよう”という考え方だということだが、このふたつのバンドのジョイントライヴとして実に上手いタイトルを付けたものだと思う。PIERROTとDIR EN GREY。ともにヴォーカル、ギター2本、ベース、ドラムスの5人編成。所謂ビジュアル系と呼ばれるシーンから同時期にメジャーデビューしており、90年代後半に音楽シーン全体を盛り上げた存在だ。ライヴにおいては一見、観客を突き放すようなパフォーマンスを展開するところも似ている。しかしながら、(少なくとも今となっては)明らかにその音楽性は異なり、しかも一方はある時、突然その歩みを止め、もう一方は自らの持ち場を堅持し続けた。そんな容姿や出自は近いようで本質は遠い2バンドが──それゆえにここまで交わることのなかった同士が、同じステージにて邂逅するというのは、まさに両性具有的なライヴイベントであり、差異を超えて自由に行動しようという意思の感じられるタイトルであった。

この日の先行はDIR EN GREY。“圧倒的”とはこういうことを言うのだろう。“どうだ!?”と言わんばかりの堂々たるステージだった。まず、京(Vo)のヴォーカルパフォーマンスが素晴らしい。単にレンジが広いだけでなく、ハイトーンからデスヴォイスまで表現力が豊かで、あれだけ激しい歌い方にもかかわらず、最後まで安定した歌声を披露。そんな京の歌を乗せるバンドサウンドはかなりタフでなければならないわけだが、7弦ギター、5弦ベースを駆使したアンサンブルはもちろん、重厚かつ鮮烈。「INCONVENIENT IDEAL」といった意図的にポップさを排除したような楽曲では、オーディエンスはただ立ち尽くすしかない様子で、演奏の緊張感が会場全体を支配し続けた。観客との合唱も悪くないが、DIR EN GREYにはこうしたスリリングな空気の方が似合う気はする。「激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇」を演奏し終えたメンバーがステージを去った後、自分の後ろにいた、おそらくピエラーであろう観客のひとりが“やべぇ、超カッコ良いんだけど!”と歓喜の声を上げていた──この感想が全てを物語っていたような気はする。

久々の復活となったPIERROTのステージは“熱狂”であり、キリト(Vo)の定番MCから言葉を拝借すれば“狂信”であったと思う。DIR EN GREYのファン=虜も混在しており、初見のオーディエンスも多かったはずではあるが、「MASS GAME」「Adolf」から振りを合わせ、続いて手扇子、ヘドバンを繰り返す、ピエラーたちの統率力の高さはやはり圧倒的なものであった。「AGITATOR」では観客のジャンプで床が明らかに揺れていたほど。PIERROTの楽曲はサビがキャッチーなものが多く、乗りやすいからであろうが、中盤のパンキッシュなナンバーを挟んで、ラストまで尻上がりに場内のテンションが上がっていく。特に「CREATURE」「MAD SKY -鋼鉄の救世主-」「蜘蛛の意図」でのイントロが鳴った瞬間の歓声の大きさは特筆すべき感じだった。ピエラーも楽しそうだったが、ステージ上のメンバーも同様に楽しそうだったのも印象的で、キリトとアイジ(Gu)が寄り添う姿や、潤(Gu)とTAKEO(Dr)とがアイコンタクトしている様子、客席を微笑ましく見つめるKOHTA(Ba)を目の当たりして、虜の人たちの中にも“何かいいな”と感じた人は少なくなかったと思う。キリトは“君たちはひとつに溶けてしまっている”と言っていたが、あそこまではっきりと観客が多幸感に包まれていることが確認できるライヴはそうあるもんじゃない。

取材:帆苅智之