この本に対して、僕は当時恐ろしいと思うほどの敬意を抱きました。

 2023年7月26日に“伊東歌詞太郎”がニューシングル「ヰタ・フィロソフィカ / 猫猫日和」をリリース。TVアニメ『わたしの幸せな結婚』EDテーマの「ヰタ・フィロソフィカ」は、明治・大正期を彷彿とさせる作品の時代設定を大切にしながら、男女の愛で大切なのは何か?を綴ったドラマチックなバラード。「猫猫日和」はアニメ『夜は猫といっしょSeason2』主題歌で、猫から飼い主をみた視点で日々を歌った1曲となっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“伊東歌詞太郎”による歌詞エッセイをお届け。綴っていただいたのは、今作の収録曲「ヰタ・フィロソフィカ」にまつわるお話です。TVアニメ『わたしの幸せな結婚』EDテーマを書きおろすにあたり、大きな手掛かりとなった「愛」に関する本とは…。ぜひ歌詞と併せて、エッセイをお楽しみください。



ここで2度目の楽曲解説をさせていただくことになりました、伊東歌詞太郎と申します!
このコラムに辿り着いたあなたは一体どういう縁か?
僕のことをもうすでに知ってくれているならば、いつもありがとうと伝えたいし、僕のことを知らずにこのコラムに辿り着いた貴方はものすごい低い確率でこのページに出会ったということで、是非とも最後まで読んでください!
 
この楽曲は『わたしの幸せな結婚』というアニメのエンディング主題歌として制作した楽曲です。
 
いわゆるタイアップ作品というものを制作する時は、同じことをインタビューで語り続けているのですが、いつもそうなので今回もお話しさせてください。
 
まずは作品を読み込みます。そして作者の方がこの作品で何を描いているのか、読者が何を感じているのか、この作品のファンの人が何を愛しているのかを感じとった上で音楽を作っていきます。
 
この作品は「愛」というものがテーマにあり、僕自身もとても影響を受けた「愛」に関する本を読んでいた時期だったので、制作にあたっての手がかりがたくさんあった、というラッキーな状況だったと今振り返っても思っています。
 
その本はエーリッヒ・フロムという方が書いた哲学書で、内容がめちゃくちゃ難しいので解説は省きますが、ざっくりいうと、
結婚というものは他者との比較を一切しないで、目の前にいる人間を愛し、一生を添い遂げることであると説いています。
 
「この人と結婚したけど、他の人の相手の方が年収が高くて良い生活をさせてもらっているな」
「この人と結婚したけど、他の人の相手の方が若くてかわいい」
 
こういった考え方は比較から生まれます。
自分が選んだ、もしくはあてがわれた相手がどんな性格をしていても、
どんな容姿をしていても、どんな経済状況であっても、
一人の人間を見て一生を添い遂げることで、生きる上での幸せを享受できる、ということが書かれている本でした。
 
この本はいまから約70年近く前に書かれた本で、
「自由恋愛という程度の低い愛がだんだんと世に広まっているせい」(哲学者は強烈な言葉を使いがち)で、ここから先の世は結婚できない男女も増えるし、比較によって不幸だと感じる人間が増えて人類はこのままだと滅亡するとまで警鐘を鳴らしていました。
 
人類がそこまで不幸になるか??とものすごい疑問に思ったのですが、その時考えました。
この本が書かれた当時SNSは確実になかったはず。
しかしながら現在、SNSは当然のように僕らの生活の一部になっている。
 
フロムの考える「比較」がむしろ当たり前になった世界で、
確かに結婚を選択しない人たちが増えているし、出生率も先進国と言われる国ではほとんどの国で下がってしまっています。
SNSは嫉妬を生みやすく、そこから派生して誹謗と中傷を生みやすい構造である。
約70年前に書かれたフロムのこの本に対して、僕は当時恐ろしいと思うほどの敬意を抱きました。
 
『わたしの幸せな結婚』も、主人公が誰もが避けたがる家柄の男性の元へ嫁がされるのだが、そこで不器用にも愛を育みながら、非常に強いものになっていく二人の絆を描く作品です。
 
この作品のエンディング主題歌の話をいただいた時にフロムの本を読み終わったくらいだったので、今まで作った曲たちの中で最もスムーズに制作が進みました。本当に本当に、世界には自分を助けてくれるものがたくさんあるものだ、と感じた次第でありました。
 
『わたしの幸せな結婚』は、二人が愛を育みつつもそれぞれの家の血筋の秘密、魅力的な男性たち、そしてそれらが織りなすバトルも見ものです。
 
そう、このコラムを読んで、途中までは素敵なラブストーリーを楽しめる作品と思ったでしょう?
前述のように書き出すと要素が多く、テキストだけだと意味がわかりませんよね(笑)?
 
是非、作品を見てみてください。アニメの場合は1~2話あたりまではなかなか主人公の美世の状況が過酷で辛いので、3話まで見て欲しいなと個人的には思っております!
 
<伊東歌詞太郎>



◆紹介曲「ヰタ・フィロソフィカ
作詞:伊東歌詞太郎
作曲:伊東歌詞太郎

◆ニューシングル「ヰタ・フィロソフィカ / 猫猫日和」
2023年7月26日発売
 
<収録曲>
1. ヰタ・フィロソフィカ
2. 猫猫日和
3. ヰタ・フィロソフィカ instrumental
4. 猫猫日和 instrumental