「ひとりぼっちの気持ちに寄り添える」歌を書けるアーティストに…。

 2019年2月12日にシンガーソングライター“鈴木友里絵”がSHIBUYA CLUB QUATTROにてワンマンショー『ON STAGE!』を開催しました。ライブに物語を寄り添わせたショーという形で魅せたこのステージ。今回のうたコラムでは、そんな彼女のライブ・歌詞・音楽への想いをお伺いしたインタビューを、2日間連続でお届けいたします。本日は前編!

― 渋谷クアトロでのライブは、友里絵さんの活動当初からの目標の一つだったんですよね。当日はいかがでしたか?

とにかく楽しかったですね!もちろん緊張もしていたんですけど、ステージに上がったら吹き飛びました。みなさんの顔がしっかり見えて、歌っているときにすごくキラキラした目で観てくださっていたのが、嬉しかったなぁ。あと、涙が込み上げてきてしまうような場面も多々あって。でも私は泣くと声が出なくなっちゃうから、なんとか泣かないようにというのは気をつけました(笑)。

― “ワンマンライブ”ではなく“ワンマンショー”と銘打ち、寸劇やダンスなどを取り入れたステージにしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

今回のアンコール前でも少し出てしまったんですけど、私のMCってちょっとこう…フワッとしてしまうんですね。トンチンカンなんですよ。「無礼講」って言いたかったのに「無法地帯」って言っちゃったりとか(笑)。それによって会場の雰囲気が緩むのが、良いところでもあり悪いところでもあると思っていて。明るい曲なら良いけど、シリアスな曲はもっと心の持っていき方を丁寧にしたい。そう思ったとき、何か歌に沿った物語があったら、より深く入っていきやすくなるんじゃないかなと。それで実験的に挑戦してみました。…どうでしたか?

― まさに「助手席」や「髪を黒く染めました」など、曲前に劇が入ったことで、歌詞の世界観が非常にイメージしやすかったです。よりメッセージが刺さりました。

やったー!嬉しい!「助手席」はドライブデート中を描いた歌詞なんですけど、その前の“女の子が車を待っているシーン”から劇で見せることで、曲冒頭の<星空がきらめくあの日の夜に あたしはあなたに 初めて恋をしたんだ>というシチュエーションがパッと絵で浮かびやすくなればいいなと思ったんです。「髪を黒く染めました」は、サウンド的には明るいんですけど、髪を黒くして、黒いスーツを着て『自分の色なんてないよ』って思っちゃっているような“就活生”や“社会人”の方にちゃんとメッセージを伝えたいなという想いから、面接の劇を入れましたね。

髪を黒く染めました
お気に入りだった 光る光る金色の髪を染めました
髪を黒く染めました
自分らしさってやつは まるで必要無いんだと
言われてる気がしました
「髪を黒く染めました」/鈴木友里絵

― ご自身は、就活なさったことありますか?

いや、ないんですよ。私は音楽で食べていきたかったので、同期が大学3年生で就活をし始めても一切やらないでいて。でもそれゆえに「髪を黒く染めました」という曲が生まれたんですよね。私にとっては就活をしているみんながすごく格好良かったから。だけど、本人たちはその格好良さに気づいていなかったり、逆にマイナスな気持ちでいたり。だから「あなたたちは格好良いんだよ!」って言いたくて、その気持ちを歌にしたんです。

人を笑わせることが得意だ
走る速さは誰にだって負けないさ
履歴書には書ききれないほどの これが自分なんだ
過ぎ去ってく未来に 諦めた夢だってあるよ
でもたった一つくらいは
譲れないこと したいことがあるんだ
「髪を黒く染めました」/鈴木友里絵

― 歌詞にあるように、みんな<履歴書には書ききれないほどの>長所があるのに、なかなか<自分の色>や魅力に自分で気づくのは難しいのかもしれませんね。

本当そうですよね。私はこういう仕事をしていることもあって、結構じっくり“自分とは”とか考え込むことがあるんですけど、多くのひとは就活のときぐらいしか自分を見つめる機会ってないのかもしれない。でも、何枚もエントリーシートを書いて、何度も面接をしてというのを繰り返していくなかで、強くなっていくひともたくさんいて。たとえば、私の友達で「舞台に立ちたい」という大きな夢があったけれど、それを諦めて、でもその夢に近い好きな仕事をしている子がいるんですね。そうやって自分にとっての<たった一つ>の大切な核がわかったりしていくことって、やっぱり格好良いですよね。

― 友里絵さんが思う自分の長所と短所とはどんなところでしょうか?

あ~、言葉にするとなると難しいな(笑)。長所は…バイタリティーがあること。打たれ弱いし、すぐに落ち込むんですけど、結局最終的には自分自身を持ち上げる生命力があるっていうのは、良いところですかね。


― 素敵です!その「自分自身を持ち上げる生命力」の源になっているものって何なんでしょうね。

何ですかねぇ!この話が直接繋がっているかはわからないんですけど、私は誰かのことを心から嫌いになるということがなくて。もちろん嫌な一面もあるけれど、そのひとに対する愛はどうしても持ってしまう。「ここは好き」ってところは絶対にある。と思うと、すべての物事に対しても同じなのかなって。嫌なこともあるけど、それよりプラスの面が勝ったり、自分なりに「こう考えてみたら良いかも」と見方を変えたり、そうやって起き上がってきた気がします。

逆に言うと短所は、人が好きだからこそ、人のことを考えすぎてしまうことなのかもしれないです。気を回しすぎてしまうというか、「このひとはこう考えるだろうな」って思うと、自分の気持ちよりもそっちを優先させたりということがよくあるんですよね。だからその短所は良いほうへ変えていきたいところでもあります。

― 友里絵さんはご自身のHPプロフィールに「誰にも言えない気持ち、誰にもわかってもらえない気持ち、そんなひとりぼっちの気持ちに寄り添いたい」という想いを綴っております。それはご自身も音楽に救われてきた実体験があるからこそでしょうか。

そうですね。落ち込んだときとか、失恋したときとか、何か上手くいかないときに、イヤホンをして真夜中にひとりで聴いていた曲があったおかげで、前向きな気持ちで次の朝を迎えられた日がたくさんありました。あと、私は自分の気持ちを外に出すのがなかなか難しくて、本音を誰かと完全に共有できることってないんだろうなということを、結構感じるんですね。でも、そこに淋しさを感じつつも「本当はこう思っている」というのを歌で気づいてほしいし、伝えたい。そして同じように思ってくれるひとがいたら、私もなんかちょっと救われるなという想いが、曲を書き始めた頃からずっとあって。だから「ひとりぼっちの気持ちに寄り添える」歌を書けるアーティストになりたいんですよね。

― 音楽の「この歌はわかってくれている」というパワーって、特別なものがありますもんね。

そうそう!もちろん誰かと直接会って、言葉で伝え合うことも大切だけれど、喋っているなかで「わかる~!」って言いながら実は(…あれ?本当は私とちょっと違うんじゃないか?)と、気づく瞬間が切なかったりするじゃないですか。でも歌だと、別に聴くひと自身のことを歌っているわけでもないし、完全に状況が一致しているわけでもないのに、何故か同じ気持ちになることができたりするんですよね。だから私は音楽がすごく好きなんです。希望があるなぁって。歌の力ってすごいなぁって。誰かと同じ心を共有できる特別なものなんです。

― では、友里絵さんにとって歌詞を書くことってどんなことですか?

歌詞は…魔法。言葉をもっと伝えやすくしてくれるものであり、心をそのまま、何の形にも囚われず、表すことができるものなのかな。解釈は人それぞれで、どうにでも取れるけれど、大切なことは伝わるということが成立する。そういう魔法だと思います。

【後編に続く!】

◆紹介曲「助手席
作詞:鈴木友里絵
作曲:鈴木友里絵

髪を黒く染めました
作詞:鈴木友里絵
作曲:鈴木友里絵