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今日のうた

amazarashi

人の為に生きたい君と、自分の為に生きたい僕

一度出会ったら、人は人をうしなわない。
(江國香織『神様のボート』より引用)

 たとえば、恋人と別れてしまったとしても、相手に刻まれた何かが、自分の一部になってゆくことってありますよね。価値観だったり、生き方だったり。きっと、そうやって誰かの言動や想いが、また誰かに繋がれてゆくからこそ「人は人をうしなわない」のでしょう…。さて、今日のうたコラムでは、そんな江國香織さんの小説の一文にも通ずる新曲をご紹介いたします。

君が出てくならそれでいいよ
借りた物は返すから
時計もCDも電車賃も全部
君の優しさ以外は
「リタ」/amazarashi

 ある“ひとつの恋の喪失”が描かれているこの歌は、2017年12月13日に“amazarashi”がリリースしたニューアルバム『地方都市のメメント・モリ』収録曲です。まず、アルバムタイトルに含まれている【メメント・モリ】とは、ラテン語で【死を想え】を意味する言葉。自分がいつかは必ず死ぬことを忘れるな、という警句なんだそう。

 「リタ」の歌詞を読んでいくと、歌の主人公の<僕>は、まさに恋愛における【メメント・モリ】の精神を忘れていたことが伝わってきます。この恋を永遠のように思っていた。それは<まるで詐欺師か魔法使いみたい>な<君の優しさ>に寄りかかり、甘えすぎていたから…。けれど<変わらないと思ってた そんなものある訳なかった>ということに、恋を失って今、やっと気づいたのです。

人の為に生きたい君と 自分の為に生きたい僕
合わない歯車が回っては軋む音
そんな風だった、二人の笑い声

一つを選ぶという事は 一つを捨てるという事だ
それならいいよ 僕は大人しく 
ゴミ箱に入って君を見送るんだ ねえリタ
「リタ」/amazarashi

 そもそもこの<二人>は、人生で大切にしたいことのベクトルが異なっていた模様。それでも<人の為に生きたい君>の優しさによって、なんとかこれまで<合わない歯車>は軋みながらも回ってきたのでしょう。そこに限界が来てしまったのです。しかし<自分の為に生きたい>はずだった<僕>には、変化が見られるような気がしませんか? だって、別れ際の<僕>は、相手の為になることばかりを考えていますよね。

 それゆえに<一つを捨てる>選択をしなければならない時も<大人しく ゴミ箱に入って君を見送る>という道を選んだのです。その変化の理由は、歌詞の冒頭に綴られていると思われます。“借りた物は全部、返す”。ただ<君の優しさ以外は>です。つまり、返してない<君の優しさ>は<僕>の一部になっているのではないでしょうか。だからこそ、自分の為ではなく“君の為”のことを想っているのではないでしょうか…。

自分の為に泣いたりしない 苦しい時も泣いたりしない
そんな君がさ なんで泣くのさ
僕より先に なんで泣くのさ
「リタ」/amazarashi

 また、変化をしているのは<僕>だけではないようです。もちろん<人の為に生きたい君>ですから<僕>の為に泣いているのかもしれません。ただ<出てく>という選択をしたのは<君>です。他の誰かのためでもなく、自分の為に。そして、その決断をすることができたのは<自分の為に生きたい僕>の生きざまから、少なからず影響を受けていたからなのだと思います。だから<君>は今、ちゃんと<自分の為に>泣くことができているのだと思います。

自分とばかり向き合って 人とは決して向き合わずに
言葉を選ばないのなら 傷つけて当たり前だ
過去とばかり向き合って 今とは決して向き合わずに
後ろ向きで歩いてりゃ つまずいたって当たり前だ

留まる人に泣いたりしない
分かったつもり だから僕はもう
自分の為に生きたりしない 誰かの為に笑ってみたい
君みたいに
「リタ」/amazarashi

 さらに<自分の為に生きたい僕>は歌の終盤で<僕はもう 自分の為に生きたりしない 誰かの為に笑ってみたい 君みたいに>とはっきり歌っているのです。これはもう、相手に刻まれた“優しさ”が、自分の一部になった証ですよね。そして<君>もまた“自分の為に生きてみたい”という想いが、心の一部になっているような気がします。本当に、冒頭でご紹介した「一度出会ったら、人は人をうしなわない」とは、こうしたことを言うのでしょう。

 別れは悲しいことですが「サヨナラ」がもたらすものは、後悔や苦しみだけではないのだと、ほんの少しだけ前向きな気持ちにしてくれる。それが「リタ」という楽曲のパワーです。大切な人の生き方や自分の生き方を考えながら、じっくりこの曲に浸ってみてください。