SION & THE MOGAMIのメンバーでもある藤井一彦(Gu)、細海魚(Key)と3人で名古屋、大阪、福岡と回ってきた毎年恒例のアコースティックツアーが12月27日、東京・代官山UNITでファイナルを迎えた。「クロージングタイム」「俺の声」といった30余年の長きにわたって愛され続けている代表曲はもちろん、SIONのライヴには欠かせない「Hallelujah」といったアンセムから、宅録アルバムでしか発表していない曲まで全26曲を、アコースティックギターの弾き語りも3曲交え、2時間ほぼMCなしで熱唱。例年以上に気迫に満ちた歌声は、SIONの中で新たな闘志が燃え始めたことを思わせたのだった。
もはやSIONと彼のファンの冬の風物詩と言ってもいい毎年恒例のアコースティックツアー。これに足を運んで、「12月」を一緒に歌わなきゃ一年が終わらないというファンも少なくない。しかし、毎年恒例だからって、毎年同じなわけじゃない。“来てくれてありがとう”とSIONがピースサインを掲げ、細海のピアノがラグタイム風に跳ねた「午前3時の街角で」で始まった今年は、このツアーのために各曲に加えられたアレンジの妙も聴きどころだった。
中でも印象的だったのが、ソウル風の「jabujabu」、ブギウギピアノを加えた「気力をぶっかけろ」、フォークロック調の「彼女少々疲れぎみ」、藤井がルースなリフを閃かせたロックンロールの「粟野川」。その「粟野川」他でSIONは“小学校以来”と照れ笑いしたタンバリンも鳴らした。アコースティックツアーだからって、単純に楽器をアコースティックに持ち替えただけじゃない。滋味あふれる演奏はSIONをバックアップする藤井、細海の豊かな素養、技量によるところも大きい。
そして、SIONは例年以上に気迫に満ちた歌を披露。それが無性に嬉しかった。とても晴れやかな気持ちになった。圧巻は魂の悲鳴にも聴こえた「痩せ我慢ピエロ」。アドリブだった「赤鼻のトナカイ」も含め、たっぷり8曲も歌ったアンコールを締め括ったのは、「笑っていくぜ」。足を踏み鳴らし、タンバリンを鳴らしながら《笑っていくぜ 堂々と行くぜ 俺たちはこれからさ》とSIONが歌うリフレインに観客が大きな声を重ねた。58歳のベテランは、さらなる闘志を燃やし始めた。
撮影 : 麻生とおる/取材:山口智男
SION
シオン:1985年に自主制作アルバム『新宿の片隅で』でデビューし、86年にアルバム『SION』でメジャーデビュー。その独特な声、ビジュアル、楽曲は日本のミュージックシーンにおいて唯一無二の存在で、多くのアーティストから敬愛されるミュージシャンズ・ミュージシャンであり、ワン・アンド・オンリーな存在感で輝き続けている。リスペクトしているミュージシャン、俳優、タレントには枚挙にいとまがない。また、長年培った充実したライヴには定評があり、近年は20~30代を中心とした客層を持つバンドとも積極的に対バン公演を行なっている。そして、毎年恒例の日比谷野外大音楽堂でのワンマンライヴは夏の風物詩として定着している。