ロックシーンの最上の面子が顔を揃えたTHE MOGAMIを従えた夏の日比谷野外大音楽堂ライヴ、冬のアコースティックツアーとともにファンの間ではすっかりお馴染みになっているThe Cat Scratch Comboを従えた春のツアーが今年も東名阪で開催された。そのファイナルとなる新宿LOFT公演をレポート。17年9月にリリースした『今さらヒーローになれやしないが』の収録曲を含む新旧の全25曲を歌った2時間の熱演を、SIONの歌を心から求める熱いファンが大歓迎した。
この日のSIONは、なんだかすごかった。もちろん一回一回、命を削るようにステージに立っていることを考えれば、もう毎回がすごいと言えば、すごいのだが、この夜はいつにも増して激しかった。そして、エネルギッシュだった。
もっともフットワークの軽さを求め、バンマスの藤井一彦(Gu)以下、清水義将(Ba)、相澤大樹(Dr)ら年下のミュージシャンを集めたThe Cat Scratch Comboは、池畑潤二(Dr)、井上富雄(Ba)、細海魚(K)、そして藤井一彦というロックシーンの歴戦のベテランが顔を揃えたTHE MOGAMIとは違って、スピード感も意識した演奏が武器だから、そういうライヴになるのは当然と言えば当然かもしれないが、THE MOGAMIと繰り広げる絶唱という言葉が相応しい重厚なパフォーマンスとはまた印象が異なる。こんなにロッキンなSIONを観るのは随分と久しぶり...いや、ひょっとしたら、筆者は初めてだったかもしれない。
序盤から“来いよ。来いよ”と手で合図しながら煽るSIONに応え、客席から野太い声が飛び、「胸を張れ」「お前の空まで曇らせてたまるか」ではSIONの言葉の力を借りて、自分の気持ちを鼓舞するように全員が声を上げた。そして、この夜の最初のクライマックスと言える代表曲中の代表曲「俺の声」ではサビを一緒に歌う観客にSIONがマイクを向けた。
もちろん、飛ばすだけがThe Cat Scratch Comboのライヴじゃない。中盤ではそれまで大騒ぎしていた観客を、しんみりさせた「ありがてぇ」他のスローナンバーをじっくりと聴かせ、この夜のライヴをより深みのあるものにした。圧巻はSIONの宅録アルバム『しばらく月を見てなかった~Naked Tracks 10~』からの「痩せ我慢ピエロ」。同じスローナンバーでも歌の世界が持つ詩情に胸が温もりでいっぱいになる「ありがてぇ」とは180度ベクトルが違う歌は、まさに“鬼気迫る”という言葉が相応しいものだった。その振り幅もまた、SIONの魅力だ。
そして、ライヴは最近のSIONのテーマ曲と言ってもいい「ONBORO」で再びテンポアップ。気迫に満ちた「春よ」から畳み掛けた「新宿の片隅から」で弾みを付け、ラストの「マイナスを脱ぎ捨てる」では喉もはり裂けんばかりに全身全霊の歌を聴かせるSIONに寄り添うようにバンドメンバー、観客がシンガロング。会場が見事、ひとつになった。
肉体の衰えを受け止め、最近のインタビューでは“あとどれだけ歌えるのやら”みたいなことを冗談交じりに言うこともあるSIONだが、この夜のライヴを観るかぎり、まだまだ全然大丈夫。そんな想いを新たにした筆者は、SIONが歌い続けるなら、もうどこまででも付き合うぜ——と、この夜、誓ったのだった。
そして、“俺はもう十分なんだけどな(笑)”とジョークを言いながら応えた2回のアンコールの最後を締め括ったのは、大事な人への思いを歌った「今さらヒーローになれやしないが」。観客に語りかけるような歌を聴きながら、筆者はインタビューでSIONが言った言葉を思い出していた——“今さらヒーローになれやしないが”なんて歌っている奴は、まだ諦めていない(笑)。なってやる!って、どこかで思ってるんだよね。
撮影:麻生とおる/取材:山口智男
SION
シオン:1985年に自主制作アルバム『新宿の片隅で』でデビューし、86年にアルバム『SION』でメジャーデビュー。その独特な声、ビジュアル、楽曲は日本のミュージックシーンにおいて唯一無二の存在で、多くのアーティストから敬愛されるミュージシャンズ・ミュージシャンであり、ワン・アンド・オンリーな存在感で輝き続けている。リスペクトしているミュージシャン、俳優、タレントには枚挙にいとまがない。また、長年培った充実したライヴには定評があり、近年は20~30代を中心とした客層を持つバンドとも積極的に対バン公演を行なっている。そして、毎年恒例の日比谷野外大音楽堂でのワンマンライヴは夏の風物詩として定着している。