“不器用なエールの送り方だなぁ...”。ライヴ中、高揚した気持ちとともに何度もそう思った。しかし、そのやり方が実に彼ららしく映り、男同士の友情が曲毎に私を惹き付けた——。
勝手にしやがれが不定期敢行してきた自主企画イベント『7 O'CLOCK JUMP』。毎度さまざまな対バンを迎え、ともに素敵な夜を作り出してきた同イベントだったが、この日はよりその不器用者たちとの共創性が濃い一夜となった。The Birthdayをゲストに迎えて開催された今回は、勝手にしやがれの武藤昭平(Dr&Vo)が食道がん治療専念に伴う不在を各位なりに埋めるべく、朋友たちがともにそのステージに立ち、武藤へお見舞いやエール代わりに、己れの歌を歌い、音を放ち合った。
まずはThe Birthdayがステージに現われる。チバユウスケ(Vo&Gu)が愛用のグレッチのオリジナルモデルを爪弾き、そこに会場の大合唱が乗り、“今日は勝手にしやがれと、お前らとクラブクアトロだ!”の第一声でライヴはスタート。「涙がこぼれそう」のソリッドでタイトなサウンドがガシッと会場をステージ側へと抱き寄せる。そして、《そのとき君は何を見るだろう トンネルを抜けた後で》の歌詞も今日は特別に響いた「SAKURA」、無数の拳をステージへと向かわせた「1977」が次々と放たれていく。
中盤に向けては深夜感のある曲が連射される。「LOVE GOD HAND」ではファットで暴れるヒライハルキのベースと腰にくるクハラカズユキのダンサブルなビート、フジイケンジのトレブルを利かせたギターが会場をうねらせ、そのうねりを「24時」がさらに体にまとわりつかせる。また、「Red Eye」ではチバのブルースハープとフジイのギターとのバトルが繰り広げ、そこにクハラのドラムソロが切り込むといった観どころも。そして、6月発売の新曲「THE ANSWER」も披露。スリリングなAメロとハーフになるBメロ、クハラのドラミングが呼ぶカオスやチバのシャウト、突然終わってのポツンと残された感も印象深い。
後半はライヴを再加速させる曲が連射。「なぜか今日は」を皮切りに、「Nude Rider」が会場をバウンスさせ、「READY STEADY GO」では観客を交えての雄々しく力強い呼応が、この日も誇らしげに響く。最後はまるで不在武藤に贈られるかのように、バンドワゴンとロードムービー感を擁した「声」が“しばらくは安心して任せとけ!!”とのメッセージのように会場内に鳴り響いた。
続いては、勝手にしやがれの登場だ。6人だけによる「黒い瞳」のカバーから入った、この日。武藤の代わりにドラムを田中和(Tp)が担当し、その分減った福島忍(Tb)、田浦健(T.Sax) 、青木ケイタ(B.Sax)の3管は、正直やや寂しく感じる。しかし、カンツォーネmeetsアイリッシュ、そこにスカのテイストも加わった「FIESTA」では福島がヴォーカルを取り、武藤時の嗄れ声とは対照的な彼のクリアーな歌声が楽しめた。
“世界一タフな男だから必ず戻ってきます。その分、今日はやさしい男が大勢駆け付けてくれました!”(福島)と、ここからはゲストヴォーカルやプレーヤーたちが曲毎に次々と登場する。まずは百々和宏(MO'SOME TONEBENDER)がビールを一缶飲み干し、「ブラック・マリヤ」を歌えば、斉藤淳一郎のアコーディオンを交え、続く佐々木亮介(a flood of circle)も景気付けにビールを一気に飲み干し、ラスティックなロデオ感のある「デヴィッドスター」を歌う。また、独特のしゃがれ声が楽団とベストマッチを魅せた「フィラメント」の際には、お客さんが支える中、フロアーにて歌う佐々木の姿を見た。
ここからはチバにヴォーカルがスイッチ。実は田中とは昔からのバンド仲間だという。ドラムもクハラに代わって4管が取り戻され、勝手にしやがれとチバで共演し作品化もされた「ロミオ」をプレイ。チバがもっとも好きだという「Slave」では、そのバーレスク感たっぷりな同曲の上、やけくそなシャウトが炸裂する。中盤では渡辺俊美を迎えたロマンチックな「シャイン・サンシャイン」にてブルービートが輝き出せば、歌われる《生き延びて》のフレーズにも、この日は一段と真摯さがこもる。
後半に入ると後輩の同スタイルバンド、TRI4THより伊藤隆郎と織田祐亮が呼び込まれ、この3月に実現した“TRI4THにしやがれ”の再演が観られた。ツイントランペットの5管の音圧と迫力は圧巻だ。とは裏腹に、哀愁のトランペットソロのリレーも魅せるとニクい演出も。また、ホーンのゴージャスさと各人のソロの観せどころのリレーションがたまらなかった「円軌道の外」では血沸き肉踊る場面を生み、最後はクハラも再度呼び込まれてのツインドラムによるビッグバンドライクな「夢をあきらめないで」へ。ここでのヴォーカルは百々が再び務め、“昭平兄やん、夢をあきらめないで!”と、みんなの気持ちを代弁するかのような百々のシャウトが今でも耳に残っている。そして、アンコールは1曲。再び6人だけで「ジャザビリー・ジャック」がプレイされると、福島もフロアーに降りて吹き、熱狂の火に油を注ぎながらも大団円なラストシーンへと行き着かせた。
お仕着せのお見舞いの言葉など口に出さず、代わりに音やサウンド、歌としてその気持ちやメッセージを伝えた、この武骨な男たち。と同時に、変わらず自分たちのライヴを演ることが何よりもの快方への薬だとばかりに、各位いつも通りの佇まいでライヴに挑んでいたのも印象深い。不在を埋めるのみならず、バンドを停めずに進め続け、いつでも武藤が戻ってこれるようにと、常にその椅子を温め続けるが如くの配慮にも思えた、この日のライヴ。その存在は単なる共演者やゲストに留まらず尊かった。さぁ、この武骨で不器用な男たちの思いや気持ち。武藤のところまで届け!!
撮影:埼玉泰史/取材:池田スカオ和宏
勝手にしやがれ
カッテニシヤガレ:ジャズやスウィングをパンクの精神で男気あふれる唯一無二の音楽に昇華させ、ギターレスでドラムスがヴォーカルをとる独特のスタイルで圧倒的な存在感を醸し出す7人組。今年4月にteabridge records/avexに移籍、ますます精力的に活動中。
