<会いたい>と願うよりも<会いに行くよ>という強い意志を。

 2019年2月27日に“androp”がニューシングル「Koi」をリリースしました。タイトル曲は、川口春奈×高橋一生の映画『九月の恋と出会うまで』主題歌として書き下ろし。さらに2019年4月5日には“上白石萌音×内澤崇仁”として新曲「ハッピーエンド」を配信リリース。上白石主演の映画『L・DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』主題歌として書き下ろし。

 内澤さんが作詞作曲を手がけた、最新作「Koi」と「ハッピーエンド」で共通しているのは、どちらもラブソングあるという点です。また、歌ネットでミリオンリリックに認定されている大ヒット提供曲、Aimer「カタオモイ」も然り。そこで今回のうたコラムでは、そんなラブソングの名手・内澤崇仁さんにインタビューを敢行!今日はその第2弾をお届けいたします。

― 第2弾では、androp「Koi」についてお伺いします。この曲が主題歌の映画『九月の恋と出会うまで』は、今時あまりないくらいにまっすぐな作品ですよね。

内澤:僕もそう感じました。大人の恋愛ではあるんですけど、ものすごくピュアでストレートだなって。だからこの映画に似合う主題歌も、そういう性格のものだろうと思って、メロディーや歌詞に繋がっていきましたね。

― タイトルは「Koi」と英語表記ですが、それによって、いつも見慣れているはずの「恋」という言葉の意味を改めて考えさせられました。

内澤:そうなんです。andropの楽曲タイトルって、いつも英語表記なんですけど、それはやっぱり日本語の言葉から簡単に連想できるものに楽曲の内容が縛られたくないなという想いが、昔からあるからなんですよね。その限定的な想いのまま、曲を聴いてもらうのはちょっと嫌だなって。

今回の「Koi」に関しても、漢字の「恋」だと、結構いろいろと連想されるものってあるじゃないですか。それ以上は考えが広がらないというか、そうじゃなくて、日本人にとってなるべく紐づくものが少なくあってほしいと、今回もローマ字表記にはこだわりましたね。

― パッと見の印象も「恋」と「Koi」では全く違いますしね。

内澤:ですよね。あと、歌ネットさんで「恋」ってタイトル検索すると、多分ものすごい量の曲がヒットしますよね? でも「Koi」だと、グッと少なくなるんじゃないかなって。そこもローマ字表記の良いところではありますね(笑)。

― 「Koi」で一番最初に出てきたのは、どのフレーズでしたか?

内澤:これは、主題歌のお話をいただいたときにはある程度、映画が出来上がった状態で。その映画を観させていただいたんですね。まだ最後のエンドロールは真っ黒な画面だったんですけど、エンドロールが流れる場面までたどり着いたら、もうワンコーラス分くらいはブワーッて降りてきたんですよね。冒頭から。

物語が僕を拒んだって
誰かが運命を定めたって
会いに行くよ
どこにだって
探し続けるよ
出会えた頃とまた同じように
恋するよ
「Koi」/androp

内澤:そうやって頭のなかで鳴り始めたものを、どんどん書き起こしていったら「Koi」という作品が出来上がっていたような感じだったんです。なので1行目から順番に出てきましたね。でも今改めて思うと、やっぱりこの冒頭のサビフレーズが、僕がもっとも表現したい核だったんだと思います。

何もいらない
何もいらないんだよ
君以外は
本当にそう思う
「Koi」

― 冒頭に続くこのフレーズも“恋とは?”のひとつの答えだなと感じました。

内澤:そうですね。ここは、よりドストレートなものが良いなと。かつ、近くで呟いているようなフレーズにしたいと思いました。映画で、高橋一生さん演じる主人公・平野進には、言葉にできないくらいの想いがあるんですよね。だけど、それを表す言葉を無理にいろいろと探すんじゃなくて、そのまま“言葉にできない”という気持ちを表現したかったんです。

春にほころぶ小さな蕾
夏の暑さに 眩しい光
秋の彩り
冬の冷たさ
そんな当たり前が
君となら特別に変わる
ずっと一緒にいてほしい
「Koi」


― また“春夏秋冬”が綴られているフレーズも素敵です。恋をしているから、今までより丁寧に日々を感じられるんだろうな、とか。<冬の冷たさ>というワードから、手を繋ぐんだろうな、とか想像が膨らみました(笑)。

内澤:きっと繋ぐんでしょうねぇ。ここ実は“春夏秋冬”の表現を入れるか迷ったんですよ。季節を限定しない描写にしようかと。ですが、やっぱり変わるんだろうなって。春夏秋冬、今まで普通に訪れていたものが、恋というひとつのきっかけで変わるんだろうなって。そこを表現したかったので“春夏秋冬”を描きました。

― きっと、視覚や触覚などの五感も<特別に変わる>んでしょうね。ちなみに内澤さんは、ひととの関わりのなかで、五感のどこを使うことが一番多いですか?

内澤:五感かぁ…。耳かな。聴覚。なんか僕は、普通のひとよりも“可聴域”というものが広いらしくて。だから使うつもりはなくとも、自然に耳を使って物事を感じている気がします。あと何より音が好きです。ひとの声も好きだし、ピアノの音も好きです。だからandropの曲にはピアノが入っているものが多かったりしますね。

君が遠くに行ってしまって
もう会えないとわかっていたって
僕は探すよ
君の姿を
君じゃなければだめなんだ
出会えた頃とまた同じように
恋して 恋して
また笑ってよ

物語が僕を拒んだって
誰かが運命を定めたって
会いに行くよ
どこにだって
探し続けるよ
出会えた頃とまた同じように
恋するよ

恋するよ
「Koi」

― この歌では“願い”を歌っているわけではないところも印象的ですね。<探すよ><会いに行くよ><探し続けるよ><恋するよ>と意志を歌っています。

内澤:そうなんです。それはとても意識したところですね。やっぱり平野(高橋一生)は、決して言葉は達者ではないけれども、ただただひたむきに、彼女(川口春奈)の運命を変えようと突き進んでいく姿が印象的で。それなら<会いたい>と願いを歌うよりも<会いに行くよ>という強い意志をこの曲にも貫いたほうがいいと思いました。

― 第1弾で、andropは“普遍的な愛”は描いてきたけれど“恋”の歌はあまりないとおっしゃっていました。では“ただひとを想うこと”と“恋”の違いとは、なんだと思いますか?

内澤:たしかに、何が違うんだろう。こう…若干、限定されるところかな。恋は。たとえば「付き合いたい」とか「結婚したい」とか、そういう具体的な気持ちが入ってくるところはありますね。そういう意味だと“恋”を描くときって、使うワードも変わってくるから。だけど多分、想いの芯みたいなものは“ただひとを想うこと”も“恋”も一緒なんだろうな、と思います。

第3弾「ハッピーエンド」編に続く!

【第1弾】はコチラ!


(取材・文 / 井出美緒)

◆紹介曲「Koi
作詞:Takahito Uchisawa
作曲:Takahito Uchisawa

◆ニューシングル「Koi」
2019年2月27日発売
初回限定盤 UPCH-7482 ¥1,944(税込)
通常盤 UPCH-5958 ¥1,296(税込)

<収録曲>
01. Koi
02. For you 
03. Image Word (solo acoustic ver.)

◆配信シングル「ハッピーエンド
2019年4月5日配信