君の一番になれないけど、君もわたしの一番じゃないよ。

 大阪寝屋川発の2人組ガールズバンド“yonige”が、2017年9月20日にメジャーデビューアルバム『girls like girls』をリリース!今日のうたコラムでは、今作のリード曲「ワンルーム」をご紹介いたします。尚、この曲からは俳優・山田孝之が主演を務める『点』というショートフィルムが製作されているんです。脚本は「ワンルーム」の歌詞から着想を得て、オリジナルで書き下ろされたもの。主人公(山田孝之)は、田舎町で床屋を営む理容師の男性です。

 夏のある日、彼のもとに突然、幼なじみであり、高校時代の元カノである女性がやってきます。14年ぶりに再会し、あの頃と今が交錯するなか、どこか会話もぎこちない二人。そして彼女は、理容師の彼に「結婚式のためにうなじの毛を剃って」とお願いするのです。すでに現在、違う男性と結ばれているわけですね。さて、その依頼を受け、彼は戸惑いながらも彼女を店の中へと案内するのですが、そこからどのように心模様は揺れ動いてゆくのでしょうか…。

あげっぱなしの便器がやけにリアルで恥ずかしくなった
君を泊まらせた後の誰もいないワンルーム
こんな気持ちになるのは今だけなんだけどな
やけにずっと待ちわびてる0.2秒の振動を

綺麗に畳んだ寝巻きと
少しずれてるこの気持ち
君が悲しく笑うから
それでもいいって思った
「ワンルーム」/yonige

 ショートフィルム『点』の主題歌はもちろん、物語の原点である「ワンルーム」です。こちらは“女性目線”の楽曲。この歌の<わたし>と<君>にも、若かりし頃の甘酸っぱい記憶と、それから過ぎ去った時間があることを前提にしてみましょう。すると<あげっぱなしの便器>や<綺麗に畳んだ寝巻き>というワードが、もういい年の大人になった二人を浮き彫りにしますね。たとえば高校時代の<わたし>は、彼のそんな生活の名残を目にすることもなかったはず。だからこそ<リアルで恥ずかしくなった>のでしょう。

 またフレーズ内に<0.2秒の振動>という言葉がありますが、これは【恋に落ちる感覚】を意味していると思われます。実は、人間が恋に落ちる早さは、わずか0.2秒だという研究結果があるんだとか。つまり彼女は、時を経て再び彼に対して、ビビビッ!と「好き」が生まれることを予感し<こんな気持ちになるのは今だけ>と自らに言い聞かせながらも、一方で、恋に落ちることを<やけにずっと待ちわびてる>のです。しかし、どうして<こんな気持ちになるのは今だけ>と思わなければならないのでしょうか。

ずぶ濡れになった洗濯物
じめっとした夏の匂い
数だけ増えてく約束が
倒れて潰されそうだ
懐かしいドラマ再放送
あれって独り言が響く
ねえ、今何考えてる?

君が悲しく笑うから
それでもいいって思った
君の一番になれないけど
君もわたしの一番じゃないよ
「ワンルーム」/yonige

 おそらくショートフィルム『点』と同じく、大人になった二人にはそれぞれ、もう違うお相手がいるのだと思います。それは<君の一番になれないけど 君もわたしの一番じゃない>というフレーズに表れていますね。ただ<それでもいいって思った>から彼を泊まらせた…。そして、雨が降っても、洗濯物がずぶ濡れになるまで気づかないほど、もしくはそんなことどうでも良くなるほど、彼女は今<君>に浸っているのです。

そんなんやっぱ忘れさして
今は君を想いたいよ
絶対なんて嘘だった
今は君に優しくしたい
「ワンルーム」/yonige

 歌のラストの<絶対なんて嘘だった>というフレーズは、いろんなことに対して向けられたものであるように感じられます。<わたしの一番>である恋人のことは“絶対”に裏切らない。<君>とまた恋に落ちるなんて“絶対”にありえない。浮気なんて“絶対”にしちゃいけない。そんな<絶対なんて嘘だった>のでしょう。同時に、彼女にはすでに<0.2秒の振動>が訪れているような気もします。もうあの頃とは違うけど、あの頃とは違うから、再び落ちてしまった恋。『点』の物語も「ワンルーム」の二人のこれからも、気になるところですね…!

◆紹介曲「ワンルーム
作詞:牛丸ありさ
作曲:牛丸ありさ

◆NEW ALBUM『girls like girls』
2017年9月20日発売
WPCL-12716 ¥2,300+TAX

<収録曲>
01 ワンルーム
02 さよならプリズナー
03 各駅停車
04 バイ・マイ・サイ
05 スラッカー
06 おうまさん
07 沙希
08 とけた、夏
09 また明日
10 トーキョーサンセットクルーズ