何も持たないで いつか辿り着いた。

2022年7月6日に“関取花”がメジャー2ndフルアルバム『また会いましたね』をリリースしました。今作は「ありのままの関取花らしさ」をコンセプトに自身がサウンドプロデュースし、ライブサポートでもお馴染みの盟友たちが全編に渡り参加。オンエア後から「ぶっ刺さる」と話題の「明大前」など、100%関取花節の全13曲が収録。歌ネットではインタビューも敢行しましたので、ぜひ改めてチェックしてみてください。

 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“関取花”による歌詞エッセイを5週連続でお届け!今回が最終回です。綴っていただいたのは、8月毎週執筆いただいたこの歌詞エッセイそのものについてのお話。関取花にとって、歌詞とは、言葉とは。そして、いつか“自分にぴったりの光”に出会えるかもしれないそのヒントとは。最終回、最後までお楽しみください。



今回の歌詞エッセイの連載もこれで最後になるわけだが、今、私は非常に困っている。なぜなら書くことがないからだ。
 
歌詞エッセイといっても、特に「こういう感じで書いてください」などという指定をされているわけではなく、その歌詞をテーマにした文章なら基本的になんでも大丈夫ですよという、書く側にしてみればなんともありがたい内容なのだが、過去4回の連載で逆に私はそれに甘え過ぎてしまった。というか、こんなことを自分で言うのもおかしな話かもしれないのだが、完全にあれだ。ちょっと初回から本気を出し過ぎた。
 
7月6日にリリースしたアルバム『また会いましたね』の中から、「季節のように」「明大前」「モグモグしたい」「ラジオはTBS」の4曲についてすでに書いてきたわけだが、大体この4つのエッセイを読めば、今回のアルバムの良さも、私という人間のこれまでも、今も、そしてこれからどうしていきたいのかも、なんとなくわかっていただける気がしている。それくらい、それぞれに熱い思いをこれでもかというほど込めて書かせていただいた。
 
もちろん自分の曲について語るのだから、書こうと思えば書くことなんてまだまだいくらでもある。でも、どうせなら過去にどこでも話していないエピソードを出したいし、何より読み物として面白くないと個人的にいやなのだ。せっかくやらせていただくのなら、私のことを知っている人だけに向けたものではなく、私のことを何も知らない人を振り向かせられるようなものにしたい。そうなってくると、書ける内容というのは、クオリティーのことも含めて考えると案外限られてくる。
 
特に、この歌ネットさんという歌詞サイトにアクセスする方々というのは、そもそも“言葉”がちゃんと好きな層だと思うのだ。音楽が配信文化になり、歌詞カードを見ることもすっかり減った昨今だが、それでも“言葉”に興味を持って立ち止まってくれる人は絶対にいると信じて、私はいつも歌詞を書いている。

願わくは、そういう人たちに歌詞そのものもある種の文芸作品として楽しんでもらいたいと、基本的に歌詞だけ読んでも読み物として成立するようにと、いつも心がけている。そんな歌詞にまつわるエッセイを、歌ネットさんで書かせていただくとなれば、当然自分の中でのハードルは上がりまくるわけで、その最終回ともなれば、肩に無駄な力も入る。
 
というわけで、書いては消し、書いては消し、繰り返すこと∞。すでに最後まで書き切った第5回最終回の原稿を、これまでに3つはボツにした。過去4回のエッセイが、自分でも大きく頷けるほどの大傑作(あえて自分で言う)であっただけに、少々、いや相当頭でっかちになっていたようで、ボツにした原稿はあとから読み返すととてもじゃないが恥ずかしくて読んでいられなかった。

最終回だからいいことを書こうとか、綺麗にまとめようという意図がそこかしこから透けて見えて、文章としてはそれっぽくても、安い自己啓発本のような胡散臭さと香ばしさが頭からお尻までぷんぷんと漂う、私が最も嫌うタイプの文章になっていた。だからそれらは綺麗さっぱり全部ゴミ箱に捨てた。こういうのは割いた時間や書いた文字数がもったいないだのなんだの考えないで、とっととポイして断ち切ったほうがいい。歌詞を書く時と同じである。ダメなものはダメ、次行こう、次。
 
そうしてできたのが、今みなさんに読んでいただいているこの文章である。何も考えず、友人に喋りかけるように、今思っていることをとにかく率直にキーボードに打ち込んでいったら、気づけばもうあと少しで2000字というところである。一旦ここまでを読み返してみたが、これはこれで他の回とはまた違う味のある、なんともリアルでなかなかいいエッセイじゃないか。
 
結局、何も持たないで出発したほうが道は開けたりするのである。あれもこれもと背負ってみたところで、思い描いた通りのゴールに辿り着けるとは限らないのだから、何事も考え込みすぎずに取り組めばいい。その中でたくさんの失敗を繰り返しながら、自分が一番輝ける方法、場所を、時間をかけてじっくり探していけばいい。そうしているうちに、いつしか自分にぴったりの光に巡り合ったりするのだろう。あれ、なんかそんな内容の曲あった気がするな。たしか、関取花っていうミュージシャンの「スポットライト」っていう曲だった気がするぞ。
 
……ということで、なんだか最後は結局茶番感溢れる仕上がりになってしまいましたが(笑)、まあそんなところも私らしいということでよしとしましょう。あらためて、ここまで私の拙いエッセイを読んでくださったみなさん、本当にありがとうございました。書きそびれたことがあれば、間もなく始まるツアーのMCできっと話します。次はライブ会場で『また会いましたね』できたら嬉しいです。それでは、またね!

<関取花>



◆紹介曲「スポットライト
作詞:関取花
作曲:関取花
 
◆メジャー2nd FULL ALBUM『また会いましたね』
2022年7月6日発売
UMCK-7170 ¥3000+税
 
<収録曲>
1.季節のように
2.ねえノスタルジア
3.風よ伝えて
4.やさしい予感
5.長い坂道
6.明大前
7.ミッドナイトワルツ
8.道の上の兄弟
9. 障子の穴から
10.モグモグしたい
11.青葉の頃
12.ラジオはTBS
13.スポットライト