さて、今日のうたコラムでは、ヒゲダン・藤原聡(Vo.&Pf.)のインタビューを【前編】【後編】に分けてお届けいたします。長澤まさみ×東出昌大×小日向文世による、史上最大の<騙し合い=コンゲーム>が展開される今作。しかも今回は【ロマンス編】とのことで、色恋沙汰も絡んでくる模様。その映画の世界に寄り添いながら描いた歌詞について、また、作詞のこだわりについて、語っていただきました。本日は【後編】です!
君とのラブストーリー
それは予想通り
いざ始まればひとり芝居だ
ずっとそばにいたって
結局ただの観客だ
「Pretender」/Official髭男dism
― この曲は“韻”も気持ちがよいですよね。率直な疑問なのですが、こうした韻って降ってくるものなのでしょうか…。
藤原:まぁ降ってきません(笑)!じゃあどう作っているかと言うと、説明するのは難しいんですけど…。メロディーを思いついて、そこに語感の気持ちよい歌詞をハメようとすると、自然と韻を踏んでいるというか。ただすごく苦労はします。とにかく韻を踏む場所ほど、最後まで歌詞を悩んでますね。限られた韻の言葉しか選べないなかで、メッセージを伝えなければならないので、めちゃくちゃつらいときありますね。
グッバイ
君の運命のヒトは僕じゃない
辛いけど否めない でも離れ難いのさ
その髪に触れただけで 痛いや いやでも
甘いな いやいや
「Pretender」
藤原:ここのサビも結構きつかったなぁ。“ない”“ない”“がたい”で。探して探して、ひねってひねってたどり着く感じです。でも「Pretender」は僕としてはまだ踏んでないほうですね。たとえば「Stand By You」とか韻だらけですもん。あの歌詞は本当にしんどかったです(笑)。
Stand By You いつもStand By You
涙のターミナル Uh Uh 並んで立っている
Stand By You いつもStand By You
未来がハイになる Uh Uh 君と歌になる
「Stand By You」/Official髭男dism
藤原:たまにこうやって韻に気づいてくださる方がいるんですよね。実は「ノーダウト」も“い”で踏んでいたり、サビでは“お”で踏んでいたり。でも歌詞ってほとんどの場合、韻を優先させると、意味が伝わりにくくなるんですよ。だからそこのサジ加減は毎回かなり考えますね。そんななかで「Pretender」は韻を踏みつつも、よりメッセージを伝えるというところを重視した曲なのかなって思っています。
もっと違う設定で もっと違う関係で
出会える世界線 選べたらよかった
「Pretender」
藤原:ちなみに「Pretender」のなかで<世界線>というワードを使っているんですけれども、僕は『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』というアニメの大ファンでして、このフレーズはそこからインスピレーションを受けたところもあります。そのアニメはタイムトラベルをする話で、世界線というものが並んでいて、もしもこうなっていたら、次はこうなっていたという前提で進んでいく世界というものがあるんですね。
― パラレルワールドのような。
藤原:そうそう。それで『STEINS;GATE』では、主人公がその<世界線>を越えて、世界を変えたいという想いで奮闘していくんです。だから僕にとって<世界線>という言葉はとてもロマンチックなもので、大好きなワードなんです。なおかつ『コンフィデンスマンJP』の物語ともリンクするなぁと思いながら、歌詞を書きました。
あと今回のCDジャケットは“ニキシー管”という、真空官のなかに数字が出てくるものがビジュアルになっているんですけど、それも『STEINS;GATE』に出てくる“ダイバージェンスメーター”という、世界線の変動を示すメーターから影響を受けているんですよね。その値が1を越えると、世界線が変わるんですけど、このジャケットの場合は<0.52519>なのでまだ程遠いですね(笑)。
― 聡さんはアニメから歌詞のインスピレーションを受けることって多いんですか?
藤原:それもあります。でも最近は、何かからインスピレーションを受けるというより、メロディーが連れてくる言葉を大切にしようとしているところですね。僕はこれまで、適当な英語とかで鼻歌を歌いながら仮歌を作ることが多かったんですけど、それを今は頑張って、自分の心の叫びや価値観を日本語で捻り出せるようにしていて。まぁそれによって曲のできるペースが落ちているんですけれども…(笑)。だけどまだ「いつもどおり」とか「言葉が~」とか「伝える」とか、決まったワードばかりが出てきてしまうので、いろいろと模索中です。
― 好んでよく使う言葉ってありますか?
藤原:語感が気持ちよいからなんでしょうけど<知るよしもない>というフレーズがよく出てくる気がします(笑)。「ノーダウト」にも使っているんですけど、今作りかけの仮歌詞にも登場していて、スタッフさんに「聡っちゃん<知るよしもない>って好きだよね~」って言われました(笑)。
― 逆に、使わないように気をつけている言葉はありますか?
藤原:僕自身はあまりないんですけど、汚い言葉遣いをすると「それはやめたほうがいいかも」と言ってくれるひとは、わりとチームのなかにいますね。たとえば「Pretender」でも<「好きだ」とか無責任に言えたらいいな>というフレーズが最初は“「好きだ」とか無責任にホザけたらいいな”だったんですね。でも「ホザく」という言葉は、あまり行儀がよろしくないねと。
僕の価値観では気にならないとしても、誰かにとっては気持ちよくなくて、そのワードのせいで歌詞のメッセージが伝わりにくくなったりしたら嫌じゃないですか。だから、たとえばそういう汚い言葉を他の言葉に置き換えることで、より伝わりやすくなるのであれば、そうしたほうがいいなって。今回も、書き直したことで、僕自身もより好きだと思えるものになったので。そうやって一考の余地を与えてくれるひとが周りにいるっていうのは、良いことだなと思いますね。
― 聡さんが歌詞を書くとき、大切にすることはなんですか?
藤原:歌との親和性ですかね。歌っていて気持ちがよいかどうか。あとは、その気持ちよさを壊す度胸というか、壊すことを恐れない心。どっちも持ってないといけないなと思っていて。型にハメる追求心を持ちながらも、そこから外れる好奇心も常にないと、同じ音楽ばかりになってしまうので。展開や着地点を、信じながらも疑うということを大切にしていますね。
― 最近、グッと来た歌詞を教えてください。
藤原:今年、僕もボーカリストとして参加しているんですけれども、FM802アクセスキャンペーンソングを歌う、Radio Darlings(レディオ・ダーリンズ)というユニットがありましてですね。今回は“aiko”さんが作詞作曲を担当した「メロンソーダ」という楽曲がテーマソングで。その歌詞の、まさに僕が歌っているフレーズがとくにグッと来ました。
メロンソーダがビールになって
ハンバーガーはハンバーガーのまま
「メロンソーダ」/Radio Darlings
藤原:この曲を歌うちょっと前に、母校が甲子園の春の選抜に23年ぶりに出場して。それを観に行ったんですよ。そのとき、同級生と再会したんですけど、なんかみんなそれぞれ結婚してお嫁さんがいたり、お子さんがいたりして。「久しぶりだね!」って言って飲む物は、昔みたいにジュースやお茶じゃなくてお酒だったりして。でも同じ熱量で、頑張っている後輩の球児たちを応援できるという“今”がすごく「メロンソーダ」のフレーズと重なったんですよ。
― たった2行でも、aikoさんの言葉の力というか、表現力は凄いですよね。
藤原:そうなんですよ。さすが、僕に歌詞の素晴らしさを教えてくださったアーティストさんです(笑)。これまで何曲も何曲も歌を作ってきて、それでも未だにこんな新しくて素晴らしい歌詞とメロディーを作れるって、本当に凄いことだと思うし、もう僕にとってaikoさんはずっと“星”ですね。
― ありがとうございました!では最後に、聡さんがこれから挑戦してみたい歌詞とはどんなものでしょうか。
藤原:…下ネタ、をロマンチックに書きたい。たとえばMr.Childrenさんの「隔たり」のような。ああいうの…いいなぁと思うんですよね。だけど、僕自身が下ネタを言っている自分があまり好きじゃないので、どこまでできるのかはわからないんですけど(笑)。でもそういうものが作れたら、もっと表現の幅が広がるんじゃないかなと思います。とにかくより良い音楽、良い言葉を届けられるように頑張っていきたいですね。
【前編】はコチラ!
(取材・文 / 井出美緒)
◆紹介曲「Pretender」
作詞:藤原聡
作曲:藤原聡
◆2nd Single「Pretender」
2019年5月15日発売
初回限定盤 PCCA-04784 ¥2,500+税
通常盤 PCCA-04785 ¥1,000+税
<収録曲>
1.Pretender
2.Amazing
3.Pretender(Acoustic ver.)