僕が愛を信じても、きっといなくなるんだろ?

愛がこわい やさしさがこわい
かみつぶす思いの悔いがこわい
わたしをいのちに誘わないでください
わたしはどこへも行かない 笑わない
ここに このじっとしたひとりの場所に
わたしを解き放ってください
(詩人・吉原幸子「祈り」より引用)


 私たちが【こわい】という感情を抱く理由は主に二つ。まず何かを“思い知っている”場合。または何かが“わからないものである”場合。現在放送中のドラマ『トドメの接吻』の主人公(山崎賢人)もまた、そんな【こわい】を抱えた男です。彼は「欲しいのはカネと権力だけ」というホスト。しかしその根本には、過去のある事件をきっかけに、誰にも愛されずに生きてきたからこその「愛なんか求めようとするから人は不幸になる」という想いがあります。それは同時に【愛がこわい】本心の表れとも言えるのではないでしょうか…。

 さて、今日のうたコラムでは、そのドラマ『トドメの接吻』の主題歌をご紹介いたします!2018年2月21日に“菅田将暉”がリリースしたニューシングル表題曲「さよならエレジー」です。同曲は、自身もドラマに出演している菅田将暉が抱いたイメージをもとに、以前から交友があったアーティスト“石崎ひゅーい”が作詞・作曲を担当。それゆえに歌詞は、まさに物語のテーマにピタリと沿った内容になっております。

僕はいま 無口な空に
吐き出した孤独という名の雲
その雲が雨を降らせて
虹が出る どうせ掴めないのに

はじめてのキスを繰り返して欲しくて
「さよならエレジー」/菅田将暉

 冒頭の<無口な空>とは、答えはくれない、救いもくれない、無情な“現実”を象徴しているかのよう。でも、そこに向けて<吐き出した>のは、今まで自分の中に溜め込んできたはずの<孤独という名の雲>です。これは<僕>が少し【愛】に希望を持った瞬間である気もしませんか…? たとえその【愛】への希望が<どうせ掴めない>し、消えてしまう<虹>のような儚いものだとわかっていたとしても。一瞬だけでも<はじめてのキスを繰り返して欲しい>=“ずっと愛のピークであり続けて欲しい”と願った証に思えるのです。

 想像ですが、そのように<僕>が変化の兆しを見せたのは、前述した【愛がこわい】の質が変わったからではないでしょうか。おそらくこれまでは【愛】に深く触れることすらなく、周りの人々の表面だけを見て“思い知っている”気持ちになり、その上で自分には“わからないものである”と思い込んでいたのです。だけど、そうではなく本当の【愛】に触れた。そして、やっと本当の意味での【愛がこわい】も思い知った。そんな感情が次のサビから伝わってきます。

愛が僕に噛みついて 離さないと言うけれど
さみしさのカタチは変わらないみたいだ
舞い上がって行け いつか夜の向こう側
うんざりするほど光れ君の歌
「さよならエレジー」/菅田将暉


 <僕>にとって本当の意味での【愛がこわい】は、どんなに愛されても結局<さみしさのカタチは変わらない>という事実だったのではないでしょうか。【愛】を思い知っても、さみしくて、哀しくて、空しくて…。だからこそ彼は<君の歌>=【愛】に対して<舞い上がって行け いつか夜の向こう側 うんざりするほど光れ>と想いを捧げたのです。きっとそこに“僕ではない誰かと幸せになれ”という祈りも込めて…。

僕が愛を信じても きっといなくなるんだろ?
それならいらない 哀しすぎるから
さようならさえも上手く言えなそうだから
手をふるかわりに抱きしめてみたよ
流れ星をみた 流れ星をみた
願う僕の歌

そばにいるだけで本当幸せだったな
そばにいるだけでただそれだけでさ

愛が僕に噛みついて 離さないと言うけれど
さみしさのカタチは変わらないみたいだ
舞い上がって行け いつか夜の向こう側
うんざりするほど光れ君の歌
もう傷つかない もう傷つけない
光れ君の歌
「さよならエレジー」/菅田将暉


 さらに、歌の終盤に向けて【愛がこわい】切実な想いはますます強くなってゆきます。本当の【愛】は苦しくて苦しくて、<もう傷つかない>ために、<もう傷つけない>ために、さよならを選んだ<僕>の痛みがわかりますね…。尚、タイトルの【エレジー】とは【哀歌】のことであり、文字通り哀しみを歌った楽曲を意味します。つまり<僕>は【愛】を手放すことで【哀】を手放したかったということでしょう。さよなら“哀歌”は、さよなら“愛歌”とのダブルミーニングであるかもしれませんね…。
 
 菅田将暉が『「まっすぐ伝える言葉」というよりは、ひゅーい君らしい、「どこか切ない言葉」になっています。 寂しくなったりだとか、人恋しくなったりだとか、一人になった時に聞きたくなるような、“寒さ”の中で聞きたくなる一曲です』と語る「さよならエレジー」。是非この季節、一人になって聴き浸ってみてください。

◆紹介曲「さよならエレジー
作詞:石崎ひゅーい
作曲:石崎ひゅーい

◆3rdシングル「さよならエレジー」
2018年2月21日CDシングル発売
2018年1月7日先行配信リリース
通常盤 ESCL-4980 ¥972(税抜)