―― 昨年12月に新木場スタジオコーストで開催されたツアーファイナルですが、振り返ってみてどんなライブでしたか?
大木:そうですね。スタジオコーストでワンマンやったことがなかったので、まずその景色を思い出しますね。ステージ上から見るとギュウギュウに見えるんですよ。普段、武道館やZeppでやってるよりお客さんが近く見える。新規で来てくれた方もいるだろうけど、ずっとファンでいてくれる方がほとんどだったと思うので、その人たちの人生を感じられた1日でしたね。
―― Zeppとコーストで全然景色が違うと思いますが、やり辛さとかやり易さとかありましたか?
大木:やり辛さとかは無いかな。むしろやり易かったですね。Zeppよりっていう意味ではなく、コーストはコーストなりの良さがあって、すごく楽しくやれたのを覚えてますね。
―― 今回、17年振りに当時と全く同じセットリストで、演奏してみていかがでしたか?
大木:まだやれる環境にあるってのが、まずはありがたいですね。当たり前ですが、当時17年後にこんなことができるなんて想像してなかったですし、実際にライブをやるなんて思ってなかったです。そのためにはメンバー、そしてスタッフ全員が生きていたからで、奇跡的だし、これは「当たり前のことじゃないな」って思っています。
今回、ライブをやってというよりは、(ファーストアルバム)「創」のアナログレコードを作ってみて改めて曲を聞くと、やっぱり非常に芯のしっかりした、ぶれてないバンドだなっていうのがすごく分かって、MCでは冗談半分で「色褪せない色褪せない」とか言い続けてたけど、「本当に色褪せないな」と思いました。全曲キラキラしているエネルギーが満ちているし、それをずっと思いながら演奏しましたね。さすがにこの先の17年後に、またこのライブをやる事はもう無いと思うし、アルバム「創」のツアーとしては最後だと思うから、噛み締めながら演奏しました。
―― ツアーファイナルでのハイライト的な、感慨深い所は何かありますか?
大木:あんまりね、ライブ中の事は覚えてなくて、ほとんど景色とか断片的なもので、今思い出しても、なんだろうな…。
―― 逆に何を覚えてますか?
大木:コーストの時はお客さんの景色ですかね。みっちりと詰まったお客さん。
―― 大木さんの場合は、どこかに俯瞰的な自分がいそうな感じがしますけど?
大木:いますよ。絶対常に、ライブ中は俯瞰の自分がいるんですが、でも過去のこと覚えてないんですよね(笑)
―― (笑)
大木:本当数日で忘れちゃう。だから多分、すっごく本気だと思うんですよ。で、冷静にやってるのは、このライブのためだけに存在してる自分で、今ここにいる自分が冷静にそれを見てるわけではなくて…。
―― なるほど。
大木:ライブ中には明らかに冷静な脳はあるんですが、記憶にとどまらないってことは、多分そういうことなんだと思います。自分もライブの2時間の間だけ何かが開いてるんだと思うんですよ。極度の興奮状態にいるから、スッとしてるんだと思う。冷静で。
―― だからこそ俯瞰で見れるんでしょうね。
大木:そうですね、でもそれは忘れちゃって。。終わったらその自分はいないんですよ(笑)
―― 面白いですねー。ゾーンのようなものですね。
大木:そうそう、そんな中でもたまに「自覚的なゾーン」っていう時もあるんですが、それはもう数年に一回しか訪れません。「体も楽だし」「俯瞰の自分も消えるし」「言葉もスラスラ出るし」「光も全部一個にしか見えなくなったり」というのはあるんですけど、そうそうないですね。そうそうないし、そういうのを覚えてないという事は、常にプチゾーンなんだと思いますね(笑)
―― なるほど、面白いですね。で、今回アンコールで『灰色の街』をやろうと思った切っ掛けは何だったんですか?
大木:元々新曲ができた時に、ライブでいち早くやりたいなって思いは昔からあったんですが、反応を見るのが怖いというのもあったり、音源でちゃんと聴いてもらってからって思いもありまして…。でも、よくよく考えたらやっぱり目の前のお客さんに初めて聞いてもらうのが一番シンプルだってことに気づきました。
―― そのタイミングの時に、このツアーが偶然あったと。
大木:そう、偶然です。で、当時のセットリストを見てまして、だけどアンコールに何を演奏したのかも全然気づいてなくて。そしてライブリハの数日前に、(当時新曲の)『飛光』が初披露だと、音源リリース前にアンコールで新曲を演奏したのを思い出して、今回は『灰色の街』をアンコールでやろうと考えていたので、「ちょうど17年前と一緒のことを偶然やってるんだ面白い!」と思いまして。それをあたかも計算でやってましたかのようにMCで言おうって決めました(笑)
―― なるほど(笑)
今の世の中では当たり前ですが、ラジオ、CD、サブスク等々、必ずどこかで聴いて何かしらの情報を得た上でライブでその曲を聴くかと思います。でも今回は100%情報が無い状態で、初見で初めて聴くじゃないですか?非常にこれが面白いと感じました。
大木:そうですね。
―― お客さんの反応や感想はどうでしたか?
大木:最近、言葉をなるべく届けやすいようにしているので、一回聴いただけで皆かなりの確率で理解してくれてると感じましたし、非常に嬉しかったですね。皆の感想も自分の願っていた感じの感想で、この気持ちは言葉にはならないし、うまく言えないんだけど「こういう感情になってほしいんだよなー」っていう想いを、自分自身より皆の方がうまく言葉にしてくれて非常に嬉しかったですね。
―― 『灰色の街』を描くにあたって、何かテーマみたいなものはありましたか?
大木:僕は純粋さと言うか、持って生まれた生命のエネルギーだったり、美しさだったり、儚さだったりみたいなもの、言葉にできないものを何とか形にしていきたいと思っていまして。僕は皆で一緒に踊って欲しい欲望はあまりなくて、でも狂喜乱舞するくらいのエモーショナルにはなって欲しい欲望があります。やはり一番は感動して欲しい。そういう感動できる楽曲が出来たかなと思っていますね。
―― 『灰色の街』はどんな詩の世界で、具体的なイメージとかはありますか?
大木:イメージとしては大都会です。物質文明のなれの果ての世界観を歌っていて、それが良いか悪いか人間(生命)としての答えはまだ出ていない。ただ、僕らはそこで生まれ、そこで生きているのは事実で、今から自然の元に帰って自然と共に生きるというもっと残酷な世界に生きるのは難しい。だからまずはその世界を受け入れた上で、その「灰色の街」が色付くも色付かないも、自分たちの考え方次第であり、それを色付けるために歌があり、芸術家は存在するんだと思うんですね。
それをこの曲では、ちょっとSFチックですが、灰色の都会を歩いている少年なのか少女なのかが、夜空を見上げたら綺麗な色の音が降ってくる、そして世界が色に染まっていく。そういう、美しく昇華していって欲しいなという思いですね。
―― なるほど、実際にライブで新曲『灰色の街』を初めて見たファンの皆さんはどういったリアクションでしたか?
大木:レビュー全部は読めていないのですが、凄く良かったし、ライブで訪れた各地の感想も皆良くて、初めてこの曲を聞いてくれた、特に「ACIDMANを初めて聴きました」っていう人が良いって言ってくれてることが非常に多くて。それが嬉しかったですね。
―― 歌ネットでは今回、ACIDMANの特集記事を連続して数回にわたり掲載させて頂きました。
<Zepp公演のライブレポ><ライブ招待の当選者による感想>
そして今回、大木さんに登場いただいて、インタビューさせて頂いております。
そこで、ツアーファイナル東京公演の当選者からライブの感想が届いていますので、実際にここで読んでいきたいと思います。
―― まず、一人目ハンドルネームharuさん。
大木:ありがとうございます。
―― 続いて、ハンドルネーム、イカボッドさん。
大木:ありがとうございます。
―― 続いて、ハンドルネーム、SMILEさん。
大木:ありがたいですねー。
―― 続いては、ハンドルネーム、シスターさん。
大木:ありがとうございます。
―― 続いては、ハンドルネームkyanさん。
大木:うまいよねー。文才ありますねこの方。しかもちゃんと理解してくれてる。
―― 次はちょっと長いです。ハンドルネーム、ニコ太朗さん。
大木:ありがとうございます。すばらしいですね。
―― 最後、ハンドルネーム、mokocccさん。
大木:ありがとうございます。
―― 皆さんからの感想いかがでしたか?
大木:嬉しいですね。すごく嬉しいし、有難いし、本当に言葉にするのが上手いなと思って。「あとバレバレだな俺」っていうのもある(笑)
―― (笑)
一見、大木さんって難しいように見えるじゃないですか?だけど難しいってことがちゃんと分かりやすく伝わってると言うか、そこまでファンの皆さんに届いているっていうのが凄いなって感じますね。
大木:こうやって言葉にしてくれると、さっきと一緒になってしまうんですが、「こういう事だよ」「そうなんだよ」「合ってるよ」みたいな。僕が言葉にできなかったことを、皆が具現化してくれてますね。
―― 今回のツアーの焦点はあくまでも「“創、再現”」ではあるんですが、『灰色の街』という新曲をツアー中アンコールで演奏して、こういった感想や言葉達がライブ毎に届くのは、すごく嬉しい事ですね。
大木:そうですね。宝物だと思いますし、彼ら彼女らの1人1人の人生に1つの種を撒く事ができたのは凄く嬉しく思いますし、その人達の人生がより豊かになって頂けたら、本当にACIDMANをやっている意味が更に出てきますね。
―― 先ほども「感動して欲しい」って言っていましたけど、これこそが本当に「感動」だと思いますね。まだリリースされてない状況で新曲『灰色の街』にこれだけの感想が届いているって言うのは。しかもまだレコーディングしてないですよね?
大木:まだしてないです。
―― まさに、本来の音楽のあるべき姿ですね。
大木:そうですね。
―― 最後になりますが、今後『灰色の街』はどういう形で動こうとしてるんですか?
大木:この曲を各地で披露することにより、背中を押して頂いたり勇気が湧くんですよね。反応がイマイチだったら出す意味ないと思っていたんですが、こういう反応だったり、みんなの意見だったり、ライブでの感想だったりで、やっぱりこの曲は「リリースしていい」と、「応援していただけてる」と、背中を押してもらってる状況ですので、いつにするかはまだ決まっていませんが、皆さんのおかげで、僕の中ではリリースする事は決めました!
―― この曲が世の中の様々な方々へ届く事を願ってます。
大木:ありがとうございます。