やはりここで1度、きちんとあの時の証(あかし)や楔(くさび)を残しておかなければ次へは進めないーー。そんな気概や覚悟、信じて待ってくれていたファンへのありがたみと感謝がライヴの随所からうかがえた一夜であった。
当初は昨年末に行なわれる予定だった最新アルバム『STYLE』を携えた、この全国ツアー。智(Vo)の病気療養のため、約1年後のこの時期に延期されて行なわれたわけだが、その間にも時は流れ、バンドはニューシングル「CRACK&MARBLE CITY」を発表。休止期間には自身やバンドに改めて向き合い、気持ちや音楽的にも変化が表れ、当然、気持ちは『STYLE』以降へと移っていく。従って、タイトルこそ“STYLE”と掲げているはいるが、現行やこれ以降のvistlipを魅せるライヴを私は予想していた。しかし、それはハズれた。いや、もちろん現行や今後を予感させる要素や場面もあったが、それ以上に、しっかりと『STYLE』の楽曲たち全曲が、当時はこのように鳴るはずだったと改めて誇示された一夜となった。それは「CRACK&MARBLE CITY」から1曲しか演らなかった、そんな意地からも垣間見れ、それらに私は彼らが次に向かうための大事な禊(みそぎ)を見い出した。
vistlipが11月1日、昨年末より延期となっていたツアー『New ERA STYLE』の最終公演がマイナビBLITZ赤坂にて行なった。同会場では実に9年振りのワンマンであり、やはり現在ではそのキャパでは収まり切らず、急遽2階席にもお客さんを入れるほどの超満員状態に。
登場SEとして『STYLE』の頭を飾っていたインスト「New ERA」が暗転した場内に響き渡る。まだ暗いステージにYuh(Gu)、海(Gu)、瑠伊(Ba)、Tohya(Dr.)のシルエットが。間を置き智(Vo)の姿も。そのまま同曲をプレイ。そこからアルバム同様の流れにて「Timer」へと引き継がれる。“いくぞ赤坂!”と智。ヘヴィさを経て現れる美しさを擁したメロディアスなヴォーカルと、サビで現れたストレートさが会場を並走させていく。序盤は『STYLE』の中でもヘヴィな曲たちが占めた。会場に声をあげさせバウンスを生んだ「My Name is #Think.」では瑠伊のベースによる運指によって躍動とドライブ感が育まれ、Tohyaのビートが会場を躍らせた「Original Words Complex」ではプリセットされたクラップも高揚感を煽り立てる。また、性急的で緊迫感のあるシンセ音とともに届けられた「[glider]」ではYuhのギターソロと海のコーラスも印象深かった。
MCでは智が“全国で培ったエネルギーの集大成をここで魅せる”と宣誓。以後数曲は『Style』の中でもユニークな曲たちが続く。Tohyaの跳ねるビートにYuhのファンキーなカッティング、瑠伊のスラッピーなベースの上で智がラップ風に歌った「ELIZA」、上昇感も心地良かった「Hey You!」では爽快感が呼び込まれ、「INPUT」では独特の景色感が場内をここではない何処かへと誘っていった。対して旧譜からの「Dead Cherry」の際にはアグレシブな海のプレイをはじめ、各位フォーメーションを変えながらの演奏も特筆すべきところだろう。
重複するがこの日は9年振りのBLITZ。次のMC部では“時の流れでメンバーがどれだけ変わったか?”と9年前の同会場でのメンバー各位の当時の写真が公開され、現在との比較が会場を交えて行なわれた。選んだ写真類にやや悪意がうかがえたのはご愛嬌。みんないい感じに育っており、中には今や容姿が変わり果てたメンバーも...。そして、智より“続けさせてくれてありがとう。愛想つかされてもしょうがないと思っていたけど、みんな待っていてくれたし、こんなリベンジライヴもできた。これからも保証のない未来を一緒に作っていこう!”と告げられ、その言葉を歌化させたような「chapter:NOVEL」へ。《忘れられない、忘れちゃいけない》のリリックも美しく響いた同曲を経て、エレガントなピアノの音色に合わせて智が「BLACK MATRIX」を歌い出す。同曲の擁したドライブ感が会場を走り出させ、満場を眺めの良い場所へと連れ出した。
ここからは往年曲たちも交じり、それらもかつてとは違った映え方を魅せる。「Sara」がその疾走感とモータドライブ感で場内を引っ張れば、雅やかなインストを突き破るように「-OZONE-」が現れると、高速でミラーボールも回り《何度でも何度でも生まれ変わるんだ》との印象深いフレーズとともに幻想的な空間を作り出す。続いては“ファイナルに相応しい熱いライヴにしてくれてありがとう”と智を経て、「Underworld」が特別にアコースティックスタイルで贈られた。他会場ではフロアー後方で行なわれたアコースティックスタイルであったが、この日はステージにて。“ダイレクトにファンを感じられた、いいツアーだったので感謝の気持ちも込めて”と、2本のアコギ、エレキベース、カホン、そしてヴォーカルにて、とても大切にしてきた同曲を温かくもしっかりと伝えた。さらに、“俺たちだけじゃライヴができないことを改めて感じさせてくれた”ことへの感謝を込めて「HONEYCOMB」が会場をガシッと抱きしめる。
ここからは後半戦。「And The Beast.」では観客も一緒に特製の振り付けで踊り、最新シングルから「CRACK&MARBLE CITY」がさらに場内を眺めの良い場所へと導く。また、「It」がとてつもなく景色の良い約束の場所へと連れ出し、神々しくも気高かった本編最後の「OVER TIME」では会場交えて一緒に歌われた《Stay with me now》をリアルに体感。ステージもフロアーも浄化され昇華されていくさまを見た。“いつかこの歌をみんなと超でっかいところで歌おう”とは智。この言葉とともに彼らは一旦ステージから去った。
アンコールはこれからの代表曲たちが披露された。スポットライトが智に当たる中、ピアノの音色に乗せて「And The Beauty」を歌い始める。同曲ではストリングス音も加わり、瑠伊もアップライトベースを起用。より感情移入された智の歌声とともに、同曲を感動的に会場全体へと響かせていった。そして、“自身で泣ける曲が書けてこそのミュージシャン。これからも自分たちは身を削ってでも曲を作っていく。それだけは裏切らない。これからも信じてついてきて欲しい”と智が満場とアライアンス。海からは“このツアー後は来年発売予定のミニアルバムの制作へと入る。その際にはツアーも考えている”ことが告げられた。以後は“暴れ足りないだろ!”と言わんばかりにアグレッシブなナンバーを連射。ザックザクな海のギターも特徴的だった「EVE」では場内に無数のヘドバンの花を咲かせ、ビジョンに映る振りに合わせて場内も楽しく踊った「Heart ch」につなげると、ラストは「LION HEART」が会場を激震させた。
“赤坂愛してるぞー! 一本一本全力でぶつけ、一からという気持ちで臨んだ。改めて自信持ってやっていこうと思う。これからも一緒に歩いていきましょう。いつも支えてくれてありがとう”との智の言葉を場内に残し、彼らはまた次のフェイズへと向かって行ったーー。
作品をリリースし続けていく上で、どんなに素晴らしい楽曲ばかりが詰まった作品とて、以後のツアーで全曲がセトリに組み込まれていくことはない。次のツアーからでも、この『STYLE』に入っているうちの数曲はライヴで観れなくなることだろう。曲はバンドの子供であり宝だ。がゆえに、きとんと1度はみんなの前でお披露目させてあげたい。そう思うのが親心でありアーティスト心だろう。元来レコ発ライヴの意義はそんなところにもあるような気がする。このツアーから以降、『STYLE』のどの曲がレパートリーとなり、逆にライヴでやらなくなるのかは今はまだ分からない。そう考えると、この全曲プレイされたレコ発ツアーは、当ラインナップで楽しめる最初で最後ということにもなる。なんて尊いんだ。ようやくアルバム各曲が成就したかのように映った、この日のライヴ。このツアーの末席にも参加できて本当に良かったと今も思っている。
撮影:nonseptic/取材:池田スカオ和宏
vistlip
ヴィストリップ:2007年7月7日に結成。以降、七夕の日には結成記念ライヴが開催されている。ヘヴィなものからメロディックなものまで幅広く、かつジャンルに縛られない楽曲であり、海がディレクションを務めるアートワークやMVなど、唯一無二の存在感を放っている。また、智が手掛けるストーリー調のものであったり、メッセージ性の高い歌詞にも定評がある。