ファンクやディスコ歌謡を導入し、共同プロデューサーにJ-POPやアイドルのワークスで知られる島崎貴光を迎えた意欲作『マリアンヌの奥儀』を6月にリリース。同月末の札幌からスタートした11公演のセミ・ファイナルである東京公演は、もはやキノコホテル所有の宴会場かと言うほど似合いのキネマ倶楽部。大阪&沖縄公演を残しているので、曲順などの詳述は避けるが、これだけは明言できる。キノコホテルは非常にモダンで多彩なロックバンドであり、タフなライヴバンドへ進化の真っ最中であると。
ニューアルバムの聴きどころと言えばストリングスやホーンを導入した、支配人ことマリアンヌ東雲(歌と電気オルガン)がキノコホテル以前から実現したかったというゴージャスなサウンドがあるが、ライヴでは当該曲である「愛の泡」で女性ホーン3管(サックス、トランペット、トロンボーン)が緩急を押さえたフレーズでアレンジの幅を拡張。過去曲やソロ回しでは痛快にブロウし、フロアーの歓喜も最高潮に。しかも彼女たちの衣装が往年のコーラスグループ(例えばシュープリームスなど)をイメージさせたのもキノコホテルらしい演出だった。
新作のリード曲である「ヌード」でのイザベル=ケメ鴨川(電気ギター)の歯切れの良いカッティング、ジュリエッタ霧島(電気ベース)の腰にくるフレージング、ファビエンヌ猪苗代(ドラムス)の削ぎ落としたモダンなビートは現行のソウル/ファンクを参照したアーバンなバンドに匹敵もしくはそれ以上にグルービー。ホラーテイストのスカチューン「東京百径」、パイプオルガン調の荘厳なイントロを持ちつつポストパンクな削ぎ落としたビートの「雪待エレジィ」など、支配人が歌に対する比重を増やし、曲の主人公に没入できるだけの演奏が際立っていた。もちろんギターソロではイマジネーションにあふれるノイジーなギターを聴かせたり、ガレージライクな部分も存分に楽しませてくれながら、である。
そして、特筆すべきは本編、ほぼノーMC、チューニング以外はノンストップで拡張したジャンル感ひと連なりのグルーブで成立させたことに尽きる。支配人の脳内世界を具現化する従業員という成り立ちは変わらないものの、ライヴでのキノコホテルは過去最高にテクニック&センスともに現在進行形のバンドに進化を遂げていたのだ。支配人のソロが実現するのも、ロックバンド・キノコホテルのオリジナリティーが確立された今、非常に納得がいく。
オリジナルではあるけれど、今のキノコホテルはキワモノというには真っ当にカッコ良い。オルタナティブなガールズバンドとして1度ライヴを目撃してほしいと心から願う。
撮影:にしゆきみ/取材:石角友香
キノコホテル
全ての楽曲を手がける鬼才・マリアンヌ東雲を中心に創業された謎めいた女性だけの音楽集団。2010年2月にアルバム『マリアンヌの憂鬱』でデビューする。キュート&クールなルックスと強烈なキャラクター、楽曲のクオリティーや実演会(ライヴ)での爆発力は唯一無二。パンク/ニューウェイヴ、60'sロックンロール、プログレ、ラテンなど、さまざまなサウンドを昇華した濃厚な音楽性で、老若男女、メジャー/アンダーグラウンドを超えて幅広く浸透しており、その中毒性は高く、“いつか視た幻”のような既聴感を憶える“ありそうでなかった音楽”を提供し続けている。