支配人マリアンヌ東雲の4回のお召し替え、どこか昭和を感じさせる紫ベビードールたちによるエロティックなダンス。創業10周年のひとまずの区切りとなるツアーファイナルを、支配人は自身の音楽的エゴではなく、バーレスクやレビューにも似た圧倒的なエンターテインメントで見せつけた。とにかくマリアンヌ東雲という人は、まだるっこしくアカデミックな表現を嫌う人であることは十二分に分かった。そんな無粋なことを彼女は許さない。
現在のキノコホテルの実力を知らしめる新作(リテイク集というのはなんだかしっくりこない)『プレイガール大魔境』の聴きごたえを実演会(ライヴ)という場でより鮮明にした「あたしのスナイパー」や「悪魔なファズ」のアグレッシブでいてどこか洗練されたテイスト。そして、個人的なハイライトだったのが、おおくぼけい(アーバンギャルド)をピアノに迎え、ジュリエッタ霧島がアップライトベース(そもそも彼女はジャズ畑出身だが)に持ち替えての「荒野へ」と「月よ常しえに」。ジャジーとか大人の雰囲気とか陳腐な表現を超える、おおくぼの山下洋輔もびっくりなフリーキーなプレイとマリアンヌの電気オルガンのアンサンブルが鮮烈に印象に残った。また、イザベル=ケメ鴨川がペダルスチールでサイケデリックなサウンドを鳴らし、極限まで他の楽器の音を削ぎ落とした「風景」では、それこそOGRE YOU ASSHOLEやROVOファンにも体感してほしいほどの人力トランシーな演奏が展開された。
男性だからロジカルで女性だから直感で...というのはあたらないと思う。キノコホテルのセンスは性別を超えている。ただ、アウトプットの仕方がとても癖のあるエロティックなものだというだけだ。マリアンヌが電気オルガンにまたがり鞭を振るおうが、ランジェリー姿のダンサーがお立ち台でくねくね踊ろうが、その全てがプロフェッショナルなだけに、ただただ“カッコ良い!”と感じる。自分の好きなものはこれなのよ!と明言できるカッコ良さ。今のマリアンヌ、そしてキノコホテルは女が惚れる女を地でいくバンドに進化していた。
“10年なんて言っても私たちなんかより長く生きてる人の方が多いと思うのね。当たり前のようで決して当たり前ではない10年、何かを頑張っても褒めてもらえることなんてあまりない。でも、今日はこんなにたくさんの方がお祝いに駆けつけてくださった。キノコホテルの10年は私の10年であり、皆様の10年でもあります。皆様のささやかなレジャーとして存在できることに喜びを感じております”と感謝を述べた支配人。加えて“最近この”レジャー”って言い方が気に入ってるのね”と付け加えたあたりに彼女のアーティストとしての矜持を見た想いがした。
撮影:大参久人/取材:石角友香
キノコホテル
キノコホテル:全ての楽曲を手がけるマリアンヌ東雲を中心に結成された女性だけの音楽集団。“いつか視た幻”のような既聴感を憶える“ありそうでなかった音楽”を提供し続け、国内外で実演会(=ライヴ)も展開している。