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LIVE REPORT

エレファントカシマシ ライヴレポート

【エレファントカシマシ ライヴレポート】 『日比谷野外大音楽堂 2019』 2019年7月7日 at 日比谷野外大音楽堂

2019年07月07日
@日比谷野外大音楽堂

30年連続で野音のステージに立ち続けるとはどういうことかーーそれを体現したような日比谷野音2デイズの2日目を観た。今では安定的な人気と実力を備えたベテランバンドという印象を持つ若いリスナーも少なくないだろうが、メジャーレーベルとの契約解除やメンバーの病気・不調など、およそバンド、そして人間なら体験する苦難をその度に乗り越えてきたのがエレファントカシマシという存在だ。

しかし、今は今を謳歌しよう――2019年のエレカシの野音、特に序盤はマイペースな滑り出しだった。というのも、サポートに細海 魚(Key)を加えた、いわゆる基本編成で、ゆったり構えたビート感。何より宮本浩次(Vo&Gu)が刻むギターリフやカッティングがオフビート気味だ。「シグナル」「孤独な旅人」など、“今も自分を見つめる道の途中にいる”という宮本の核心部分が淡々と刻まれていく印象で、ライヴ冒頭からファンもこのバンドの代替不可能な強い意志を味わったのではないだろうか。

徐々に色合いを変えていく選曲の中でも個人的にはUSインディー的なサイケデリックなニュアンスを石森敏行(Gu)のスライドギターに感じた「面影」、蔦谷好位置(Key)とヒラマミキオ(Gu)をゲストに迎えた「こうして部屋で寝転んでるとまるで死ぬのを待ってるみたい」や、荒井由実のカバー「翳りゆく部屋」の荘厳さの中で、日比谷公園を突き抜け、かなたのビルまで届きそうな宮本の真っ直ぐな歌唱に射抜かれた。

すでに蔦谷が参加したあたりから、2000年代に宮本が外部のプロデューサーやミュージシャンとコラボレーションを行ない、新たな表現方法を獲得していった軌跡が選曲に表れていたのだが、アルバム『STARTING OVER』で重要な役割を果たした金原千恵子ストリングスから、すでにさまざまなライヴでお馴染みの金原千恵子(Vl)と笠原あやの(Cello)が「リッスントゥザミュージック」「彼女は買い物の帰り道」で、圧倒的な映像喚起力を誇る弦のアレンジを加えていく。特に「彼女は〜」のエンディングに向かう、ファンクもThe BeatlesもLed Zeppelinも内包したような迫力のあるアンサンブルは、宮本の書く物語性のある世界観と、彼の縦横無尽な歌唱がコラボレーターを刺激してきたことを証明している。近作「Wake Up」から勇壮でアフリカンリズム的なビート感のある「旅立ちの朝」まで一気にテン年代のエレカシの音楽的な挑戦を、さらに2019年の力で鳴らし切った。

続くブロックでは起死回生を狙ったポニーキャニオン移籍後のアルバム『ココロに花を』で力を貸してくれたと感謝を込めて土方隆行(Gu)を迎え入れ、「四月の風」「悲しみの果て」を演奏。さらに今は亡きプロデューサーの佐久間正英にもリスペクトを述べ「今宵の月のように」を披露。コアなファンにはかなわないが、「悲しみの果て」を何十回聴こうとも、その都度自分の心が映し出され、腹の底から力が沸くのが分かる。特に野音は界隈の見知らぬ人々にも聴こえると思うと、あらゆる人に届いてほしいと願ってやまない。ナイーブなことを言えば、この梅雨空の下、誰もが同じ人間なのだと思った。16曲を丹念に演奏し、ここで第一部は終了した。

比較的早く、第二部はグッとギアを上げて「RAINBOW」からスタート。続く「かけだす男」は全てをなぎ倒す勢いで、バンドのスピード感が序盤とまるで違う。そして、いきなり歌始まりの「月の夜」が今生まれたメロディーかのように届く。浮世離れした至高のアルバム『生活』の研ぎ澄まされた世界観は、30年分、強度を増しつつも一切の贅肉を付けずに存在していた。このバンドへの絶大なる信頼の所以のひとつだ。

終盤はもはや今さら言うまでもないが、中学の同級生から続けてきた奇跡的なバンドを象徴するような「友達がいるのさ」、そしてゲストも全て迎え入れての大団円を石森、土方、ヒラマというトリプルギター、金原たちのストリングスという分厚いアンサンブルで「ズレてる方がいい」のエレカシ流としか言いようのないハードなロックへ昇華。30回目のアニバーサリー感もあるが、ベテランミュージシャンが本気でエレファントカシマシという無二のバンドで緊張感のある抜き差しを楽しんでいる。彼ら全員、そして野音にいるファンも含めて全員サバイバーだ。全員で拳をあげたくなるような気分で本編が終わった。

本編途中に宮本が“雨だといい男っぷりが上がる気がして”と、客席の男性にも“ねぇ? 大将もそうでしょ?”と、彼らしい粋を感じさせる場面もあった。余談だが約1年前、彼らは初めての『フジロック』のステージで“絶対負けられない50分”に懸けていた。結成30年以上のバンドが血相を変えてチャレンジする姿にボロ泣きした。そして、30回目の野音は宮本曰く館長さんと顔見知りになるほどのホーム。ワンマンライヴ、フルセットの組み方がある。だが、それでもこのバンドは一瞬先に保険をかけない。雨で濡れたステージで宮本は派手に転倒していた。

アンコールのラストに4人だけで演奏した「星の降るような夜に」を聴きながら、この先も“しょうがねえなぁ”と言いながら、この4人は歩き続けるのだろうと思った。一方的に尊敬されるのではなく、自分や仲間のことを投影できる存在。帰り道、雨でふやけてしまいながらも、静かに活力を漲らせるファンの顔が美しかった。

撮影:岡田貴之/取材:石角友香

エレファントカシマシ

エレファントカシマシ:1981年結成。88年3月、EPIC SONYよりアルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI』、シングル「デーデ」でデビュー。17年、デビュー30周年アニバーサリーイヤーに突入。デビュー記念日の3月21日にはキャリア史上初となるオールタイムベストアルバム『30th Anniversary 「All Time Best Album THE FIGHTING MAN」』をリリースし、3月20日の大阪城ホールを皮切りに、12月まで続くバンド史上初となる47都道府県ツアーの開催を予定している。