昨年秋にスタートした全国ツアー『The 35th Anniversary Tour "Gracia"』のファイナルであり、デビュー35周年のグランドフィナーレとなる、26年振りの日本武道館公演。また、この4月19日というのは、ビックヒットナンバー「Return to Myself 〜しない、しない、ナツ。」がリリースされて、ちょうど30年というメモリアルな日。しかも、昨年8月リリースのアルバム『Gracia』だけでなく、今年1月に発売したベスト盤『Light For The Ages -35th Anniversary Best~Fan's Selection-』も携えるかたちとなった本公演は、MCでも“必ずやエポックメイキングになるコンサート”と言っていたが、浜田麻里にとって節目であり、集大成であり、次のフェイズを示すライヴとなったことは言うまでもない。そして、それ以上のものが提示されたことも追記したいーー。
最新アルバム『Gracia』より爽快な「Right On」で幕を開けると、浜田麻里の代名詞とも言えるハイトーン&ロングトーンが観客に衝撃と高揚感を与え、さらに気鋭のバンドメンバーの超絶演奏が光るヘヴィチューン「Disruptor」で圧倒。そして、3曲目にしてベスト盤のファン投票でダントツの1位に輝いた「Blue Revolution」が投下され、場内の熱気は一気に高まった。その後も「Return to Myself~しない、しない、ナツ」をはじめ、35年の軌跡を彩るキラーチューンが続き、バラードブロックでは初期メンバーである増崎孝司が奏でるアコギをバックに深みと温もりを纏った歌声を聴かせた「Promise in the History」、圧巻のフェイクに共鳴するように心の奥が震える「Canary」で感動と喝采の拍手を誘う。観せ場はそれだけではない。なんとサプライズゲストとしてMR.BIGのビリー・シーンが登場し、6弦ベースを操るBOHとのツインベース編成となる場面も。ISAOの多弦ギターでのライトハンド奏法や原澤秀樹の高速ドラムなど、本ツアーより参加した若手メンバーのエネルギッシュなテクニカルなプレイも含め、場内のHR/HMフリークを大いに沸かせた。
終盤戦に入ると“35年前にバックします!”との宣言から2ndアルバム『ROMANTIC NIGHT〜炎の誓い』収録曲「Jumping High」で客席を焚き付け、ドラムソロをはさんで『Gracia』からのスピードナンバー「Black Rain」でラストスパート! ストリングス隊を従えたドラマチックな「Zero」で本編を締め括り、アンコールでは初期ナンバーのメドレーで大合唱を巻き起し、オーラスは壮大なミッドナンバー「Tomorrow」。切々と歌い上げる言葉のひとつひとつに込められた想いもそうだが、35年歌い続けてもパワーダウンしない歌声に、ただただ感服。インタビューの際にも“歳を取ったから丸くなるとか、メロウになるとか、そういうのと逆行した自分でいたい”と語っていたように、そこに彼女のプライドであり、生き様を感じた。
“回り道をしないと見ることができない景色もあります。幸せは結果ではなく、志ともに進む過程にあるんです”“楽しむための歌があると思います。一方で魂を絞り出す手段としての命の歌があります”——これは本公演での浜田の言葉。デビュー35周年の軌跡を描きつつも最新作『Gracia』が軸となり、アニバーサリー的な側面の中で、今なお戦い続けている姿であり、浜田麻里という生き方を見せつけられた本公演。“私はみなさんの明日になろうと思います”とも言っていたが、約2時間半に及んだライヴは、その佇まいがメッセージでもあって、明日に立ち向かうための力をもらったのは筆者だけではないはずだ。
撮影:堀田芳香/取材:土内 昇
浜田麻里
ハマダマリ:15歳でプロシンガーとしてのキャリアをスタート。大学時代に参加した女性ロックバンドMisty Catsで出場した『East West'81』でスカウトされ、1983年4月にアルバム『Lunatic Doll』でデビュー。数多くのコンサートツアーとコンスタントなアルバムリリースにより、本格派女性ロックヴォーカリスト、ヘヴィメタルの女王としての地位を確立。80年代後半にはメタルクイーンからの脱皮を図り、幅広いフィールドで魅力が発揮できるアーティストへと転身。デビュー35周年の18年には通算26作目となるアルバム『Gracia』をリリースするなど、精力的に活動を続けている。