“ROCK × ORCHESTRA”...特にHR/HM系のロックとクラシック音楽は親和性が高いため、海外では古くからDeep Purpleをはじめ、METALLICAやYngwie Malmsteen、日本でもX JAPANや布袋寅泰がやっていたが、バンドやギタリストではなく、ロックシンガーとなるとあまり聞かない。もちろん、ポップス系のシンガーであればJUJUや倉木麻衣など名前を挙げばきりがないのだが、そこは趣が違うのだ。約70名のオーケストラをバックに歌うという感じではなく、対等...いや、むしろVS。だからこそドラマチックに構築された楽曲の中で主役が目まぐるしく変わっていき、壮大や荘厳を超えた、パワー感もあれば、包容力もある音像が構築されていく。“ROCK QUEEN × ORCHESTRA”とタイトルに掲げられた浜田麻里のシンフォニック・コンサートは、まさにそんなライヴだった。生の音だからこその温もりあり、多重奏だからこその響きに何度も体が震えたーー。
会場に足を踏み入れると、すでに空気が張り詰めている。それは緊張とかの類いのものではなく、もっと清閑なもの。ステージ上に式台、ハープやマリンバ等の普段は見慣れない楽器、演奏者の椅子が何脚も並び、中段には天井にまでそびえ立つパイプオルガンが鎮座している。また、観客の服装も東京芸術劇場という場所に合わせているようで、いい意味でシック。いつものロックやポップスのコンサートのソレとは違う空気は、そういったものが醸し出していたと言える。
開演時刻となり、拍手で迎え入れられた日本フィルハーモニー交響楽団が序曲的に「Return to Myself」を演奏。繊細な音色が幾重にも重なり合って築く、ダイナミックなオーケストレーションにいきなり心を持っていかれた。しかし、本番はこれからだ。紺色のドレスをまとった浜田麻里が姿を現すと、「In The Precious Age」へ。アカペラのイントロダクションにストリングスが重なり、それらを押し出すようにブラスが入り、歌声が秘める凛とした力強さが引き立てられる...おそらく2分にも満たない時間なのだろうが、すでに心が震え出している。それは続く、「Stardust」も同じ。浜田麻里の艶やかな歌声が体に染み渡り、そのビブラートは会場ごと聴く者の心を震わせる。また、ストリングスは際限のない広がりを楽曲に与え、ブラスは大地の息吹のごとくとどろき、ウインドチャイムや鈴の音色が星のきらめきをイメージさせる。楽曲を構成する音の数々、その全てに耳が奪われていた。
今回のシンフォニック・コンサートは初めての試みということで、“デビュー32年目の冒険”や“シンガーにとって究極の夢のひとつ”と語った浜田麻里。そして、“今しかない一瞬が永遠に心に刻まれる、素晴らしい時間になりますように”と言葉を続け、「Cry For The Moon」や「Tomorrow」といった代表曲を歌い上げていく。その歌声は圧巻としか言えず、オーケストラが構築するドラマチックな音像を舞台に、喜怒哀楽を表現するさまは、まるで一曲一曲の物語を演じる独り芝居の女優のよう。高い天井を効果的に使用したライティングも楽曲のドラマ性を演出し、ステージ上の彼女にさらなる華を添えていた。
途中20分の休憩をはさんで、第二部。白のドレスに着替えて登場した浜田麻里の麗しい姿に目を奪われたが、いざ歌い出せば、その歌声に魅了される。宇宙的なスケールを描いた「Earth-Born」で、やさしくも深い包容力に満ちたヴォーカリゼーションを聴かせ、オーケストラが威風堂々とした音世界を作り出した「Stay Gold」では、ロックシンガーならではのシャウトやフェイクで会場中を震わせたのだった。そして、“この胸の感動が未来の大きな夢につながりますように”と本編を締め括った「Wish」。壮大なロックバラードがオーケストラアレンジになることで、楽曲に込められた“願い”を解き放つように言葉のひとつひとつが体温を持ち、聴く者の感動を誘う。歌い終わって深く一礼する浜田麻里。スタンディングオベーションで送られた盛大な拍手は、ステージを去った彼女が再登場するまで続いた。
アンコールは「Return to Myself」。これまでは静かに聴き入っていた観客も、この曲ばかりはスタンディングで大盛り上がりに。歌が乗るのことでオープニングの時よりも躍動感を増し、より強固な音像を産むオーケストラ。バンドサウンドとはまた違う迫力のあるアンサンブルが観客の高揚感を焚き付け、浜田麻里の熱いシャウトで一斉に拳が付き上げられる。しかし、特筆すべきはオーラスの「Canary」だ。「Return to Myself」とは打って変わってのバラードだが、もはや観客は立ったまま。むしろ、切々と歌う浜田麻里に釘付けとなって動けないと言ったほうがいい。そして、ラストの大サビをオフマイクで歌い上げると、その生声にストリングスが寄り添い、クライマックスはオンマイクでオーケストラとともに感情が爆発! 鳥肌が立つほどの感動の瞬間だったことは想像に容易いだろう。アウトロでも生声でフェイクを聴かせ、その声量とパワーに圧倒された。もちろん、最後は客席全員がスタンディングオベーションによる拍手喝采。その拍手の力強さが、このシンフォニック・コンサートがどれほど素晴らしいものだったのかを物語っていた。まさしくプレミアムなライヴだったことは言うまでもないーー。