ミセスにとって“ゼンジン未到”とは、デビュー前に3度開催した自主企画ライヴとして強い思い入れのあるタイトル。昨年夏の日比谷野音で久々に使われたが、今回は“~回帰編~”というサブタイトルのもと、全国17公演のライヴハウスツアーとして復活した。幕張メッセ2days公演を成功させたバンドがなぜ今ライヴハウスなのか? その答えを見つけるためにツアー半ばのZepp Tokyoへと足を運んだ。
ステージに林立するスティック状のライトが明滅する以外に、メンバーを照らす照明はゼロ。明るい光に満ちていた幕張メッセとは真逆のステージでひたすら演奏に没頭する、ストイックなパフォーマンスが刺激的だ。セットリストにもはっきり意思があり、序盤から「我逢人」「ナニヲナニヲ」「藍」と、バンド初期の代表曲が次々と飛び出す。しかし当時と違うのはシンプルに演奏力の向上で、「ナニヲナニヲ」で強烈な速弾きソロを決めた若井滉斗(Gu)を始め、メンバー全員の驚異的なスキルアップに目を見張る。いつのまに、こんなに巧いバンドになっていたのか。
中盤では未発表曲が2曲も聴けた。1曲はミニマルでクールなエレクトロサウンド。もう1曲はエモーショナルなロックバラードで、大森元貴(Vo&Gu)の持つ青さと優しさが前面に出た素晴らしい曲。いつ出すんだろうか。最近作『ENSEMBLE』からの「WHOO WHOO WHOO」は髙野清宗(Ba)と山中綾華(Dr)のリズム隊を中心とした人力ダンスチューンへとがらりと変わり、普段は煽り役を買って出る藤澤涼架(Key)の堅実な鍵盤プレイが際立つ。「REVERSE」も、音源以上に強烈に肉感的なエレクトロファンクへと変貌した。顔がよく見えない代わりに音そのものが深く強く届いてくる。
とはいえ、ストイックにカッコ付けるバンドでもないし。ということで、中盤はメンバー全員のゆるゆる雑談MCでほっこりひと休み。大森の“誰に煽ってほしい?”という問いかけに、満場一致で“本日の煽りマン”に選ばれた髙野が、渾身の力で“Zepp Tokyo盛り上がって行けるか!”と叫ぶ姿をみんなが笑顔で見守ってる。後半は「SimPle」「No.7」から最新シングル「青と夏」へ繋げて一気に盛り上げ、星降るような照明の「私」、ミラーボール輝く「WaLL FloWeR」と、緩急つけた流れでぐいぐい引き込む。と、突然、大森がエレクトリックギターをかき鳴らし、セトリにない曲を奏で始めた。全員にソロの見せ場をたっぷりと作り、適当なところで切り上げて“セッションでした。いつもスタジオでこんなふうに遊んでます”とひと言。何でもないワンシーンだが、こうしたことをさらりとやってのける、今のミセスは本当に自由だ。
ラストは「StaRt」「WanteD! WanteD!」の鉄板盛り上げ二連発で一気にスパーク。リリースにはおよそ2年の時差があるが、今のミセスのスキルと感性が曲の隅々に行きわたり、どちらも平等にフレッシュだ。おそらくこのツアー自体に、回帰というより“昔の曲を今のミセスの音で再生する”という意味もあっただろう。その試みは見事に成功した。
アンコール。1月9日にリリースを控えた新曲「僕のこと」は、一言一句をはっきり届けるメッセージチューンにして、音楽的に緻密で壮大なロックバラード。すでに名曲の風格が漂っている。歌い終えた大森がオーディエンスに静かに語り始めた。“ミセスは爆速で進んでる。こんなに早く幕張メッセなんて普通じゃない。でもお客さんが3人だけだった頃、1人目の手を上げさせるのがどれだけ大変だったか。ライヴハウスを楽しみ切れずにホールに突入してしまったから、もう一回やり直したい。それで何が変わるわけじゃないけど、ただただ気持ち良いことをやりたかった”ステージでここまで赤裸々な本音を語る大森を初めて観た。“みなさんから日々エネルギーをもらってます。ありがとう”誠実な言葉と誠実な拍手。これがMrs. GREEN APPLEのライヴ空間だ。
本当のラストを飾ったのは「CONFLICT」。照明はバックライトで明るさは増したとはいえ、最後まで薄暗いままだった。だけど、オーディエンスの心の目にはメンバー全員の笑顔が映っていたことだろう。回帰を済ませ、再び未来を目指す。2018年のベストライヴのひとつであり、2019年のMrs. GREEN APPLEの飛躍を確信させる、記憶に深く残る一夜だった。
取材:宮本英夫
Mrs. GREEN APPLE
ミセス・グリーンアップル:2013年4月結成の5人組バンド。作詞、作曲、編曲の全てをヴォーカル&ギターの大森元貴が手掛けており、15年7月にミニアルバム『Variety』でメジャーデビュー。18年4月に発表した3rdアルバム『ENSEMBLE』はオリコン初登場3位を記録。アルバムを提げてのワンマンツアーはファイナルの幕張メッセ国際展示場2デイズまで全公演即日完売。シングルと同時発売で最終公演の模様を収めたDVD&Blu-ray『ENSEMBLE TOUR 〜ソワレ・ドゥ・ラ・ブリュ〜』をリリースする。