晴天に恵まれた日比谷野音。太陽の日差しと蝉の声の中でのドレスコーズのライヴ...これは考えただけでも、かなりレアなシチュエーションだろう。ゆらゆら帝国やLITTLE TEMPOのナンバーが客入れのBGMで流れ、すでに開演前から野音の独特の開放感+αのテンションが客席に広がっている。そして、BGMがSEのBarbra Streisandの「Don't Rain On My Parade」に切り替わると、観客の拍手と歓声に迎え入れられるようにメンバーが登場。声援に応えて披露された1曲目は、レーベル移籍第一弾として9月24日に発売される1st EP『Hippies E.P.』の収録「ドゥー・ダー・ダムン・ディスコ」。つまり、新曲が幕開けを飾ったわけだが、初めて耳にするナンバーであっても、弾けまくるアンサンブルが観る者を惹き付けて離さない。志磨遼平の挑発的なヴォーカル、ディストーションの効いた丸山康太のギター、重低音を響かせる山中治雄のベース、細かくビートを刻む菅 大智のドラム、それぞれが互いを尊重しつつも自己主張し合ってバンドグルーブを作り出し、客席に漂っていた開放感を高揚感へと変えていった。
“今日はもうどうなってもいい気持ちです。
全部夏のせいにして思いっきり楽しもう。
ゲロ吐くまで踊ろう。
でも、暑いから気を付けてね。
何があっても倒れないのがロックンローラーでしょ?”。
...という志摩のファーストMC通り、甘くキャッチーな「Lolita」をはじめ、魅惑的なロックナンバーが矢継ぎ早に投下され、さらに客席を酔わせたことは言わずもがな。60~70年代のR&Rをベースに歌謡曲のテイストや90年代のオルタナ感が混ざり合い、ディープな色を放つドレスコーズのサウンド。それでいてメロディックでポップなところが最大の武器である(もちろん“ポップ”は“弾ける”という意味で)。それに対して何度も沸き起こる観客たちのコール&レスポンス。最高のロックンロールで焚き付けられる熱いライヴ&時折吹き抜ける涼しい風...ドレスコーズの野音はかなり気持ち良い! 特に“夏の夕暮れにぴったりの歌を歌ってあげよう”と披露された「フォークソングライン(ピーターパンと敗残兵)」のカントリー風のサウンドの心地良さは格別だった。
そんなライヴのラストスパートは「トートロジー」から。丸山が刻むリフがイントロを呼び込み、客席では力強い拳が突き上げられる。《これがロックンロール、わからないヤツは全員くたばれ!》と歌い叫ぶ志摩、客席に降りてギターソロを弾きまくる丸山、大合唱を巻き起こす観客...この場にいる全ての者の感情のギアがトップに入り、クラップ&ストンプを引き起こした「ゴッホ」でさらにヒートアップすると、バンドスピリッツを叩き付ける痛快なロックチューン「バンド・デシネ」で大団円を迎えるのだった。
そして、注目すべきはアンコールのステージ。前述の『Hippies E.P.』にアレンジャーとして参加している三浦康嗣(□□□)がスペシャルゲストとしてステージに登場し、三浦と志摩がラップを聴かせた「メロディ」、三浦がキーボードで加わった「Ghost」、巨大ミラーボールが回る中でハンドウェーブを誘発した「ヒッピーズ」と同作のナンバーを3曲立て手続けに披露。それらはドレスコーズの第二章の幕開けを実感させるほど、また新たな色を放っていたのが何よりも印象的だった。
熱烈なコールに応えてのダブルアンコール。静かに志摩が歌い出した「1954」だったが、4人の感情の高ぶりが出音に直結したアンサンブルで観客を魅了し、そのまま“さぁ、夏にトドメだ!”とオーラスの「Trash」へ。デビュー曲ということで、ドレスコーズの始まりの歌とも言える楽曲だけに、最後にバンドの原点であり、この先もブレることのない軸を見せつけられたような気持ちになったのは、きっと僕だけではないだろう。従って、移籍第一弾EP『Hippies E.P.』の楽曲で提示された、ドレスコーズの“NEXT”への期待感がとにかく半端ない。