人の姿をしながら“物ノ怪”の血と能力を受け継ぐ“者ノ不(モノノフ)”が支配する世界。そのチカラを身体の奥深くに封じ込めた源義経をGACKTが演じる舞台『MOON SAGA−義経秘伝−』の第二章は、戦いの不条理と、そこ渦巻く愛憎と、そして仲間との絆をファンタジックにしてリアルな情景の中に描き出してみせた。物語の舞台は親友・木曽義仲との苦渋の戦いを綴って、2012年に述べ5万人を動員した第一章から2カ月後。敵方たる平家軍の若武者たちとの出会い、そして不思議な友情を軸にストーリーは進んでいくが、まずは艶やかな低音を響かせるGACKTの台詞回し、そして、どこか寂しげな佇まいから、源氏最強と謳われながらも争いと喪失の日々に心の傷を癒せない義経の哀しみが伝わってくる。その姿は平家最強の戦士・平教経(悠未ひろ)の自信に満ち、溌剌とした様とはあまりに対照的。それが故に、敵味方を超えた奇妙な友情の尊さを強烈に印象付けてくれた。また、恐ろしく傾斜の急な八百屋舞台で繰り広げられるアクションの迫力も満点。斜面を転がり落ちる屍が、一度は杯を交わし合った友と戦わざるを得ない悲劇を際立たせ、“俺たちはなんで戦ってるんだ!?”“これが戦だ。戦なんだよ!”という虚しい叫びを観る者の胸にグッと訴える。そして最も強烈な視覚インパクトを与えてくれたのが、日本舞台史上最大規模とも言えるプロジェクションマッピングだ。紙芝居のように幾重にも重ねられたセットに絶妙のライティングが施されることで、舞台は森に、岩窟に、海に浮かぶ船上に、野営の陣に。さらには仲間同士が憩う屋敷の中庭から、蛍舞う夜空、そして次元を超えた黄泉の国と、変幻自在にドラマティックな情景を描き出して、“飛び出す絵本”というGACKTの構想を見事に現実のものとしていた。壇ノ浦の戦いにおける義経の八艘跳びをワイヤーアクションで再現して、伝説を具現化せしめたのも見事。物語の原作・脚本はもちろん、これら最新技術を駆使した演出に、邦楽と最新のクラブミュージックまでを融合させた劇伴等、全てをプロデュースしたGACKTの想像力と創造力には驚くばかり。戦乱の世には似つかわしくないやさしさで人の心を掴み、そして己の運命をも変えてゆく義経が繰り広げる妖しくも切ない歴史ファンタジーの行方から、今後も目が離せそうにない。