最新アルバム『式日散花』を引っ提げて全国を巡った『the dresscodes TOUR 2023 「散花奏奏」』。10月31日にZepp DiverCity(TOKYO)で迎えたファイナル公演の模様をレポートする。
SEが流れる中、ステージに登場した田代祐也(Gu)、有島コレスケ(Ba)、ビートさとし(Dr)、中村圭作(Key)を出迎えた拍手と歓声。最後に現われた志磨遼平(Vo)が観客に恭しくお辞儀をしたあと、「ラブ、アゲイン」がスタートした。アツいサウンドに包まれながら歌う志磨の姿が視線を惹きつけてやまない。「襲撃」「Lolita」「聖者」「若葉のころ」...さまざまな曲を聴く毎にロマンチックな舞台作品を観ているかのような感覚となったのが印象的だ。響かせる歌声はもちろん、身体の動き、揺れる髪、浮かべる表情、佇まい、ステージ上で煌めかせる全てが表現とシンクロしていたと言っても過言ではなかった志磨。多彩なニュアンスを音に込めつつも、時には奔放さの塊となるバンドサウンド――これらが豊かに融け合うステージを見つめ、耳を傾けるのは、本当に幸福な体験であった。
“僕たち、アルバムを作りました。テーマは“別れ”です。全ての出会いには別れが用意されています。僕もいつかいなくなります。ずっと覚えていてもらえるよう、心を込めて歌います”と語ったあと、赤色のアコースティックギターを弾いて温かな響きを添えつつ「罪罪」と「Silly Song,Million Lights」を歌った志磨。会場内の空気が穏やかに震えるさまが心地良かった。その後も次々と届けられた多彩な楽曲たち。最新アルバム『式日散花』の収録曲を中心にしつつ、過去作の曲も随所に盛り込んでいたセットリストは、人生の中で訪れるさまざまな瞬間や風景を映し出しているように感じられた。「ハーベスト」「やりすぎた天使」...瑞々しい生命力を宿したサウンドを聴いていると胸が躍ったが、どことなく切なさも募った。あの感覚は、『式日散花』のテーマとして志磨が先ほど言った“別れ”の本質なのかもしれない。燃え上がるかのような夏の風景が刻まれているからこそ、過ぎ去った日々への切なさが果てしなく滲む「少年セゾン」も、そんなことを感じさせてくれる曲だった。
スタンドマイクをフロアーに向けて突き出し、観客の大合唱を誘った「コミック・ジェネレイション」。歌い始めるや否や歓声が上がった「ビューティフル」。そして、本編を締め括った「式日」は、かけがえのない時間が終りゆくことへの鎮魂歌のようだった。ピンスポットの光を浴びてピアノ伴奏で歌い始めた志磨。やがてベース、ドラム、ギターも加わって形成されたサウンドは劇的でありつつもどこか儚さを湛えている。いつか終わりを迎えることから逃れることができない生命体の宿命について考えさせられた。あの時ステージ上で生まれた風景が圧倒的に美しかったことに大きな救いを感じる。アウトロに差しかかったところで志磨が撒いた紙吹雪が、照明の光を浴びてキラキラと輝いていた。散りゆくことの尊さが眩しく浮かび上がったあの瞬間は、観客の胸に鮮烈な印象を残したのではないだろうか。
アンコールを求める声に応えて再登場した志磨とバンドメンバーたちは、「最低なともだち」を演奏して再び観客の心と身体を震わせた。そして、“また会う日までごきげんよう。どうかお元気でね。また会う日までお体には気をつけてね。あと...愛に気をつけてね”という言葉が添えられ、ラストに披露されたのは「愛に気をつけてね」。天井から吊り下げられたミラーボールが回転しながら光の粒子を放ち、その真下で掲げた腕を一斉に揺らしながら喜びを露わにする人々の姿が清らかだった。志磨はアウトロが鳴り響く中で手を振り、投げキッスを残してステージをあとにする。演奏が幕切れた時、会場内を満たしていたのは何とも言えず爽やかな余韻。興奮冷めやらぬ様子の観客の手拍子は、終演を告げるBGMが流れ始めたあとも暫くの間続いていた。
撮影:森好弘/取材:田中 大
ドレスコーズ
2003年「毛皮のマリーズ」結成。日本のロックンロール・ムーブメントを牽引し、2011年、日本武道館公演をもって解散。翌2012年「ドレスコーズ」結成。2014年以降は、ライヴやレコーディングのたびにメンバーが入れ替わる流動的なバンドとして活動中。8thアルバム『戀愛大全』(2022年)、LIVE Blu-ray & DVD『ドレスコーズの味園ユニバース』(2023年)が発売中。9thアルバムが2023年9月13日に発売予定。秋にはアルバムをひっさげたツアーも開催予定。近年は菅田将暉やももいろクローバーZ、上坂すみれ、PUFFY、KOHHといった幅広いジャンルのアーティストとのコラボレーションも行なっている。音楽監督として『三文オペラ』(2018年 ブレヒト原作・KAATほか)『海王星』(2021年 寺山修司原作・PARCO劇場ほか)などに参加。俳優として映画『溺れるナイフ』Netflixドラマ『今際の国のアリスSeason2』などに出演。映画『零落』(2023年 浅野いにお原作・竹中直人監督)では初のサウンドトラックを担当。現在は東京新聞にてコラムも連載中。