クリームソーダの呪縛。

 2022年4月27日に“藤川千愛”がミニアルバム『ちょっとそこまで昨日を迎えに』をリリース。既に発表されているTVアニメ『盾の勇者の成り上がり Season2』エンディングテーマ「ゆずれない」、昨年放送されたテレビ東京系 ドラマParavi『にぶんのいち夫婦』オープニングテーマとなった「片っぽのピアス」の他、新曲5曲が収録されております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“藤川千愛”による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回は第2弾です。綴っていただいたのは、今作の収録曲「手のひらの中で」にまつわるお話。ついつい頼んでしまうクリームソーダを飲みながら、ぼんやりと喫茶店内を眺めて見えてきたものは…。



とりたててクリームソーダを美味しいと思ったことはない。それなのにメニューを開くときにパリっと音がするような、いわゆる懐かしの喫茶店が好きで、そんなお店を見つけては、ついついクリームソーダを頼んでしまう。
 
テーブルの三角ポップには新メニューのダルゴナコーヒーがおススメされていたが、それもクリームソーダの呪縛から逃れる十分な理由にはならず、この日も私はクリームソーダを頼んだ。
 
『スミレね…』
 
せわしなく氷と氷の隙間を駆け上がる気泡、ソーダに浮かぶアイスクリームの乳白色と、ソーダ水との境目を焦点にして、私はぼんやりと店内を眺めていた。
 
いつもの私ならば、ぼんやりなんてすることなく、それこそ気泡のようにせわしなくスマホをサーフしているんだと思う。そもそも、スマホを持って以来、ぼんやりするなんてことは忘れられ、優先順位のリストにすら入らないのに、その日の私はスマホを鞄にしまいこみ、何をするでもなく、クリームソーダ越しに店内をぼんやりと見渡していた。
 
それもこれも、昨夜、長電話をしたウェディングプランナーのA子が、冗談交じりに、『昼間から喫茶店でひとり、スマホをいじっている人の大半はマッチングアプリをやっているからちょっと観察してみ』なんて言うから、妙にまわりが気になってしまったのも事実である。
 
そう思うと、濃紺のスーツでビシッと決めた斜め前の席のサラリーマンも、窓際でくつろぐ買い物帰り風のあの若奥様も、隣の席の上品で大人しそうな女子大生も、そしてコーヒーを淹れ終え一息ついているマスターでさえも、いまスマホをいじっている全員が、マッチングアプリに夢中に見えなくもないから不思議だ。
 
仕事柄か、A子は若者の恋愛事情にも詳しく、今や日本の出会いの40%はマッチングアプリからだと熱弁していたが、この店に集う私以外の全員がスマホを真剣に見つめている事実を鑑みると、その数字も素直に頷けてしまう。
 
私は鞄からスマホをそっと取り出しメモ帳を開いた。そして、手のひらの先で出会うかもしれない誰かを想像してみた。
 
 
ひとりは寂しくて携帯をサーフした
恋愛映画みたいな出会いじゃないけど
 
初めから秘密を分かちあうような
共犯者みたいだ 嫌いじゃないけど
 
薄っぺらい出会いとか馬鹿にしてたはずなのに
時代のせいにして濁しときゃいいよ
 
手のひらの中で結ばれて共通の趣味が加速させる
そんな恋があっても悪くはないから
手のひらの中で結ばれて
こんなはずじゃなかったとか
そんな恋があっても悪くはないから
 
カルビよりミノが好き 海は焼けるから嫌い
夜通し映画観たいな 運動はちょっと苦手
 
初めから知ってるとそういうものだって
互いに許せるのだから居心地よかった
 
出会いがないなんて愚痴っていたあの日よ
時代のせいにして流されてみればいい
 
手のひらの中で結ばれて疑うことから始まって
そんな恋があっても悪くはないから
手のひらの中で結ばれて今じゃキツク手を握り合う
そんな恋があっても悪くはないから
 
出会い方なんてどうでもいいよな
そのあとの方がもっと肝心だから
でも祖母ちゃんに伝えたら
驚いてしまうかな
それとも笑って羨むかしら
 
手のひらの中で結ばれて共通の趣味が加速させる
そんな恋があっても悪くはないから
手のひらの中で結ばれてこんなはずじゃなかったとか
そんな恋があっても悪くはないから 悪くはないから
 
 
時代と共に、色々なものが変わっていく。この日飲んだクリームソーダのソーダ水も緑色ではなくスミレ色だった。ちょっと寂しいような気もしたが、これはこれで案外悪くはなかった。次は思い切ってダルゴナコーヒーを飲んでみよう。
 
<藤川千愛>



◆紹介曲「手のひらの中で
作詞:藤川千愛
作曲:竹田祐介(Elements Garden)
◆ミニアルバム「ちょっとそこまで昨日を迎えに」
2022年4月27日発売
初回限定盤 COZP-1904/5 ¥4,000(税込)
通常盤 COCP-41759 ¥1,800(税込) 
 
<収録曲>
1. たしかなことって
2. ゆずれない
3. 手のひらの中で
4. ゆびさきから
5. 片っぽのピアス
6. そんなんばかりループ
7. 覚醒前夜