自分がまだ知らない“大好きな世界”を知った日だった。

 2021年9月8日に“ササノマリイ”がニューミニアルバム『空と虚』をリリースしました。タイトル曲は、ササノマリイ自身が大ファンであるアニメ『ヴァニタスの手記』のオープニングテーマとして書き下ろした1曲。そしてアルバムにはその『ヴァニタスの手記』からインスパイアされて制作された楽曲7曲が収録されております!
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“ササノマリイ”による歌詞エッセイを3週連続でお届け。今回は第1弾です。音楽を好きになったきっかけ、子どもの頃のワクワクした気持ち、初めて曲に恋をしたときの思い出…。今のササノマリイの音楽に通じている記憶を明かしてくださいました。是非、今作と併せてお楽しみください!

~歌詞エッセイ第1弾~

きっとなんでもない話。
誰かの、なにかしらのなにかになればと
おこがましくも思いながら
つらつらと

気がつけばいつも朝になっている
子供の頃、鍵盤ハーモニカずっと苦手だったなとか
音楽、好きになったきっかけはなんだっけと考えながら

人間として生まれてから自分が自分であると認識して、
気づいた頃には子供向けの
電子ドラムパッドつきのテープレコーダーで遊んでた。
赤と青の本体、真後ろに付く黄色いスピーカー、
4つのなめらかな砂消しゴムのような手触りのパッド、
再生速度が変えられるテープレコーダー。
懐かしいな、確かソニーのだ。名前なんだっけ。

ここまで書いてる途中でいよいよ気になってしまって、
曖昧な言葉で検索を始める。
思ってたよりヒットしないまま、
10分ほどかけてようやく見つかった。

my first Sony TCM-4050。これだ、懐かしい。

思い出がわらわらと集まってきた。
パッドを叩いて遊ぶのはそこそこに、
レコーダー機能でひたすら遊んでた。
気に入った音楽がテレビで流れたら
付属のマイクで録音して、ひたすらに聴いて、
再生速度を変えたり、数少ない友達に
ゲームボーイのソフトを持ってきてもらって、
スピーカーにマイクを向けて
ただただ録音させてもらったり。ただただ。

なにかを録音して再生する行為、というものが
自分にとっていちばんの楽しい遊びだった。

その遊びは今も続くことになるけど、
その道の途中に出会ったゲームボーイソフト。
思えば今こうして自分がこんな生き方をすることになる
元凶だったかもしれない。

ポケットカメラ。
広告で見てまっさきに欲しくなった理由が
「DJモード」。
「テクノしちゃおう!」が正しかったっけ。
16ステップのシーケンサーで音符を打ち込む、
波形を描いて音色を作る機能までついた、
しっかりとしたもの。

小学何年生だったかな。忘れちゃったけど、
自分が手にした初めての
“作りたい音楽を作って記録できる手段”だった。
ひたすら作曲ごっこをして、
ひたすら単3電池を転がしてた。
それをカセットテープに録音して遅めに再生すると、
なんか自分の好きな音になるな、って
気付きもあったりして。

そんな日々で。
なにか好みの音楽は流れないかという
いつもの録音目的でテレビをつけて
チャンネルを回していたところ。
あるアニメの本編が終わり、
ちょうどエンデイングテーマが流れ始めた。
それは今もなお自分の音楽の「好き」に
間違いなく根を這って息をしている。

新居昭乃さんの「覚醒都市」という曲。
エレクトリックピアノという名前の
楽器の音色だと知るのはもっと後だけど。
はじまりの音たちの動きを聴いて、
音楽を聴くという行為の上で
それまでになったことのない心の状態になった。

恋なんかその時は概念も持っていなかったけれど、
それは完全に無垢な恋だった。

音の重なりが泳ぐような、
音が先へ先へ行くたびに胸が苦しくなった。
それをコード進行という言葉で
表せると知ったのもしばらく生きた後。
歌の言葉も、意味までは子供の自分には
読み解けなかったけど、
確かに言葉とともに胸を刺していた。
恋をしてしまった。
放心をして録音するのも忘れてしまった。

終わってしまって、
あの音をどうにかして聴きたい、と我に返った。
曲名を調べる術は家に無かったけど、
寝床の隅に置きっぱなしのモノを思い出し飛んでいく。
リサイクルショップで買ってもらった
小さめの電子キーボードの前にしゃがみ込んで、
「それ」をここに自分の手で召喚できないものか、と
鍵盤を何度もおさえて唸った。
習ったわけでもない。
まったくあの恋はそこに降ってきてくれなかったけど。

自分が初めて心に宿した、
「あの音の世界に自分も入って寄り添いたい」
という気持ちと。
自分がまだ知らない
“大好きな世界”を知った日だった。

<ササノマリイ>