いくつもの当たり前があなたとは叶わなくて。

山根万理奈
いくつもの当たり前があなたとは叶わなくて。
遠い海辺で 君は愛を誓う 私の知らない誰かとキスをする 17歳の夏の思い出が 波のように押し寄せる 「海とダイヤ」/山根万理奈 2018年4月4日に“山根万理奈”がニューアルバム『海とダイヤ』をリリースしました。今日のうたコラムでは、まず今作のタイトル曲をご紹介。遠い海辺で<私の知らない誰かとキスを>して、永遠の愛を誓っている<君>はおそらく結婚するのでしょう。今まさに、式の真っ最中で、運命のお相手と<ダイヤ>の指輪を交換し合っている頃かもしれません。ただ、その<君>はかつて<私>の恋人…。 ゆえに、主人公は<遠い海辺>へそっと想いを馳せるのですが、同時に<17歳の夏の思い出>に刻まれている<君>との“海辺の光景”もブワッと押し寄せてくるのです。水しぶき、濡れた睫毛、潮風、冷えてきた海水温、少し暗い湿った砂浜、水平線、焼けた素肌、帰りたくなかった気持ち…。青春の中で<恋して 恋して 憎んで 恋し>て、夕陽を見つめながら<また来ようねと ふたり 指切りした>姿がまるで“今”のことのように歌詞から伝わってきます。 秋も冬も越えて春に別れは来てしまった 悔やんでも 悩んでも 求めても 終わった 息を止めても 青いまま 離れない 恋して 恋して 恋をしていた 遠い海辺で 君は愛を誓う 私も知ってる無邪気なあの笑顔で 「海とダイヤ」/山根万理奈 しかし、残念ながら<私>と<君>が結ばれることはありませんでした。また<春に別れは来てしまった>から<また来ようね>の約束も叶わなかったのでしょう。そして現在<君>は<私も知ってる無邪気なあの笑顔で><私の知らない誰か>に愛を誓っております。海は、17歳の頃も今も、変わらずそこに在り続けているのに、二人の関係も<君>も変わってしまったわけです。タイトルの『海とダイヤ』という言葉には、そんな“変わらないもの”と“変わってゆくもの”が象徴されている気がして、切ないですね。 愛してる、愛してる。しまい込んでいた恋心 鍵を開けたあなたを責めたりしない ふたり一緒に歩いた道 幼い足跡はいつしか 大人になり 秘密を残して続きを待ってる いくつもの当たり前があなたとは叶わなくて もう一度手を繋げるのはエンドロールの中 エンドロールの中だけ 「imaginary line」/山根万理奈 さて、こちらも今作に収録されているラブソング。描かれているのは、禁断の恋です。なんだか歌詞を読んでいると、先ほどの楽曲「海とダイヤ」のその後の物語のようにも感じられ、想像が膨らんでしまいます。つまり、かつて彼の結婚により<愛してる、愛してる。しまい込んでいた恋心>が、月日を経て、再び二人が出会ったことにより、溢れ出してしまった…。だけど、帰るべき場所があるから<いくつもの当たり前があなたとは>叶わないのです。 愛してる。愛してる。あなたの気持ちを知ってから 失くしちゃ駄目なものと 醒めない夢に揺られてる どんなに想い合ってもそばにはいられなくて 痛いほどわかりすぎるのに 物語は今 美しさに泣く 誰にも哀しい思いをさせないように 約束だからね 秘密を結び合ったふたりはもう 同じ未来を歩いているんじゃないかな 「imaginary line」/山根万理奈 また、あれからもっと<大人>になった二人です。もしかしたら<私>にも守るべき人がいて、帰るべき場所があるのかもしれませんね。だからこそ<失くしちゃ駄目なもの>に対する<愛してる。>という気持ちと<醒めない夢>に対する<愛してる。>の狭間で揺られているのではないでしょうか。しかし、きっと二人は“今以上”を望んではおりません。何故なら<誰にも哀しい思いをさせないように>というのが約束だから。 もしも 叶うのなら ラストシーンは抱きしめてね なんども名前を呼んで 手を繋いで 隣にいてね いくつの夜を越えても 滲んだ目を離さなくても 結んだその答え合わせはエンドロールの中 エンドロールの中だけ 「imaginary line」/山根万理奈 さらに、その約束には<ラストシーンは抱きしめて>と、もう一度<エンドロールの中だけ>は手を繋いでと、そんな痛切な願いも込められているのです。ちなみに「海とダイヤ」を思い出すと、あの<また来ようね>の約束は叶いませんでした。そこで「imaginary line」を続編だと妄想すると…たとえ禁断の恋でもせめて、最期のこの“約束”だけは叶いますようにと願わずにはいられませんね…。 そして「imaginary line」にもまた“変わらないもの”と“変わってゆくもの”が描かれているのだと思います。変わらないのは<どんなに想い合ってもそばには>いられない環境。変わってゆくものは、ダイヤのように磨けば磨くほど輝きを増してゆく<恋心>です。こちらもやはりアルバム『海とダイヤ』のマインドが切なく通じているのではないでしょうか…。今作には全12曲が収録されておりますので、是非その“変わらないもの”と“変わってゆくもの”という視点でも歌詞を楽しんでみてください!