聴きましょう。そして連れて行かれましょう。

川村結花
聴きましょう。そして連れて行かれましょう。
2020年にCDデビュー25周年を迎えた、シンガーソングライター・川村結花。今日のうたコラムでは、その記念企画として2020年~2021年の2年を通じてのご本人によるスペシャル歌詞エッセイをお届けしてまいります!更新は毎月第4木曜。 シンガーソングライターとして活躍しながら、様々なアーティストへの楽曲提供も行い、ここ数年はピアノ弾き語りのLiveをコンスタントに続けている彼女。この連載でどんな言葉を綴ってくださるのでしょうか…!今回は第20回をお届けいたします。 第20回歌詞エッセイ:きっかけは『言葉の達人』 窓外の緑道では今日も朝から蝉たちが命の限りとばかりに鳴きたおしており、嗚呼やたらと長かった8月ももう終わりなのだなあ、と猛暑でおかしなってしもた頭でぼんやり考えております昨今。皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。 わたしはといえば、外へ出るたびあの蝉たちの叫ぶような鳴き声に囲まれては、その命の短さに思いを馳せ切なくなり、はあー、と溜息をついて視線を足元に落とすと半透明で黄土色した彼らの抜け殻たちに遭遇してぎょえええ、と震え上がる。そんな残暑の頃を過ごしております。 最近、本当にほんの少しですが夕方の風がベタッ、からもわっ、へと変化した気がします。暑さ寒さも彼岸まで、というほどではありませんが、明らかにお盆の前後で風の感触は変わると思うのです。この温暖化により昔ほどではないにせよ、不思議に毎年それは感じるのです。ということで今年も無事に秋がやって来てくれるのでしょう。ああよかった。 というような、ちょこっとした近況から書き始めるのがデフォルトになって参りましたこのエッセイ。昨年の1月より毎月書かせていただいておりますが、そのきっかけになったのは、というか歌ネットさんとの初コンタクトは、このサイト内の『言葉の達人』というページでした。 その内容は、作詞家をはじめ音楽プロデューサーやミュージシャン全般において作詞をする人達が、歌ネットさんからのいくつかの質問にお答えすることで、作詞に対する己の考えをお話しするという趣旨で、今も続いているコーナーです。さっき見たらもう第210回になっていました(すごい!)。ちなみにわたしは 第187回 に出させていただきました(その節はありがとうございました!)。 そう、そんな『言葉の達人』の質問の中で「自分が思う『良い歌詞』とは?」というのがあったのですが、それに対してわたしは「その世界へ連れて行かれてしまうもの。トリップさせてくれるもの。自分にそんな経験がなくてもあるような気になったり、経験のあることは痛いくらい共感できるもの。」と答えています。今でもそう思っています。要はわたしが思う素晴らしいな、っていう作品はどれだけその世界へ連れてってくれるか、どれだけトリップさせてくれるか、ということなのだろうなあと思うのです。 ただ「歌」なのですからメロディがあります。サウンドがあります。歌っている人の声があります。その作品の繰り広げる世界への案内人は歌詞だけでは勿論ありません。ですから中には「歌詞なに言うてるんかさっぱり聴き取られへんけどなんかめっちゃ連れてかれる~」というような素晴らしい作品も数え切れないほどあります。 そしてそれと同じように「どうしたってここの歌詞が胸きゅぅってなるねん」「この歌詞聞いたらなんかむっちゃ恋愛したくなるねん」等々、歌詞のフレーズがかなり重要な曲が多数存在することも確かです。ていうか9割がたそんなええ歌詞にはむちゃくちゃええメロディついてますが(歌詞最高やねんけどなんじゃこのメロディ、みたいのはあんま出会ったことないので、、、)。 ちなみに、さっきの歌ネットさんからの質問のわたしの答え「自分にそんな経験がなくてもあるような気になったり」ということで言えば、ぱっとすぐ思いつくのは、 「 真夏の果実 」 です。 わたし海なんか全然行かへんけど、ゼッタイ砂に恋人の名前書いたことあるわ!と思わせてくれる(ないけど)。四六時中「好き」って言われて海辺のコテージで夢見心地やったことあるわ!と思わせてくれる(ないけど)。ロマンティックでどこか刹那的でダルな真夏だけの恋の世界に思いっきりトリップさせてくれる等々、なーんの実体験もないのにこの歌詞の世界に思いっきり連れて行かれてしまう。サビでハモッてしまったりなんかした日には涙ぐみさえしてしまう。そんな経験全然ないのに(何回も言わんでええわ)。 そして言うまでもなくとろけるような美しいメロディ。こらもうたまらん、、、。ていうか、そうやわ、夏の終りかけの今にぴったりハマるやん、、、。と今気付きました。聴きましょう。そして連れて行かれましょう。経験ある人は痛いくらい共感を。ない人もとろける真夏の恋の世界にトリップさせてもらいましょう。そして今年の夏の終わりをともに味わいましょう。 では今回はこの辺りで。また来月-、とはいうものの、1ヶ月先さえも読めない世の中ですが、皆様どうかこの閉塞感に負けないで。何より心も体も負けないで。時々はアホなこと言ったり見たりしてクスッと笑っていてくださいね。わたしも日々努めてそうしています。どうぞお元気で。また来月。です。 <川村結花> ◆プロフィール 川村結花(シンガー・ソングライター) 大阪府生まれ。東京芸術大学作曲学科卒業。1995年、アルバム「ちょっと計算して泣いた」でシンガーソングライターとしてデビュー。同時に作詞家作曲家として楽曲提供を行い、主な提供楽曲は、夜空ノムコウ(作曲)をはじめ2019年現在までに100曲以上。2010年「あとひとつ」(作詞作曲共作)でレコード大賞作曲賞を受賞。2017年、アルバム「ハレルヤ」をリリース。ここ数年は、提供楽曲の作詞作曲も行いながら、ピアノ弾き語りのLiveをコンスタントに続けている。 オフィシャルサイト: https://www.kawamurayuka.com ◆歌詞エッセイバックナンバー 【第1回】 【第2回】 【第3回】 【第4回】 【第5回】 【第6回】 【第7回】 【第8回】 【第9回】 【第10回】 【第11回】 【第12回】 【第13回】 【第14回】 【第15回】 【第16回】 【第17回】 【第18回】 【第19回】