言葉ひとつで救えたらいいのに。
佐藤千亜妃
言葉ひとつで救えたらいいのに。
2021年9月15日に“佐藤千亜妃”が2ndアルバム『KOE』をリリース!今作は“声”というテーマのもとに制作。フジテレビ系ドラマ『レンアイ漫画家』主題歌の「カタワレ」、『NYLON JAPAN』創刊15周年プロジェクト映画主題歌の「転がるビー玉」など、計12曲が収録されております。 さて、今日のうたコラムではそんな最新作をリリースした“佐藤千亜妃”による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回は第2弾。綴っていただいたのは、今作の収録曲「 rainy rainy rainy blues 」についてのお話です。夢を追うことが苦しくなったとき、彼女が考えた“歌うこと”“音楽をすること”の理由とは…。歌に込められた祈りを、歌詞と併せて受け取ってください。 ~歌詞エッセイ第2弾:「 rainy rainy rainy blues 」~ 今回は「rainy rainy rainy blues」という曲についてお話ししたいと思う。とても思い入れが深い曲だ。この曲をアレンジした日は、ちょうど雨が降っていた。そして、古くから親交のある音楽仲間を失った、とても悲しい日でもあった。去年の秋のことである。前回に引き続き、少し重い話になってしまうので書こうか迷ったけれど、やはりこのことを伝えずして、この曲について語ることはできない。 去年、音楽を止めたくない思いで闇雲に駆け抜けている間に、本当にめまぐるしく色んなことを経験した。勿論、ミュージシャンだけではなく、どんな人間でも一抹の不安を抱えながら、なんとか日々をしのいでいたと思う。そんな状況の中、“夢を追う”という行為そのものが苦しくなってしまっている自分がいた。昔からたまに、ガソリン切れのように、うっすらとそんな思考回路になることはあったけれど、コロナ禍の中では明確に、“全て放棄して逃げたい”という諦めのようなものを感じていた。焦燥感は昔からあるが、焦燥感よりも諦めの方が先に立つのは初めての経験だった。 「夢さえなければ」と、夢の存在を呪いのようにすら感じた。「夢があるから今まで生きてこれた」と思っている自分からすれば、真逆の方向へ気持ちが押し流されていくのは、信じがたくもあり悲しくもあった。きっと、心が疲弊していたのだと思う。そんな感情が「rainy rainy rainy blues」の歌い出しあたりの歌詞に表れている。 でもふと、目標よりも理由について考えた。これは昔から癖付けている思考法で、“どうしたらなれるのか”ではなく“どうしてなりたかったのか”を自分の中で掘り下げてみるのだ。初心に返る意味合いが強い。どうして音楽をしたかったのか。歌いたいという欲求そのものがスタートであることは揺るぎないが、その先がやはりあって、それは誰かに伝えることだ。歌で、何かを伝えたいのだ。 そんなことをぐるぐる考えていると、サビの歌詞が出てきた。言葉ひとつで伝わればいいのに。言葉ひとつで救えたらいいのに。この曲が言いたいことは、この歌詞の部分に尽きる、と断言してしまってもいいかもしれない。でも、言葉だけでは救えない瞬間があるのだ、人間には。だから、私は音楽をしようと思った。また改めて思った。言葉の代わりになるような、かたちのない、でも温かいものを手繰り寄せて、みんなに生きて欲しいと願っている。 この曲をレコーディングし、ミックスし、マスタリングし、何度も何度もチェックの機会があった。その度、一緒にアレンジをした河野さんと私だけ、あの日に戻ってしまう。雨が降り止まなかったあの日に心が戻ってしまう。もっと早くこの曲を作り上げて、聴いて欲しかったと何度も思う。そしてやっぱり泣いてしまうのだ。何度聴いても。私たちにとって「rainy rainy rainy blues」はそんな曲である。 <佐藤千亜妃> ◆紹介曲「 rainy rainy rainy blues 」 作詞:佐藤千亜妃 作曲:佐藤千亜妃 ◆Newアルバム『KOE』 2021年9月15日発売 通常盤 UPCH-20592 ¥3,300(tax in) 初回限定盤 UPCH-29408 ¥6,380(tax in) <収録曲> 1. Who Am I 2. rainy rainy rainy blues 3. 声 4. カタワレ 5. 甘い煙 6. 転がるビー玉 7. リナリア 8. 棺 9. Love her... 10. 愛が通り過ぎて 11. ランドマーク 12. 橙ラプソディー