踊ることを禁じられた人間の話。
インナージャーニー
踊ることを禁じられた人間の話。
2023年7月19日に“インナージャーニー”が3rd EP『いい気分さ』をリリース!今作には全5曲が収録。以前よりライヴで披露されていた「手の鳴る方へ」以外はすべて今年に入ってから書かれた新曲で、昨年のアルバムリリース、初のツアーを経て、バンドとして大きな成長を遂げた彼らの最新の魅力が存分に詰まった作品となっております。 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“インナージャーニー”のカモシタサラによる歌詞エッセイを3回に渡りお届け! 今回は第1弾です。綴っていただいたのは、今作の収録曲「 ステップ 」にまつわるお話。踊ることを禁じられた世界で、踊り続けた<僕>から<君>へのメッセージ。ぜひ歌詞と併せて、このエッセイを受け取ってください。 君がこの靴を履いたときは、 すべて受け入れられているのだろうか。 靴を履いてステップを踏む。 他者の靴を履くことは他人の立場に立つことだと言われたりするけど、僕のダンスシューズはまだ、誰にもわかってもらえていない。 それでも、来る日も来る日も、僕はダンスを踊り続けた。 踊ることを禁じられた世界で、僕は静かに踊り続けた。 頭の中では誰も知らない音楽が鳴っていた。 このことは、まだ、誰にも知られてない。 歴史には残らない裏通りで、僕は踊り続けている。 何度も何度も季節は巡り、 そのたび街路樹は赤く染まった。 僕のつま先も何度も何度も赤く染まった。 忘れられてしまうのが怖くて、踊り続けた。 周りには人がいなくなった。 どんなに絶望的な状況においても朝はやってくるもので、僕はひどく寂しくなりながらもなお、1人でまっすぐ踊り続けた。 いつかハッピーエンドが来ることをわずかに期待した日もあったけれど、実際の人生はシンデレラのようにはできていない。シンデレラがしあわせに暮らせた理由って一体なんだろう。 僕は嫌になって、靴を脱いだ。 このボロボロのツギハギだらけの靴が、ガラスの靴よりもずっとずっと美しいことを、僕だけが知っている。 そうして、誰にも気づかれない夢の中に、この靴を隠しておいた。 ここにいれば、誰かに酷いことを言われなくて済むからね。 朝になって汽車が来るまで、僕は裸足で最後のダンスを踊り続けた。まだぼんやりと月が見えている。 いつか僕がいなくなって、僕のことを覚えている人もみんないなくなってしまったとき、 君があのツギハギだらけの靴を見つけてほしい。そのときが来るのを、夢の中でじっと待っているはずだから。 そして君があの靴で、僕の代わりに思いっきりステップを踏んでほしい。僕だけがそれを、誰もいない宇宙の外側から見ているよ。 何年先の話かわからないが、この手紙が届いた今がそのときでありますように。 踊ることを禁じられた人間の話。 <インナージャーニー・カモシタサラ> ◆紹介曲「 ステップ 」 作詞:カモシタサラ 作曲:本多秀 ◆3rd EP『いい気分さ』 2023年7月19日発売 <収録曲> 1. PIP 2. ステップ 3. 手の鳴る方へ 4. 夜が明けたら私たち 5. ラストソング