傷跡を数える度に鼓動が深まると祈って。
ODDLORE
傷跡を数える度に鼓動が深まると祈って。
2023年8月16日に“ODDLORE”がメジャー1stアルバム『ONE BY ONE』をリリースしました。メンバー6人の葛藤や孤独といった心の内を歌い上げた、メンバーフォーカス楽曲のほか、抱える葛藤を自己受容していく姿が描かれた新曲など、リスナーが“私小説”を読むように全曲を通して6人の生き様を体験することができる作品となっております。 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“ODDLORE”による歌詞エッセイを2週連続でお届け。今回は【後編】です。執筆を担当したのは、メンバーのRIKITO・JOSH・YUI。それぞれが抱えてきた葛藤、ODDLOREとして活動する今の想い、そしてイチオシの1曲を明かしてくださいました。ぜひ楽曲と併せて、彼らのエッセイを受け取ってください。 「 where I belong 」 ―みんなの夏に寄り添える曲になりますように。― この曲は、11曲ある僕たちODDLOREの曲の1つで、 僕RIKITOに、フォーカスされた一曲です。 学校、仕事、家族たくさんある組織の中で、 自分の居場所がみつからない 居心地が悪い 本当の、ありのままの自分を曝け出せない 曝け出す場所がない そんな思いが詰まった一曲。 僕が好きなフレーズは、 冒頭の “どこにも見つからないmy place” サビで繰り返される “lead me now” “辿り着きたい” 素直な自分の気持ちをストレートに曲に乗っけています。 また、曲調がレゲトンなので、深く歌詞を考えなくても、夏、海、夕陽との相性がよく気持ちよく聴ける曲になっています。 みんなの夏に寄り添える曲になりますように。 <RIKITO> 「 HOLLOW 」 ―もし人が互いに寄り添う世界があるなら、 そんな世界に住んでみたい。― 人間は本質的に分かり合うことはできない。 全ての思考は経験と遺伝を元に形成されるため、馬が合わない相手が存在することは必然となる。 私は無駄なことがとにかく嫌いで、慣習や他人の意思に振り回されることを避けてきた。 無駄な時間は無駄な時間として、脳を休めて思考をクリアにすることに充てる。 非合理的な動きばかりをする人間社会がいつも馬鹿らしく、 俯瞰して見れば、その輪の中に自分が入っていることも馬鹿らしい。 全ての言動は、何を基準に、何をするために行っているかが把握できれば、 疑いも建前も無く生きることができるというのに、表層情報だけで判断を行いたがる。 思考の放棄をした人類はやたら多い。 そんな人類に特に期待することは無い。 もし仮に全ての人間の心情、思考、過去が分かるとしたら、 もっと優しさに溢れた世界になったのかもしれない。 実際、それができない現在の人間には分かり合おうとする努力しかできない。 私は過去の経験から、他人が自分を分かろうとしてくれることは無いと感じている。 もし人が互いに寄り添う世界があるなら、 そんな世界に住んでみたい。 真に繋がることのない世界で、本物を求める一人の叫びがこの曲です。 HOLLOW <JOSH> 「 Hazed Reality 」 ―音楽という手段を用いて、痛みを共有できるような「つながり」を作りたい。― ①アラームの音で起きる。 といっても、目を瞑った状態で朧げな意識のまま朝を迎えたので、 「起きる」という表現は適切でなかった気もする。 ②とりあえず舌打ちをする。 やはり睡眠を十分に確保できなかった時の朝は格別だ。 なんといったって頭痛が普段の比べものにならない。 頭痛が痛いって言っちゃったとしてもトートロジーには気がつかないくらい回転が鈍っているし、目も開かない。 そんなわけでこのままだと衝動に駆られて全てを台無しにしてしまいそうなので、 3度ほど舌打ちをしてリズムを整える。一人暮らしでよかったなと心から思う。 ③帰宅する。 1秒で全裸になる。服を豪快に洗濯機に投げつける。 脇を閉じて胸を張り、目一杯腕を振る。肘が痛んでも後の祭り。 シャワーをジャージャー流す。 とっくに身体を流し終えているのだが、気の済むまで流す。 水道代なんか知ったこっちゃない。 0時を跨いでることに気付く。 それでも誰にも催促されず、怒られもしない。 一人暮らしでよかったなと再度心から思う。 ④ご飯を食べる。 もう少しで1時になる。 玄米と納豆と青魚を薄茶色の折りたたみテーブルに載せる。 夕食というには、少し遅すぎる気がする。 じゃあ深夜飯というでもいうのか。 それとももっとジャンキー色を強めないと深夜飯として呼ぶことは許されないのか。 深夜に食べると脂肪になりやすい、深夜に食べることは肥満に直結する、みたいなことを散々耳にした。 実際に深夜には食欲と睨めっこしながら歯をキリキリさせて、 それでも我慢できなくなって炭酸水かなんかで誤魔化す人もいるらしい。 そういうことを、気にする僕ではない なんせこっちは普段からもっと食えだの太れだのということを、 幼少から現在に至るまで日常的に浴びせられてきた。 箸は、そのまま動く気配がない。 まずい、食欲がない。 昼過ぎからなにも食べてないはずなのに、 動き回ってたはずなのに、 このままだとまた体重が落ちて、飯を食えだの細すぎるだの好き勝手に言われてしまう。 まずい、それは避けねば。 ④布団に入り込む。 と同時に、蒸気のアイマスクを装備する。 ラベンダーの馥郁たる香りで鼻腔が満たされる。 日中気絶するかと思うくらい眠かったのだから、 さぞかしよく眠れるだろうと胸を踊らす。 アイスマスクの蒸気が引いていく。 少なくとも30分以上が経ったことを悟る。 ここらで入眠に苦戦する未来をきちんと直視する。腹を括る。 戦いのお供に、教授のピアノ集をセレクトする。まずは耳から自律神経を整える。 ピアノの音が途絶える。 1時間と6分が経過してしまった事実と向き合う。 半開きのぼやけた目で捉えた電子時計には、3:34と表示されているように見える。 (少し時間が経って①に戻る。) 以上のあまりにも冗長だった①~④の流れは、 楽曲制作の際の自分である。 心配してほしいとかではない。 僕はただ、皆さんに、楽曲制作の際に付き纏う「作り手の痛み」のようなものの存在を伝えたかった(長すぎて離脱した方が大半で、結果その目的は果たせないのかもしれないが)。 どのアーティストにも「作り手の痛み」は存在し、そしてそれは僕なんかが負っているものより遥かに深く大きいであろうことは想像に難くない。 しかし、僕が重要視しているのは「傷の深さや大きさ」ではない。 「“先に”痛みがあると開示すること」、それを何より今は大切にしたいというのが本音だ。 それは、互いの痛みをやさしく撫で合って背中を預けることのできるような 「つながり」を多くの人が求めているんじゃないかと勝手に想像しているからだ。 そして同時に、上記の「つながり」は人間として生きるために維持される 社会的な「つながり」とは明らかに性質を異にする、とも思っている。 社会の共同体の一員としての「つながり」を維持している人でも、奥で蓋をして置いておく内に、みるみる肥大化していった痛みを誰かと共有する「つながり」を有する人はそう多くないように見える。 というか、そんな人ほぼいないんじゃないか。 仮にそういう人がいたとしても、 その人だって、その「つながり」が何の脈絡もないうちに消えてしまうかもしれないことを想像して眠れない夜を過ごすことだってあるだろう。 だから、これは自分のためでもある。 僕は、「作り手の痛み」を先に開示することで、 後者の「つながり」を発生させるべく、日々活動することにしている。 このコラムも、8月16日にリリースされたアルバムも、9月9日のワンマンライブで披露するサイファーラップも、「作り手の痛み」を開示するということをテーマにしているつもりだ。 尤も、痛みを共有するような「つながり」を持つことは難しい。 先に痛みの存在を告白すれば、相手は自分との間にはっきりと線を引くかもしれない。 もし勇気を振り絞った結果がそれだとしたら、 より痛みを奥に奥に乱暴に押してくるめて閉ざすようになるだろう。 でも、一人でそれを飼い慣らすことができる人はそう多くないのではないか。 きっと近いうちに爆発するのではないか。 人によってはこれまでに積み上げてきたものの全てが根底から崩れるほどの破壊力を持っているのかもしれない。 一人では対処できない、でも自分から開示することもできない。 そんなジレンマを少しでも解消するために、まず自分から、ボーイズグループという姿形を借りて、音楽という手段を用いて、痛みを共有できるような「つながり」を作りたい。 こんな幼稚で向こう見ずな絵空事を描くことを、 許される限り続けたいと思っている僕は、相当に疲れているのかもしれない。 今日はよく寝れそうな予感がする。 今のところは。 <YUI> ◆紹介曲 「 where I belong 」 作詞:SUNNY BOY・CANCHILD 作曲:SUNNY BOY 「 HOLLOW 」 作詞:Yui Mugino 作曲:Foux(TOKA)・Seann Bowe 「 Hazed Reality 」 作詞:弥之助(from AFRO PARKER) 作曲:横山克 ◆メジャー1stアルバム『ONE BY ONE』 2023年8月16日発売 <収録曲> M1:「Hazed Reality」 M2:「Lucid Dream」 M3:「The Revelation」 M4:「SKIN DEEP」 M5:「BRIGHT SIDE」 M6:「where I belong」 M7:「HOLLOW」 M8:「ORTUS」 M9:「Embers」 M10:「Coming Dawn」 M11:「ONE BY ONE」