通算148回目となる『デビューレビュー』。暗転の中、高めにアコギを抱え、深々とお辞儀。ゆるりとした風貌で登場したオープニングは、タイトルに相応しくデビュー曲「素晴らしき日常」。特徴とも言える、キチンと大きく開く口から出てくる言葉は、先程見せた行儀良さをあっと言う間に覆す。無駄に煽る訳でもなく、アコギをかき鳴らし真っすぐに歌う姿。その中で暴れまわる感情。そして、普通のビートとは刻みの違うドラミング。この三味一体が実に効く。変に、“乗ってるか~!”とか言われたら、多分、響かない。そんなパッと見、草食タイプの男が紡ぐ言葉には、リアルがある。“1曲、1フレーズ、1音、一瞬でも繋がって、楽しい時間にしましょう”真面目だ(笑)。だが、このギャップが観客の心に隙を作って入り込む。一言飲み込んだら最後、大好物になってしまう。なぜだろう? 彼の言葉は老若男女問わずに響く。そして、タイミングが掴めず、歌い終わりの拍手に間ができる。後ろ髪というか、余韻に浸りたいのか、思いに引きずられる。だから誰かを待って、ばらついて大きく歓声に変わる。テーマ性、言葉選び。決して良い子ちゃんには成りきれない、本音と真実のつぶやきが、ちいさな波紋を置いていく。ゆっくりと深く。「16才」「8月6日」と内容のまったく違う2曲を続けた後、前列の女子が涙をそっと拭いた。哀しい曲じゃないはずなのに...。思い出したんだね、何かを。琴線に触れるってやつ。ラストに奏でた「福笑い」という曲。“世界の共通言語は英語じゃなくて、笑顔だと思う..”と、馴染みのある東京メトロのCMソング。“この人だったんだ”という声が聞こえた。その子は、当たり前のようにCD即売の長い列に並んでた。ごもっともな感触でした。