“ステージに立って満員の客席の前で歌い、大歓声を浴びて喜びを分かち合うことが叶ったら、まさに《こんな自由が待ってるなんて》っていう歌詞のとおりの気持ちで歌えるでしょうし、今はその瞬間への想いがどんどん募っているんです”。
シングル「透明」に込めた想いを、そう本誌インタビューで答えてから実に2年半。ついに宮野真守の、そして数多のファンの“夢”が叶う日がやってきた。コロナ禍を経て、宮野のライヴでは4年振りに観客の声援が解禁されたツアー『SINGING!』。アーティストデビュー15周年イヤーの最中に全国4都市8公演を巡っての最終日は、その場に集ったチームの“声”があふれ、居合わせた全ての人々に大きな感動を与えるものとなった。
オープニング映像の中ではレコード盤が回り、その音に乗ってモノクロからカラフルへと色づく世界に“Hey! Let’s Sing!”の文字が映し出されると、ダンサーたちの登場に続いてLEDモニターには“NANANANA...”の文字が。待ってましたとばかり、8月に配信リリースされた「Sing a song together」を合唱するファンの大歓声に迎えられ、ステージ壇上に宮野が姿を現す。『SINGING!』のネオンサインを背に“歌え!”と号令をかけてから、自身も朗々たる歌声を響かせてアリーナから広がる花道をゆっくりと進み、センターステージに膝をついて“立ち上がれなくなってしまった時 救ってくれた歌がある”と謳い上げる、その言葉に1ミリの誇張もない。客席中から湧き上がる大合唱に満面の笑顔を浮かべ、ど頭から感動的なシーンで始まったライヴは、その後もオーディエンスの声に包まれ続けた。ロックな「SHOUT!」では客席の声に負けじと振り絞る歌声の最後に大きな蹴りを繰り出し、「THE ENTERTAINMENT (HERO REMIX)」ではダンサー陣とのシンクロバッチリな軽快ダンスで場内を沸かせて、さらなる歓喜のかけ声を招く。ミントグリーンのフォーマルスタイルからシャツにグラサンへと着替えた「FANTASISTA 2023」で“LALALA...”の、ブラスの音が響く歌謡ナンバー「行こう!」で“イヤイヤ!”の大合唱を呼びながら、激熱ロック曲「Greed」で荒々しく伸びるヴォーカルを叩きつける様は、まさにザッツ・エンターテインメント。相変わらずの見応え・聴き応え満点なステージングに、今回は待望のファンの声が加わったことで、宮野自身のテンションと抜群の相乗効果を果たしていることが手に取るように感じられた。
そんなステージを強力サポートするバンドメンバー&ダンサーを紹介してからは一転、ピアノの調べに乗せて「Invincible Love」を時に囁くように、時にエモーショナルに歌い上げ、シックなジャケット姿に似合うお洒落な時間を演出。“やっとこの時がやってきました! 今日は最後まで盛り上げていくんでよろしく!”と約束したMCでも、トークだけでなくバンドの即興演奏と観客の手拍子に乗って花道をウォークし、ファッションモデルさながらジャケットを片肌脱いでポーズを決め、“すごいね。神回じゃない? 今日”とアドリブ対応のうまさを見せつける。声出し制限が解かれた中で、自由に想いをぶつけ合って楽しみたい――そんな宮野の願いはバラードコーナーでも健在だった。“15周年なんで昔の歌も歌うよ”と1stアルバム『BREAK』から「ぼくのキセキ」をピックアップし、三拍子に乗せた曲中コーラスをオーディエンスにレクチャーして、その呑み込みの良さと美しいハーモニーに“素晴らしい!”と宮野も拍手。ピアノバラード「EVERLASTING」を挟み、宮野真守ライヴ恒例の幕間映像も、今回はファンと楽しむ時間に向けての大いなる前振りとして機能していたと言えよう。コント仕立てで作られた15周年に向けての楽曲制作ドキュメント『ノンフィクショニング』として上映された映像は、山里亮太(南海キャンディーズ)や福士蒼汰、星野源らからのお祝いメッセージも交えつつ、冒頭の“コントはなしで”という言葉とは裏腹に、彼らしい笑いがいっぱいの超大作に。最後は“15”周年ということでイチゴをモチーフにした「ICHIGO~甘くてCHUぱいぜ~」をイチゴの被り物で披露し、さらに“ベリーベリーおめでとう!”と画面からステージに飛び出して、イチゴのアップリケ付き赤ジャケットを着てダンスレクチャーする愛らしさには完敗だ。ペンライトで赤と緑に染まった客席と一緒に踊り、歌う宮野真守の全方位エンターテイナーぶりも、ここまでくると脱帽である。
続く「愛の詩~Ulyssesの宴~」でも合唱を巻き起こしつつ、スツールを使った挑発的なダンスで夜の空気を振りまいてからは“魅せる”エンターテイメントへとシフトチェンジ。“FIRE”とタイトルコールしてペンライトの光で場内を一面の赤に染めれば、アグレッションとキュートとセクシーが交錯する怒涛のダンスメドレーで踊り尽くして、疾走感たっぷりの「カノン」で勢いづける。レーザー光線飛び交うヘヴィロック「Quiet explosion」では、炎や火花を映すモニターを背にカメラを睨みつけて、タイトルどおりの“静かな爆発”を体現するのも見事だ。しかし、“まだまだみなさんの声を聞かせてくれますか?”と花道に飛び出してからは、ディスコアレンジがされた「Sing a song together」でコール&レスポンスを巻き起こし、“黄色い声が嬉しい...”と床に倒れ伏す。お馴染みの「KISS×KISS」ではファンと濃密コミュニケーション。トロッコに乗ってアリーナを周回し、ピンクのペンライトを振るオーディエンスに投げキスして、1万人のハートを射止めまくる。そのお返しに、いわく“輝く笑顔”を浴びた宮野は、クライマックスに向けて想いの丈を語り始めた。
“やっぱりライヴって、歌って、力を持ってるね。1万人以上が一緒に歌って、こんな幸せな、ピースフルな空間なかなかないよ。それができる立場にいるかけがえのなさを噛み締めたツアーでした。この4年間、少しずつ前に進んで、その時にできる最高や最善を常に目指して。何より嬉しかったのは、それをみんなが受け止めてくれたこと。宮野真守のエンタメを一緒に盛り上げてくれたからこそ、今の景色があるんだと思います。だから、絶対にこれが最後じゃない。また、みんなと最高に一緒にバカなことやって、笑って、楽しんで、涙を流すほど幸せな時間を作りたいし、その時はみんなの弾ける笑顔を見たいな”。
続けて“前回のツアーでは、みんなの分までチームマモが歌った合唱曲を、今日はみんなで一緒に歌いましょう”と贈られた本編ラストソングは「TEAM」。“僕らはチームです! チームマモ、全員で歌います!”と号令をかけられて、英詞のフレーズを文字どおり“大”合唱するオーディエンスに宮野は“最高!”と呟き、ようやく辿り着いた“今”に対する万感の想いを渾身の歌声に乗せていく。さらに、満場の“マモ!”コールに応えての再登場ではひとりステージに立ち、敬愛する坂本真綾が作詞・曲したバラード曲「透明」を歌唱。アンコールのグッズTシャツ姿で、神秘的な世界観を歌声一本で構築すると“また、今日ここで僕の夢がひとつ叶いました。曲を作ってもらった時から夢見ていた光景です。みんなの声に呼ばれて、満たされて、ついに今日、みんなの声に包まれました。本当に感無量です”と会場を見渡す。誰もが惑い、悩み、苦しんだ4年を経て、チームマモが手に入れた“真実”が、そこにあった。
ここで本日のライヴが年内にCS放送されること、来年春に富士急ハイランドとスペシャルコラボを行なうこと、そして6月にフルオーケストラと共演する初のシンフォニックコンサートを東京と京都で開催することを告知。そこまでが15周年イヤーということで“15周年、まだまだ続きます。まだまだお祭り騒ぎ、楽しんでいきましょう!”と煽り立て、「EXCITING!」ではTシャツをまくり上げて腹筋を見せたり、客席を左右に分けて合唱でかけ合いをさせたりと、まさにお祭り騒ぎを繰り広げる。さらに、ツアー最終日ということで、この日はダブルアンコールも。“タイトルコールしたら終わっちゃう!”と惜しみながらも、“こんなにも求めてくれる声って力になる。最高の時間にするぞ!”と再びトロッコに乗り込み、「J☆S」でオーディエンスひとりひとりに手を振って、エアハグで“また会おう。絶対会おう!”と再会の約束を交わしてくれた。
誰かを“求める”のに、手段はいろいろあるだろう。例え遠くの存在であろうと想い、祈るだけでも心は届くに違いない。だが、もっともダイレクトに伝わり、その“誰か”に対して力を与えられるのが直に耳で聞くことのできる“声”であることを、この4年で我々は思い知った。だからこそ声を上げ、確かな音として届けられる今、この瞬間の喜びを噛み締めたい――宮野真守とファンの夢を叶える姿に、そう実感できた一夜だった。
撮影:山内洋枝(PROGRESS-M)、青木早霞(PROGRESS-M)/取材:清水素子
宮野真守
ミヤノマモル:『DEATH NOTE』『機動戦士ガンダム00』『ポケットモンスター ベストウイッシュ』『うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVE』シリーズ『ちはやふる』などのアニメ作品に加えて、『ファンタスティックビーストと魔法使いの旅』などの吹き替えにも出演する人気声優。2008年よりアーティスト活動をスタート。声優、俳優の現場で培った豊かな表現力と類い稀な歌声、そしてダンスを駆使した高いライヴパフォーマンス力を武器に、独自のエンターテインメントを追求し続け、日本武道館やさいたまスーパーアリーナでの単独公演も成功させている。