1998年に始動し、繊細さや攻撃性、アバンギャルドなテイストなどを巧みにブレンドした独創的な音楽性と楽曲によってリアルだったり、トリップ感があったり、人生哲学を歌ったりといった幅広さが光る歌詞、そして硬派なバンドイメージなどにより、多数のリスナーを魅了し続けているSHERBETS。今年25周年を迎えた彼らは4月に最新アルバム『Midnight Chocolate』をリリースし、5月18日から全国ツアー『SHERBETS 25th ANNIVERSARY TOUR「Midnight Chocolate」』をスタートさせた。同ツアーが各地ともに大盛況となったことからは、彼らが4半世紀を迎えた今でも輝きを失っていないことが見てとれる。そんないい状態で進めたツアーのセミファイナルとなる東京公演が、6月8日に東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)で開催された。ウィークデーのライヴで、さらに当日は夕方から雨がパラつくという生憎の空模様となったが、場内のフロアはびっしりとオーディエンスで埋まり、華やかな空気に包まれていた。
オープニングSEが流れ、客席から湧き起こる大歓声と熱い拍手を浴びながらステージに立ったSHERBETSは力強さとドリーミィーな雰囲気を融合させた「カミソリソング」を皮切りに、メロディアスなナンバーや荒々しいロックチューン、抒情的かつドラマチックなバラードなどを相次いでプレイ。多彩さを見せながら世界観を深めていく様子を観ていると、このバンドはいい曲が多いなと思わずにいられなかった。
彼らの楽曲はメロディーがキャッチーなことや伝わりやすさなどに加えて、ダイナミクスを効かせたアレンジやドラマを感じさせる展開などを用いて、深みを生み出していることが魅力と言える。パッと聴くとシンプルに感じるが、実はかなり緻密に構築されていて、それが強固な惹き込み力を生んでいることは見逃せない。しかも、“どうだ、凝っているだろう?”という雰囲気は微塵もなく、“自分たちがイメージしているところに持っていったら、こうなりました”という感じがするのも美点といえる。平たく言うと、SHERBETSの音楽は緻密だが、決して暑苦しくない。そこが本当に素敵だし、このことからは浅井健一(Vo&Gu)を始めとしたメンバー4人の美学が感じられる。
美学といえば、SHERBETSは楽曲を作る時にメンバーの誰かが完成形に近いデモを作るパターンとは異なり、楽曲の素材を基に4人でセッションしてかたちにしていく手法を採っていることも特色として挙げられる。昔ながらのやり方をすることで彼らの楽曲は、浅井の表現力に富んだヴォーカルや楽曲のテイストを増幅するギターを筆頭に、多彩かつ細やかな音色とフレキシブルなプレイで楽曲を彩る福士久美子(Key)のキーボード、しなやかなフレージングからソリッドなドライブ感まで自在にグルーブを操る仲田憲市(Ba)のベース、職人的な懐の深さや肉感的なビートが光る外村公敏(Dr)のドラムなど、メンバー4人の個性が遺憾なく発揮されている。
セッションを繰り返して曲を作るやり方はメンバーの楽曲に対する理解度や愛着心などが深まり、より適切なアプローチが見つけられるというメリットがある。また、SHERBETSがこの手法で良質な楽曲を作り続けていることからは、メンバーそれぞれの良しとするところが共通していることもうかがえる。
曲作りの仕方は4人全員がバンドに必要不可欠なピースであるということに結びついていて、そこも彼らの大きな魅力と言えるだろう。中でもレゲェテイストを活かした楽曲にエレピを配したり、刺々しいロックチューンに夢幻的な音色を入れ込んだりする福士のキーボードは素晴らしい。固定概念に縛られない彼女のアプローチは楽曲の個性をより強めると同時に世界観を深めている。キーボードに加えてコーラスを取り、曲によってはエレキギターも弾くというマルチぶりも含めて、彼女がSHERBETSの重要な役割を担っていることを今回のライヴを観て改めて感じさせられた。
そして、優れた演奏力がこのバンドの音楽をより魅力的なものにしていることも注目だ。SHERBETSは実力派のメンバーが揃っていて、“感性の人”というイメージの強い浅井も例外ではない。ヴォーカリストとしての彼はピッチやリズムのよさはもとよりさまざまな感情を表現するテクニックを身につけているし、アコースティックを含めたセンシティブなプレイからロック感に溢れた荒々しいプレイまで幅広くカバーし、ギターソロを弾くことも苦にしないなど、ギタリストとしてのスキルも非常に高い。
つまり、彼はしっかりとした土台がある上で感性を重視していて、それが群を抜いたカッコ良さや強固な説得力を生んでいるというわけだ。浅井のポテンシャルの高さは、ライヴを観ると実感できる。今回の公演でもトレードマークとなっているギターのグレッチ1本で幅広いプレイや音色を披露し、歌と異なったリズムのギターリフを弾きながら歌うパートも難なくこなし、ライヴを通してエモーショナルなヴォーカルを聴かせる姿に圧倒された。
また、SHERBETSのライヴはバンド感のカッコ良さも観どころで、ピリッとした緊張感と柔らかみを併せ持った浅井、フラットな女性らしさが心地良い福士、クールな雰囲気の仲田、前向きな内面が伝わってくる外村。異なる4つの個性がひとつになることで生まれる彼らのケミストリーは特に魅力的だし、ナヨついたところが皆無なのも実にいい。そして、メンバー全員の演奏している姿がカッコ良くて、派手なステージングなどをしなくても目を奪われずにいられない。結成から25年を経た現在の彼らは“大人のロックバンドの魅力”を体現した存在と言えるだろう。
良質な楽曲とプレイ、起伏に富んだ構成などをフィーチャーしたSHERBETSのライヴは観応えがあり、観飽きることがない。楽曲の幅広さを活かしてオーディエンスのさまざまな感情を揺り動かすライヴでいながら、全体としてはエモーショナルな雰囲気というのもポイントで、今回の彼らのステージを観ていて、“人生を生きるというのはエモかったり、ロマンチックだったりするものだよな”という想いを抱かされた。そんなふうに彼らのライヴは“楽しかった”“カッコ良かった”といったことだけでは終わらない。この辺りも多くのリスナーがライヴを日々心待ちにしている大きな要因のひとつなのは間違いないだろう。
もうひとつ、25周年を記念したツアーということで自身の歩みを振り返る内容なのかなと思いきや、『Midnight Chocolate』に収録された楽曲を軸に据えたセットリストになっていることも印象的だった。このことからは彼らが常に最新の自分たちの音楽に自信を持ち、それをオーディエンスに聴かせたいという想いを持っていることが分かる。実際、『Midnight Chocolate』の楽曲が加わることで、より振り幅が広がると共に一層深みを増していた。
そんな彼らだけに、25周年もひとつの節目に過ぎず、これからも意欲的に音楽を作り、ライヴを重ね、さらに魅力を増していくことは確実だろう。今後のSHERBETSにも大いに注目していきたいと思う。
最後に、アンコールのMCでメンバーが語った心に残る想いを記しておこう。
“25年と一言で言うけど、4半世紀だからね。すごいことですよ。こうやってみなさんが集まってくれて、続けていられるというのは本当に幸せというか。我々も...なんで、こんな固いこと言っているんだ(笑)。まぁ、楽しんでやりましょう(笑)”(仲田)
“今日もこうやってたくさんの人にSHERBETSの音楽を聴いてもらってラッキーだなと。ラッキードリームです(笑)。25年もずっとこうやってこの4人でやってこれて。あっという間だったので、気をつけないといろんなことがあっという間かなと思って、最近はその瞬間瞬間を思いきり...次がどうこうとかよりも、その瞬間を思いきり楽しみたいなと思っています。25年の間ありがとうございました。これからも、よろしくお願いします”(福士)
“自分の性格は飽き性なんですけど、よく音楽をここまでやってきたなと感心するばかりでありまして。これから先どこまで自分がやっていけるのかは分かりませんが、楽しんでいきたいなと。ただただ、みなさんにはあり難いという感謝の気持ちです。ありがとうございます”(外村)
“本当にありがとう。これから張り切って、みんなで今の時代をいくしかないもんね。みんなそれぞれいろんな毎日があるのはあたり前だから、全員で明るく、元気でいこうぜ!”(浅井)
撮影:岩佐 篤樹/取材:村上孝之
※現在ツアー中のため、セットリストの公表を控えさせていただきます。
SHERBETS
シャーベッツ:シャーベッツ:1998年に結成されたロックバンド。メンバーは浅井健一(Vo&Gu)、福士久美子(Key&Cho)、仲田憲市(Ba)、外村公敏(Dr)の4名。内面的で繊細な部分とアヴァンギャルドで攻撃的な部分が重なり合い、サイケデリックでドラマティックな音楽世界を表現している。これまでにシングル7枚、オリジナルアルバム12枚、ライヴ盤3枚、ベスト盤を2枚発表。2022年10月に23年に迎える結成25周年のファーストアクションとしてシングル「UK」を発売し、全国ツアーを開催した。23年4月にアルバム『Midnight Chocolate』はリリースし、5月から全国ツアーをスタートさせる。