貫禄のライヴだった。貫禄と言っても権威主義的な意味で言うのではない。スキルに長けたミュージシャンが伸び伸びとやるとこんなにも開放的な空気が発散されるんだな...という、ベテランのみが醸し出すことができる確かなパフォーマンスの交歓を観せてもらった印象だ。公演前のJILL(Vo)による影アナからして楽しかった。徹底した感染対策のもと、ディスタンスをとった観客はスタンディングで観ることはできたものの、まだ歓声やシンガロングは控えねばならない状況である。観ている側にはこれからどんな雰囲気になるのか不安な向きもあったかもしれないが、そこでJILL本人から“いい子でライヴをやるんだよ! あとでね!”なんて言われたら、気持ちもだいぶリラックスする。本編が始まる前から、いわゆる“掴み”はばっちりであった。
そんな一旦弛緩した空気も、オープニングのSEが鳴り、ステージ上のアンプに備えられた回転赤色灯が回って、一転ピリリとなる。緩和のあとの緊張。この辺も実にうまい! 1曲目は「MODERN BOOGIE」。シャッフルのロックンロールでありつつ、テンポは速く、本田 毅(Gu)が奏でるギターサウンドは鋭角的という、まさに“モダンなブギー”だ。オーディエンスから声は発せられていないが、その身体の揺れ方、身振り手振りで、熱は伝わってくる。いきなりテンションが高い。ショートMCに続いて披露されたのはM2「Mystery Hearts」。“ちょっと懐かしい80年代へ戻りませんか?”と紹介された通り、ニューロマを彷彿させるギターの音色を懐かしく感じる人もいるだろう。1980年代を知らない人には新鮮に聴こえたはずだ。
M3「PARADE」はさらに当時の匂いが強いナンバー。シーケンサーを使っていることもさることながら、ひと筋縄ではいかない展開で、どこか面妖な世界が広がっていく。まさしくニューウェイブ。フレンドリーではない...とまでは言わないけれども、ポップさは薄い。ヘビィで手数の多い藤田 勉(Dr)のドラミング。渡邉 貢(Ba)のベースはスラップを聴かせ、本田のギターはキレキレのカッティングを魅せる。そして、JILLの迫力あるシャウトと、各々がそれぞれのスタイルを誇示しながらも、楽曲としてひとつにまとまっていく。これが結成間もない頃の楽曲というのは、PERSONZの革新性がうかがえるというもの。一旦、JILLがステージからはけたあと、3人のみで演奏されたインプロビゼーション的パートはその極みで、前衛的なアンサンブルは圧巻だった。ライヴがスタートとしてからそれほど時間は経っていないのに、いきなりクライマックスを見せられたような恰好であったと思う。
もちろん、それだけがPERSONZではない。続く、M4「POWER-PASSION」、M5「HOLLYWOOD MOVIE STAR」で示したキャッチーかつメロディアスな歌メロもまたこのバンドの本質だ。M3では演奏に圧倒され、眼前を見据えるだけの様子だった観客も、次第にレスポンスが良くなっていくことが傍目にも分かる。とりわけ、後半での転調が“THE J-ROCK然”としたM5は明らかにオーディエンスの反応がいい。みんなPERSONZのメロディーが好きであることが伝わってくる。マスクに隠れて口の動きは分からなかったが、多くの人がJILLの歌に唇をシンクロさせていたに違いない。そのあとのMCで、当時はとある雑誌に“こんなバンド、一年経ったらいない”と書かれたことを笑いながら話すJILL。こんなにポップなバンドを蔑ろにするとは先見の明がなかったにも程があるとは今になっても思うが、若干弁護する余地があるとすれば、30数年前にはM3のような革新性は理解されづらかったのだろう。1988年、ニューウェイブと大衆性を兼ね備えたバンドは真に新しかった、新しすぎたのだ。それは6月9日にリリースされた“RELOAD PROJRCT”の第四弾である『ROMANTIC REVOLUTION / POWER-PASSION』を聴いた時から感じていたことでもあるけれど、収録曲を生で聴いてその想いは確信に変わったところがある。
以降、M6「HOLD ME TIGHT」、M7「C’MON TONIGHT」、M8「TV-AGE」とアルバム収録曲を披露したのち、久しぶりのM9「SMILIN' ANGEL」、そして彼らのキラーチューンのひとつであるM10「BE HAPPY」と続く。サプライズは、この日限り、一日だけの歌詞で歌われた次のM11「TOKIO’S GLORIOUS(2021version)」であったと言っていいだろう。何でもこの曲の作曲者でもある藤田から“2021年の東京を歌ったらどうだろう?”と提案があったそうで、“アスリートに罪はないけれど...”と前置きしながら、ストレートに五輪を批判したようである。“ようである”というは全ての歌詞を正確に聴き取れなかったからだが、《誰のため?》《何のため?》と何度もリフレインしていた。心なしか、藤田のドラミングにも力が入っているようだったし、歌い終えたJILLも“非常にすっきりしてる”と満足気だった。バンドの根底にあるロックスピリットをしっかりと見せてくれたことは頼もしくも感じたし、五輪にはさまざまな見方があろうが、昨年は国や都のガイドラインに沿ってライヴを自粛してきたPERSONZにはひと言もふた言も物申す権利はあって然るべきだ。
その「TOKIO’S GLORIOUS(2021version)」のあとは、突き抜けるようなギターと歌メロが印象的なM12「7COLORS」と、実に開放的なナンバーで本編を締め括る。観客もJILLに合わせて左右に手を振り、反応はすこぶるいい。ややもするとシリアス傾向のみに陥りがちな時事ネタから一転、がらりと盛り上げるなんて芸当はなかなかできるものじゃない。こうした流れるような展開は、PERSONZが優れた楽曲を世に出してきたことと、ライヴを重ねてきたキャリアがあってのことであることは間違いないだろう。何だか妙に関心(?)してしまって、“2020年代のPERSONZが今までで一番面白いんじゃないだろうか?”とかなり真面目に思ったところだ。
アンコールでは「IT’S TOO LATE」に続いて、バンドの代表曲であり、日本ロック史に輝く名曲「DEAR FRIENDS」を披露。やはりこれがなくちゃPERSONZのライヴじゃない。“みんなが駆けつけてくれて、ライヴは色鮮やかになりました!”とJILLはフレンズたちに感謝の意を表す。そして、“まだまだPERSONZには伸びしろがあります!”と高らかに言い放つ。そろそろ結成40年を迎えんとするバンドが“伸びしろ”とは客観的に見たら“?”と思うところだが、この日のライヴを観た限りは納得ではある。そのポップさと革新性、ロックスピリットは、30余年のキャリアを経て、バンド結成時とはまた違った輝きを見せることを、PERSONZはこの日、証明してみせた。公演タイトルにあったように、まさしく“THE NEWEST PERSONZ”の姿そのものであったのだ。
撮影:アンザイミキ/取材:帆苅智之
PERSONZ
パーソンズ:1984年結成。87年にリリースしたミニアルバム『POWER-PASSION』がインディーズチャート1位を獲得し、同年9月にアルバム『PERSONZ』でメジャーデビューを果たす。TBSドラマ『ママハハ・ブギ』に「DEAR FRIENDS」が起用されると大ヒットを記録。その後もエッヂの効いたメロディアスでポップなサウンド、そして存在感あふれるヴォーカルで多くの人々を魅了し続け、15年6月には24年振り3度目となる日本武道館公演を開催した。