オープニングを告げるアニメーション、不規則な秒針音、波多野裕文(Vo&Gu)の朗読。この野音の夜の空間だけが現実から切り取られたような世界観が一瞬にして作られ、まずは「旧市街」の変則的な展開が脳を刺激する。温かいサウンドと残酷なまでの生々しい歌詞がひとつとなる「アメリカ」。心地良く感じる聴衆がいれば、身震いするほど恐怖を感じる聴衆もいるかもしれない。そんな音、歌詞に聴き入り、ゆらゆらと揺れる観客を観ながら僕はそう思った。ダブルアンコールで波多野は最新作『Family Record』について言葉につまりながら“この言葉にできない感じが音楽の本来あるべき姿だと思うよ”と語った。言葉にできないから音楽になる。だから、オーディエンスも声を上げたり、腕を掲げたりではなく、向き合うように聴き入る。People In The Boxの音楽を体現したようなワンマンだった。