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NakamuraEmi ライヴレポート

【NakamuraEmi ライヴレポート】 『NakamuraEmi NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.6 ~Release Tour 2019~』 2019年6月18日 at Zepp DiverCity Tokyo

2019年06月18日
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なぜ、この人はこんなにも素直なのだろうか? 人間、生きていれば誰もが何かしらの偏見や思い込みを積み重ね、物事を真っ直ぐには見られなくなりがちなもの。しかし、ステージからNakamuraEmiが放つ歌には、現実をあるがままに直視する勇気にあふれていた。そこに過剰な修飾も曲解もひとりよがりもなく、何に対しても誰に対してもフラットで、北風に対する太陽のように、観る者に内在するルサンチマンまで溶かしてしまう。どうしたら、こんなにも真っ直ぐ生きられるのかーー。最新アルバム『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.6』のリリースツアー最終日、パンパンのフロアーを見下ろしながら筆者が感じた疑問は、やがてライヴが進むにつれて解き明かされることになった。

“Zepp DiverCityにお集まりのみなさん、NakamuraEmiと申します。どうぞよろしくお願いします!”

ジョン・カビラによるアナウンスで入場するや、そう挨拶して始まったのはアニメ『笑ゥせぇるすまん NEW』のオープニングテーマにもなった「Don’t」。大人の“欲”を風刺した毒のある曲だが、肩の力が抜けて意外なほどキュートに感じられるのは生のライヴならでは。続く「大人の言うことを聞け」でもクラップを交えるライヴならではのアレンジが利いて、その成長ぶりに“やはり楽曲は生き物だな”と実感させられる。また、軽やかな響きの中で力強い足踏みとともに刻まれる年長者からの愛あるメッセージにも激しく心揺さぶられるが、それ以上の衝撃を与えてくれたのが「バカか私は」。最新アルバムに収録されているものを聴いた際、歌詞の一部に旧来の女性像を見るようで素直に受け入れられなかった筆者だが、曲が終わる頃にはそんなことを考えていた自分が心底恥ずかしくなってしまった。誰かのために何かをしたいと思うことそのものが尊いことであり、つまらないことにこだわっているから目の前の幸せを逃すのだと、歌詞のメッセージをようやく真っ直ぐ受け取ることができたのは、前屈みになって大人だからこその痛みや弱さを客席に向かいさらけ出す彼女の迫りくるエモーションがあったればこそ。“雨女も悪くないなと思って作った曲です”と始まった「雨のように泣いてやれ」でも、歌っているのは雨に紛れて感情をさらけ出すこと...つまり、素直であることの美しさだ。

中盤では彼女自身の体験から生まれたナンバーが続いたが、特筆すべきは「いつかお母さんになれたら」。雄大な太鼓の音をバックに、母になれないかもしれないことを悲しみではなく、その分、多くの人に愛を与えられるという希望の歌へと壮大に転換させたのは、お見事のひと言だ。「めしあがれ」でも“小さなことを気にする性質のおかげで誰も気付かぬ幸せを知ってる”と歌うが、その着眼点の鋭さこそNakamuraEmiの最大の武器だろう。そんな自分をネガティブと知るからこそ“頑張れ!”と奮い立たせる曲ばかりを書いてきたと語り、“自分を好きになれなくても認めてあげたい、大事にしたいという想いから生まれた曲”と贈られたのは「甘っちょろい私が目に染みて」。アコースティックギターと歌だけで紡がれていたのが、徐々に音数を増すのに従って、歌声も朗々と広がってゆくさまは、実にドラマチックだった。自分の好きなものを認め、自分を信じてあげようという訴えはリアルであるがゆえに熱く、オーディエンスの心を震わせるが、考えてみれば第三者から見て“アーティスト”という職業ほど、自分の好きなことを好きなように追求している仕事はない。このへんの二律背反ぶりもまた、NakamuraEmiの唯一無二性を表すものだろう。

自分が受けた音楽の衝撃を、今度は作り手として圧倒的な熱量と大地を揺るがすようなシャーマニックなヴォーカル&パフォーマンスで体現した「痛ぇ」で大喝采を浴びたあとは、“新しい曲です!”と5月にリリースしたばかりの新曲でNHK ドラマ10『ミストレス』主題歌の「ばけもの」を投下。グルービーなバンドサウンドに乗せて歌われる“ややこしい女”像は、間違いなくさまざまな職種の仕事をしてきた彼女自身の経験から生まれたものであり、続いては“奮い立たせる曲”の代表格とも言える「かかってこいよ」で逞しいコール&レスポンスを繰り広げる。「女の友情」に至っては、タンバリンを叩きながらサビの一節を男女オーディエンスで掛け合いさせて“すごい!”と目を丸くしたり、ライヴならではの一体感も満点。そして、そんな心躍るエンターテイメントの根っこにあるのは、面倒臭い自分、ややこしい自分、弱い自分...その全てに直面しては悩み、それを振り切ろうと時に自分を叱咤し、ぐるぐると回り続けてきたNakamuraEmiという人間の生き様だ。彼女は、決して素直に生まれついたわけではない。むしろ人一倍繊細で感じやすく、それゆえにネガティブで、自分の中に潜む一種“女々しい”性質に真正面からぶつかってきた。そんな決して人には誇れない経験があるからこそ、人に力を与える歌を生み出す強さを得られたのだ。

本編ラストの「YAMABIKO」では魂の叫びとも言える屈強なヴォーカルで、自分の道を“何度でも登って前を向け”と歌う彼女にフロアーからは大合唱と拳が突き上がり、迫力のバンドサウンドが曲を締め括ると拍手喝采が沸き起こる。アンコール1曲目の「モチベーション」でも“私次第だった”のタフなリフレインをドラム vs パーカッション、ギター vs ベースの掛け合いバトルが盛り上げて場内を沸騰。メッセージを支える強靭なバンド力に対し、客席からは惜しみない拍手が贈られた。とかく他人との関わりで頭を悩ませたり、心をざわつかせることの多い大人にとって、“自分次第”と言い切ってくれるこの2曲は一種ホッとできる心の癒しであり、希望であるとも言えるだろう。

“言葉がみんなの生活の傍にいれるように。相棒になれるように頑張ります”

そんなMCを受けて、最後に「相棒」が披露されると、客席ではクラップが自然発生。“私”の連呼に「甘っちょろい私が目に染みて」と同じく、自分自身への愛情が感じられて、思わず笑顔になってしまう。フロアーから沸く“LaLaLa”の合唱には、なんと彼女自身がステージから下りてオーディエンスにマイクを向ける場面まで! そして、曲が終わり、ニコニコと手を振った瞬間、それまで大きく見えていた赤いツナギ姿が、等身大の小柄な女性へと戻る。NakamuraEmiという小さな身体に秘められた巨大なパワー、それは日本の女と、男と、大人の瞳から、思い込みという名の鱗を引っぺがしてくれるだろう。

撮影:Daisuke Miyashita/取材:清水素子

NakamuraEmi

ナカムラエミ:神奈川県厚木市出身。1982年生まれ。山と海と都会の真ん中で育ち幼少の頃よりJ-POPに触れる。カフェやライヴハウスなどで歌う中で出会ったヒップホップやジャズに憧れ、歌とフロウの間を行き来する現在の独特なスタイルを確立する。その小柄な体からは想像できないほどパワフルに吐き出されるリリックとメロディーは、老若男女問わず心の奥底に突き刺さる。16年1月にメジャーデビュー。17年3月に2ndアルバム『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.4』を、18年3月には3rdアルバム『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.5』をリリースした。