aikoがこの20年、何を歌い、伝え、届けてきたのかを改めて実感した一夜であった。それこそが各歌に込めてきた“愛しさ”や“健気さ”。それらを彼女はさまざまな季節や瞬間、シチュエーションや物語として、作品やライヴを通し我々に贈ってきた。その縮図とも言えるこの日の選曲からは、どれも抱きしめたくなるほどの愛しさや健気さに満ち、それらは時に会場を包み、広がり、届いたり、キュンとさせたりした。
デビュー20周年のハイライト的な全国アリーナツアー『Love Like Pop vol.21』の関東公演が2月9日&10日の2デイズ、さいたまスーパーアリーナにて開催された。大阪城ホール、さいたま、福岡マリンメッセにて2デイズに渡って行なわれた同ツアー。各箇所2日間、半分近くの曲がダブりなく贈られ、内容はまさにベスト・オブ・ベストの様相を魅せた。以下は2月10日のさいたまスーパーアリーナでの公演記録だ。
オープニング映像が流れ終わると幕が開き、ピアノのイントロが流れ出す。1曲目はいきなりの「カブトムシ」が飾った。しっとりと歌い出すaiko。スタートダッシュ的な曲でくる予想がいい意味で裏切られる。名フレーズ《生涯忘れることはないでしょう》とともに切ない気持ちが場内の隅々にまで染み渡っていく。
“『Love Like Pop』、始まります。よろしく~”とaiko。季節は春へ。「ハナガサイタ」に入ると会場中の装着されたaiko曰く“拘束バンド”ことザイロバンドがカラフルに光り出し、同時にライヴが走り出していく。aikoはアクティブに動き歌い、ホーン隊も映える「雲は白リンゴは赤」にて華やかさとゴージャスさを場内に呼び込めば、ピアノがエレガントさを増させ、ジャジーさを交えた「冷凍便」に於いてはキュンとした甘酸っぱさを聴く者全てに込み上げさせる。
序盤は白いドレス。今年の紅白での「カブトムシ」を歌った際の衣装だ。“43歳でこれを着て街を歩いていたら危ない人だよね”と笑い、“最後にはみんなをイカせるライヴにする!”と力強く宣誓。場面を愛しい人が見えなくなるまで見送るシーンへと移行させていく「冷たい嘘」では、別れたくはない本音の中、あえて“さよなら”と告げるやさしい嘘が場内の胸を締めつけ、アリーナ中央に設置したステージから後方まで長く続くランウェイをゆっくり歩きながら歌った「かばん」では、伸びやかな歌声とともに“あなたのことがずっと好きだった”と、その胸の内が歌に乗せ吐露されていく。また、しっとりと歌われた「三国駅」の際には、体温のような温もりを歌とともに感じさせてくれた。
“嫌なことを全て垂れ流してほしい。今日は毛穴まで開いて全部みせる。目で殺すライヴをやっていくから!”との力強い言葉とともにライヴはさらに劇部へ。「心日和」では再びザイロバンドが各色に発光し、レーザーやムーヴィングといったライト類もアクテビティに稼働。また、アクティブと言えば、「恋人」ではaiko自身、ステージの左右へと全力疾走しながら歌う場面も印象深かった。
デビュー以来、全国ツアーを欠かさず行なってきたaiko。逆にこの日は全国からもこの会場へと訪れていた。そんなひとりひとりに可能な限り近くに感じてほしいという想いが、中盤以降の彼女のバイタリティからはあふれ出ていた。「恋人」を経て激雨の去ったあとの虹を彷彿させたセンターステージが放つ幻想的な発光。そこに衣装替えをしたaikoが下からせり上がり現れる。囲むアコースティックバンドメンバーとともに「Do yYou tThink aAbout mMe?」が、さらに「桜の時」ではスライドギターも交えてブルージーさも加えて歌う。このゾーンでは普段とは違った側面にて楽曲が楽しめたのはもちろんだが、私が感心したのは、通例ならサブステージ扱いのセンターステージが、もうひとつのメインステージのような趣きだったところだ。一般的には簡素なライティングやステージが多い中、彼女の場合は違っていた。メインと比べても遜色なく、むしろここでしかないライティングも楽しめ、その辺りからも上述の“ひとりひとりに可能な限り近くに感じてほしい”という想いを感じた。また、「あたしの向こう」では、今度はセンターから場内後方に向けランウェイを全力疾走。駆け歌うさまも目に焼き付いている。
後半は怒涛だった。コール&レスポンスを経ての金銀テープのキャノン放射と、会場中に仕込まれたムービングライト類も一斉に起動した最新曲「ストロー」を機に再びライヴが流転。aiko本人も前方後方左右上下と、集まったオーディエンスへの配慮にも余念がない。四方八方に全力疾走で駆け歌う健気さも印象的であった。そんな中、弾けて歌う姿も特徴的だった「ドライブモード」、会場の手拍子とともに作り上げた「ひまわりになったら」では、かつてのライヴの名場面の数々がビジョンに映し出され、ここまできちんとライヴを繰り返してきた彼女だからこその“信憑性”を改めて実感できた。また、「夢みる瞬間」にて怪しさとカッコ良さ、そして女子の健気さを炸裂させると、“今回は20周年を意識したセットリストで挑んだ。夢のある時間をありがとうございました!”の言葉を添え、本編最後は暖色系のライトが場内を包む中、「ホーム」が届けられた。その際には、いつでも帰る場所は“あなた”と響き、場内の老若男女が深く頷いて聴き入る場面も想い出深い。
一回目のアンコールは最大限の感謝が歌とともに会場に贈られた。一発目のメドレーでは彼女のシングル曲たちが10曲分、短いながらもギュッと凝縮されたかたちで歌われ、それらはいろいろなタイプの愛しさがさまざまなシチュエーションにて届けられてきたことを振り返えらせた。そして、デビューの頃は長く続けるとは思ってもいなく、もし続けていても燃えカスになり、歌う事柄もなくなっているんだろうと思っていたが、まだまだやりたいことがやり切れておらず、今でも悔しい思いをしている自分がいる...と語り、“みんなのおかげで私の歌の色も変わっていった。それをこれからも大切にしたい”と「キスする前に」が歌われ、最後は《誰が何を言おうと関係ないあたしは味方よ》とライヴで育った代表曲「be master of life」が、これからも続いていくお互いのアライアンスを再度確認させた。
“夢のような時間をありがとうございました”と深々と頭を下げ挨拶をするaiko。とはいえ、まだまだ届け切れてなかったようで、特別に前日にはなかったダブルアンコールにもこの日は応え、最近の曲と初期からのライヴ人気曲が特別に贈られた。“港のようにいろいろな音楽を経て、またここに帰ってきもらっても構わない”との、また絶対に戻ってきてくれる自信と信頼感に裏付けされた言葉のあと、最近曲「予告」を、続いてはライヴで育まれてきた代表曲たち「愛の病」「ジェット」が締めた。中でも「ジェット」はaikoも前列から後列まで全力疾走で駆け抜けながら歌い、最後にまたとてつもない活力を場内に寄与してくれた。
aikoは常に“愛しさ”と“健気さ”を歌い続けてきたことを改めて実感した、この日。彼女から受け取った、この愛しさや健気さを今度は我々が誰に贈ろう? aikoの21年目以降が、そしてaikoの寄り添ってくれるそれらの歌の数々と在る我々のこれからは、まだまだ...いや、これまで以上に深く続いていく。
撮影:岡田貴之/池田スカオ和宏
aiko
アイコ:1975年、大阪生まれのシンガーソングライター。98年にシングル「あした」でメジャーデビュー。3rdシングル「花火」が大ヒットを記録し、全国区で注目の存在に。等身大の目線と心情で描かれた恋愛における微妙な女心が多くのリスナーの共感を呼んでいる。