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LIVE REPORT

筋肉少女帯 ライヴレポート

【筋肉少女帯 ライヴレポート】 『New Album「Future!」発売記念 「一本指立ててFuture!と叫べ! ツアー」』 2017年11月16日 at EX THEATER ROPPONGI

2017年11月16日
@ EX THEATER ROPPONGI

筋肉少女帯とはひと言で言うと“仏”のようなバンドだ。とてつもなく残酷で、そして慈悲にあふれている。最新アルバムの発売記念ツアー『一本指立ててFuture!と叫べ!ツアー』の2本目、11月16日のEX THEATER ROPPONGI公演を観て、勝手ながらそう感じずにはいられなかった。ずばり“Future!”と名付けられたタイトルが示す通り、2年振りのアルバムが訴えるのは過去を懐かしむのではなく、ひたすらに未来を目指すこと。そして、本誌インタビュー時、“50代になると、もう過去は覚えていない”と語った大槻ケンヂ(Vo)の振りかざす言葉と包容力は、その威力を格段に増していた。

大槻が右手人差し指を一本立てて幕開けたステージの1曲目は、アルバムと同じく「オーケントレイン」。 大槻曰く“トレインもの”というファンクな本作で“苦しみの根源は執着です”と言ってのけるが、そうと分かっていても捨てられないのが人間の弱さである。未来へ向かう列車に乗せて120パーセント前向きなメッセージを放つと同時に、ド正論で逃げ道を塞いで聴く者をギクリとさせる彼の出で立ちは、お馴染みの特攻服ではなく黒スーツ。しかも、背中には“南無阿彌陀佛”の刺繍文字が輝いているのだから、得体の知れぬ有り難味が満点だ。また、どんなに逃げても箱の中と叫ぶ「人から箱男」などは、釈迦の掌から逃げられない孫悟空を彷彿させたり、とかく彼の歌には仏教的な哲学が漂う。内田雄一郎(Ba)が鳴らすピンクレディー「UFO」のイントロに乗って、アラフィフ以上にはお馴染みのフリを繰り出しながら歌う「新興宗教オレ教」も、それゆえに笑い事では済まない凄味を感じさせるのだ。

しかし、その一方でオーケン節が爆発するMCもまた筋少ライヴの醍醐味。この日もちょうど紅白の出場歌手が発表されたということで、“筋肉少女帯が目指すのは紅白じゃない、未来だ! もう(ツアー初日の)名古屋のことは覚えちゃいねぇ!”と高らかに宣言しつつ、名古屋行きの新幹線チケットを失くした話で客席を笑わせる。その後、発見して払い戻しをしたそうだが当然全額は戻らず、“オーケンの5040円分の心の穴を埋めるためのライヴへようこそ!”と言い切られて場内爆笑。腹の底から笑うことで得られるカタルシスまで、もしや計算しているのだとしたらアッパレである。

そんな“オーケンワールド”の魅力を倍増させているのが、それぞれに超絶テクニックを持つ楽器隊が紡ぎ出す盤石のHR/HMサウンドであることは言うまでもない。大槻を挟んで本城聡章(Gu)、内田、橘高文彦(Gu)と並んだ弦楽器隊は淡々と、しかし実に精度の高い演奏でオーディエンスの身体を揺らし、そのボトムでは長谷川浩二(サポートDs)が堅固で逞しい屋台骨となって全力サポート。加えて、2曲目の「ディオネアフューチャー」で“無意識! 電波!”とパワーコーラスを入れながら登場した三柴理(サポートKey)は、そのマッシヴなルックスからは想像もつかないほど繊細、そして緩急豊かな“気はやさしくて力持ち”的ピアノ演奏で花も実も添える。中盤になるとギター隊もステージを右へ左へと軽やかに躍り、名曲「これでいいのだ」ではギターソロをつないで愛器を振り回す橘高に応え、フロアーは振り回されるタオルの海に。中でも展開目まぐるしいプログレッシヴ曲「エニグマ」でのダイナミックなパフォーマンスは圧巻で、グラサンをかけた大槻の“エブリバディのろうぜ!”の号令に満場の拳があがり、演奏が終われば拍手喝采。“なんだかよく分からない曲で、こんなに盛り上がってくれて嬉しいよ!”と大槻は喜色を浮かべたが、“なんだかよく分からないけどすごい”のは筋肉少女帯の十八番である。メタルに根差した緻密かつ重厚な演奏、抱腹絶倒のトーク、そこに挟み込まれた人の世の真理——共存しないはずのものが共存する唯一無二のエンターテイメント、言うなれば“ギャップ萌えの権化”。これぞ筋肉少女帯なのである。

インタビュー時の大槻曰く“80年代ジャパニーズニューウェイブ”な「告白」からは、それら筋少のエキセントリックな個性が露わに。ミラーボールが回ってインスト曲の「奇術師」をブルージーに披露すれば、ここはディナーショーか!?と思うような拍手が湧き、アコースティックギターでリードするバラード「サイコキラーズ・ラブ」では手拍子が起きて、温かな音色の中に見えるはずのない花園が浮かぶ。が、実は「告白」も「サイコキラーズ・ラブ」も人並みの感情を持たずに生まれた人間の歌。それを悲しいと感知することすらできない哀しみと、それでも未来を見たいという想いが、切なくも晴れやかなサウンドとシンクロして、言葉では説明できない“なんだかよく分からない”感動を呼ぶ。

その高ぶりのままに「イワンのばか」、「釈迦」等のライヴ鉄板曲を畳みかければ、2階席の床も揺れまくり。「T2(タチムカウver.2)」では全員一列になってパワーコーラスを繰り出して、クライマックスのツーバスとクラップがゴスペルのような厳かさを醸し出す。さらに“人間がそんなに好きじゃないだろ!? だから筋少ファンやってるんだろ!?”とオーディエンスの図星を突いたアンコールで「人間嫌いの歌」を楽しげに贈り、アルバムでも随一のドラマ性を持つ「3歳の花嫁」では弦楽器隊のソロ回しも。最後は“24600円くらい胸いっぱいになったぜ! オーディエンス! 筋肉少女帯と来世でもまた会おう!”と、待ちかねた「サンフランシスコ」で別れを告げる。最後は特攻服を羽織り、一本指を立てて“Future!”と叫んだ大槻。そこにはどんな欠落を抱えた人間でも未来を、それがたとえ来世だとしても夢見ていいのだという“愛”が、間違いなくあふれていた。

ツアーはその後、大阪を回り、12月10日にマイナビBLITZ赤坂で終幕。12月23日には恵比寿LIQUIDROOMで2017年最後のライヴを、1月20日には新宿BLAZEでファンクラブ限定公演を行なうという。活動再開から丸11年を経て、2018年には遂にデビュー30周年を迎える彼ら。その先に待ち受ける“Future!”に自分自身の未来を重ね合わせることができれば、これほど幸せなことはないだろう。

撮影:金丸雅代/取材:清水素子

筋肉少女帯

キンニクショウジョタイ:1982年に中学の同級生だった大槻ケンヂと内田雄一郎を中心に結成。インディーズでの活動を経て、88年にメジャーデビュー。不条理で幻想的な詩世界と、卓越した演奏力が高次に融合する独自の世界は、日本ロック史上に際立った異彩を放ち、その名を残すことになる。98年に活動凍結。各ソロ活動を経て、06年に大槻・内田・橘高・本城の4人で活動を再開し、『FUJI ROCK FESTIVAL』『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』といった大型イベントへの出演他、精力的なライヴ活動を展開。16年には『再結成10周年 パーフェクトベスト+2』を発売した。