2016年末にメジャーデビューを発表したクアイフ(Qaijff)のインディー最後のワンマンツアー東京編。“next for the future”というタイトル、そしてリリースに伴うツアーではないこともあり、どんなライヴを観せてくれるのか。いつも以上に楽しみだった。
SEが鳴り止んだ瞬間、《なんのために生きてるのか わからなくなった夜に 声を殺し泣いていても 届くわけないんだ》と森 彩乃(Vo&Pf)が歌い出す。幕明けの「meaning of me」にはクアイフの未来へ対する覚悟や決意があって、言葉のひとつひとつが一段と凛々しい。内田旭彦(Ba)と三輪幸宏(Dr)も歌をさらに引き立たせるアンサンブルを意識している感じで、3人のテクニックよりも森の声が粒立ち良く耳に入ってくることに驚かされた。自分たちの音楽をもっと届けたい。もっとポップに聴かせたい。そんな想いがこの日の息が合った、訴求力あるステージにつながっていたのだと思う。
また、「hello world」や「universe」では、今生きている世界について、その混沌とした世界で描く未来について、閃光のような疾走感あふれる演奏を通して考えさせてくれた。「snow traveler」にしても、聴き手の脳裏に景色をぱあっと思い浮かばせ、それを感じながらライヴが楽しめるというか、クアイフの曲にはそうした奥行きがある。「Re:Answer」になれば、内田がアコギを弾いてやわらかな音色を取り入れ、ポップス的な調和を図れたりもするなど、絶賛進化中のバンドなだけに今後ますます期待してしまう。
ポップになったからと言って、エモーションや前衛性はまったく失われていない。むしろ、メリハリが利いたことで、3人はよりダイナミックに活き活きと演奏している。不穏なイントロを加えた「ピラミッドを崩せ」では三輪の荒々しい連打が際立っていたり、インスト曲「MUSIC」では内田のリズミカルなベースラインに合わせて森が意表を突く音を重ねてみたり。プログレッシブに行く時はそっちに振り切れるのが強い。
待望の新曲も中盤で聴くことができた。“未来は私たちの手の中にあります!”という森の紹介で始まった、流れるようなピアノのメロディーとタフに駆けるビート、視界良好なサビが耳に残るナンバーは、クアイフ節がありながらも新鮮で、サッカーで言うなら弾丸ボレーみたいに爽快! 間違いなくメジャーシーンに切り込んでいける曲に仕上がると思うので、音源化を楽しみに待ちたい。
内田と三輪がステージを一旦降りて、森がひとりでMCをする場面もあった。語られたのは、クアイフを組む前に彼女がヴォーカル&ギターとしてバンドをやっていた時のこと、同バンドでの初めての東京ライヴがO-Crestだったこと、そこで緊張しすぎてギターの弦が切れてどうすればいいかわからなくなってしまったこと、その終演後に悔しさのあまり号泣したこと。そして今、内田と三輪に出会えてクアイフをやれている喜び、その中で変わっていけたこと、一方で活動6年目を迎えてこそわかる変わらないものの大切さ、だった。これまでの歩みをありのまま話したあと、森はクアイフ初期のナンバー「変わって」をピアノ弾き語りのソロで披露。“曲を作った当時も今もそう思う”という進化して変わっていきたい想いを改めて示すとともに、情熱的な歌唱で観客を魅了した。
恒例となっているDJのYU!YU!YUKIHIROによる盛り上げはもちろん、この日は三輪のドラムソロも会場を大いに沸かせた。持ち前の剛腕を活かした強く激しい叩打から、空振りを入れるエアパフォーマンスを交えた茶目っ気たっぷりのプレイまで、ちょっと照れくさそうにしながらも多彩に見せ、満員のファンを飽きさせずにライヴは終盤へ。
“クアイフは結成から丸5年経って6年目に入ってるんですけど、今日が本当に...めちゃくちゃ楽しいです。ありがとうございます”(三輪)
“セットリストは悩みまくってね。みんなのリクエストを全部やったら5時間くらいかかっちゃうんで(笑)。もっともっと大きなバンドになって、たくさん曲をやれるように頑張るので、これからも応援よろしくお願いします!”(内田)
“私たちクアイフの音楽が好きでこうやって観に来てくれるみなさんのことが、本当に愛おしくてしょうがないです”(森)
新曲でワクワクしたり、古い曲で新しさを感じたりするうち、あっと言う間に2時間が過ぎていた。ライヴごとにどんどん大きくなる「Don't Stop The Music」の合唱。このアンセムでもやはり《届いてよ》と歌っている。そして、アンコールのラストは「クロスハッチング」でこれまでに感謝しつつ、未来を描くこと、変わっていくことを誓う。そんなクアイフの次なる快進撃が、きっとここから始まる。