昨年末をもってバンドを解散させてソロに転身した彼女にとって、初となるソロでのワンマンツアーのファイナル。ステージの真ん中に置かれたギターを静かに肩にかけ、弾き語りで歌い始めたのは「はさみ」。曲が進むとギター、ベース、ドラムが加わり、音の厚みが増していき、1曲目から彼女の世界に飲み込まれる。チェロが響き、会場が粛然とした空気に包まれた「あしかせ」、ピュアな恋心が温かさを感じさせる「窓」、《二ヶ月前 手首を切りました 直前に彼氏を刺しました》と衝撃的な告白から始まる「ウェット」。伸びやかな歌声を聴かせたかと思えば感情的に叫んだりと、多彩さも滲み出る。思わず涙腺を緩ませられるようなメッセージ性の強い楽曲を際立たせる表現力だけではなく、ステージ上で髪の毛を赤く染め上げたりと視覚的なエンターテインメント性にも富んでいるのも特筆すべきところ。そして、“退屈な日々を蹴散らしていこう!”と勇ましく進み続ける決意表明を告げると、黒木渚の新しい代表曲とも言える「革命」では《気高く生きよ》と揚々と歌い上げた。
アンコールで、4月にアルバム『標本箱』をリリースし、今回のワンマンツアーを回り、“やはりバンドの解散という選択は間違っていなかった”と語った黒木渚。“最後は私の始まりの曲”と「あたしの心臓あげる」をしなやかに力強く歌い上げる。その姿には“黒木渚”としてのただならぬ決意と風格を感じた。より心に訴えかけてくる堂々としたライヴを魅せつけられたことによって、終演後はその余韻に浸るというよりも、ようやく胸のつかえが取れたような気がしたのは私だけではないはず。