昨年デビュー5周年の節目は、自らの活動を省みるため、立ち止まり、振り返る機会でもあった。同時に、東日本大震災があまりに大きな惨事であったため、音を鳴らす側も、受け取る側も、その動きが止まってしまうかのように思えた。しかし、中村にとって(これは、人々にとっても同じだと信じているが)「音楽」は、空気や光のように、生きる為には必要不可欠なもの。再びそれらを動かす為に、深呼吸=「脱力」をする事で、生きていくための術、「音楽」の価値を再確認した。
この「脱力」が、人生の様々な場面で意外にも重要なエッセンスであることに気がつく。しかし、その重要性は人生におけるアップダウンを重ねた者でなければ実感ができない。それは現代社会における人間のあり方に似てはいないか。私たちが生きてきた「時間」を見つめ直すことが、このアルバムのテーマなのだと思う。不透明な未来、窮屈な現在、後悔だらけの過去、どの「時間」にも形を変えて現れる“心の闇”にフォーカスしながら、この物語の終点でもある“闇のまん中”で聞こえる「何か」に、私たちは再生する術を見いだすことになるだろう。
サウンド面では「これまでの作り方にこだわらない」ことを意識したという。スタジオワークについても「喧々諤々とするのはイヤだ。ヒリヒリ、とか心の叫び、とかそういうものは作品だけに出ればいい」という中村が今作のプロデューサーに、ベテラン笹路正徳氏と出会えたのは、幸運なことだ。バリエーションが豊かになり、肩の力が抜けた印象を受けるが、各曲のイメージはより鮮明に表現されている。
さらに、5月4日からは新作リリースにあわせたアコースティックツアー「中村 中 アコースティックツアー2012 阿漕な旅 〜未来に宛てた手紙〜」が開催。千葉市文化センターアートホールを皮切りに、全国22会場で実施される。詳細はオフィシャルサイト「中屋」(あたりや)をチェックしてほしい。
◆「聞こえる」album
2012年4月18日発売
YCCW-10170
¥3,000(税込)