春に薄氷

ひとひらの風が吹き抜ける予感
空は高く 朝日は艶めく
木枠の窓際 静かに結露する
季節は今 変わるのだろう

私は変わらず此処で
変わらぬ命で
あなたを思い惚けて
巡る春を信じている

もう一度生まれて もう一度探して
もう一度出会い 恋をして
綻ぶこの身を全て捧げて
何度も あなたに恋しにゆく

ひとつぶの光 テーブルの上の
瓶を透かして ぬるめき微睡む
舌を転がってく 甘くてだるい
修道女たちの飴玉の味

忽ち香る 春が吹き込む命よ
記憶はいつも匂いが 思い出させるのでしょう

季節が満ちては 鼻先に宿る
それはあなたが愛した地球を
柔らかい宇宙へ埋める行為と
同じ優しさを携える

ユズリハの木から
揺れ降り立った 美しい露が
背を返した風景の視軸を
見失わぬように

漏れ入る光が私を ゆり起こしている
どうかあなたが地球に
救われますように

余りの懐かしさに涙が溢れて
神様の国で 愛しいひとと
ゆっくり落ちたいの 幸福の底へ
何度も あなたに

もう一度生まれて もう一度探して
もう二度とこの眼を離さないで
これ以上の喜びを知ることは無い
何度も 私に恋しに来て
×