その魔王殿は悲しい程にルルルルル─。

少年が受けた母性は見知らぬ顔の付与だった。
了解のないメスは浅ましく美を連れてきた。

若者は少女のようにも見える。

さぁ魔王の物語は今、華を喪い無力を描く。
そう、甘い香料を漂わす。
散らかった部屋に一人きりで。
ルルルルルルル。
ルルルルルルル。
子守唄のない夜の中で、口紅はよく似合っていた。

ピアス、タトゥー、美しい傷を作る。
だけど傷心は美しくなかった。

若者は飢餓を覚えていた。
何かを求めて飢えていた。
その飢えの正体は、そう、少年に顔を与えた母性。
真っ赤に染めた唇から「あの女」と呟いた。
若者を塗り上げる幼気な少女の顔で。

正しい感情をきっと求めているだけなのだ。

めまぐるしい思い出を摘んで鏡の自分に押し付ける。
苛立ちの中に潜んでいる、言葉にならない気持ちがある。

さぁ魔王の物語は今夜、虚しさを連れて華を折る。
少年の傷を庇うように、その虚しさの中へ逃げる。
それは只、甘えたい子供だった。
答えを知らない子供なのだ。
さぁ魔王の物語は今、少年の為だけに描かれる。

ルルルルルルル。
ルルルルルルル。
子守唄の代わりに歌うのは、寂しくて孤独な歌。

ンシ・ノ・クガ・ヤミ・イマ。
ンシ・ノ・クガ・ヤミ・イマ。
夜を生きる魔王と化す。

He lives in the 魔王殿。
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