からたち日記

こころで好きと 叫んでも
口ではいえず たゞあの人と
小さな傘を かたむけた
ああ あの日は雨
雨の小径に 白い仄かな
からたち からたち からたちの花

幸福になろうね あの人は言いました
わたしは小さく うなずいただけで
胸がいっぱいでした

くちづけすらの 思い出も
のこしてくれず 去りゆく影よ
単衣の袖を かみしめた
ああ あの夜は霧
霧の小径に 泣いて散る散る
からたち からたち からたちの花

このまま別れてしまってもいいの
でもあの人は さみしそうに目をふせて
それから 思いきるように
霧の中へ消えてゆきました さよなら初恋
からたちの花が 散る夜でした

からたちの実が みのっても
別れた人は もう帰らない
乙女の胸の 奥ふかく
ああ 過ぎゆく風
風の小径に いまは遥かな
からたち からたち からたちの花

いつか秋になり からたちには
黄色の実がたくさんみのりました
今日もまた 私はひとりこの道を歩くのです
きっとあの人が帰ってきそうな
そんな気がして
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