男の花道~玄碩と歌右衛門

舞台は役者の 命でも
捨てねばならない 時がある
義理ある方の 頼みなら
芝居の幕を 降ろしても
行かにゃならない 男道

「皆々様に この歌右衛門 一生のお願いがございます。
狂言中半(なか)ばではございますが、
私めが一生かけても返せない、
恩ある方の死ぬか生きるかの瀬戸際でございます。
私が行かねば、その方は腹を切らねばなりませぬ。
無理を承知のお願いでございます。
どうぞ この歌右衛門にひと刻(とき)、
いや半刻(はんとき)のお暇を下さりませ 皆々様!」

大江戸下(くだ)りの 道中で
病気(やまい)に倒れた 草枕
お世話になった 医者様(せんせい)の
御思を秤に かけたなら
千両箱より なお重い

「玄碩(げんせき)先生!
歌右衛門 只今 参上いたしました。
役者の芸は舞台の上で見せるもの、
お座敷芸はご法度と心に誓った封印破って
一節(ひとふし)舞う、これが歌右衛門の一世一代の
花道でございます。」

紙には書いては ないけれど
守らにゃならない 約定(やくじょう)は
ようやく果たす 恩返し
命を賭けて 踏みまする
晴れの男の 花道を
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